5.プレイヤーとの交流 24
食堂に入ると、半分くらいしかまだ集まってなかった。先に食堂にいたコウさんが「やぁ」と手を上げて挨拶してくれたので、小さく会釈してみせると、隣に座ってたカチュさんが驚いたようにコウさんを見た。
「あら、虹とカナカさんは仲良くなられたんです?」
「さっきちょっとだけ話をしたのさ」
そう会話してる様子を横目に、疲れたように頬杖をついてるカササギさんの隣に腰を下ろす。手のひらの上のニニはまだ眠そうに頭をふらふらとさせてるから、テーブルの中央くらいにそっとおいてやると、また横になってプゥプゥ寝息を立て始めた。
「あら、ニニさんはお眠ですか?」
「さっき、僕が作ってるとこ見てるうちに寝たみたい」
「かわいらしい寝顔だねぇ」
みんなに見られてるけど、ニニは起きる気配がないからとりあえずそのままにしておいて、ちらっとカササギさんを見れば、カササギさんも少し眠そうな顔をしてた。
そういえば、カササギさんはなにしてたんだろう。まあ、昼寝してたとかそういうわけじゃなさそうだけど。
「カナくん、作業は進んだ?」
「ん。ちょっとだけ」
「まだ時間はあるから根を詰めないで、夜はちゃんとベッドで寝るようにね」
「ん」
カササギさんの注意を聞きながらして、じっとニニを見る。今から寝てて、ニニは夜寝れるのかな。っていうか夜寝るのかな。かーばんくるって動物の生態の説明書きとかどっかにないかな。
「みんな。ほかの連中は間に合わないみたいだから、ここにいるメンバーで先に食べるよ」
両手にお皿を何枚も抱えた真鯛の刺身さんが、食堂に入ってくるなりそういいながらお皿を今いる人の前に配膳してくれる。自分の前に配膳されたお皿を見て、自分とほかの人に配られている料理の大きさが違うことに気が付いた。
今回はオムライスで、自分の前のお皿にはお皿の半分くらいのオムライスと、その周囲に少し小さめにカットされた温野菜の付け合わせが綺麗に並べられてる。たぶん美味しそうな盛り付けなんだと思う。
ほかの人は、女性陣も含めて全員お皿の八割を占める大きさのオムライスに、少し大きめにカットされた温野菜が山のように載せられてて、さらに一口大のコロコロとしたカットステーキみたいなのが盛られたお皿も配膳されてる。
「あ、カナカくんもお肉食べたくなったら遠慮なく言っていいよ。いない連中の分のけてもまだまだ準備してあるからね」
ほかの人のお皿と自分のお皿を見比べてるのに気づいたのか、真鯛の刺身さんがそう声をかけてくれる。その気遣いに、首を振って「大丈夫」と答え、配膳されたカトラリーを手にした。
オムライスにたっぷりとかけられているのは、ケチャップじゃなくて、茶色いソースと白いソースがかかってる。ソースの色が違うのは何だろうと思ったけど、それぞれがかかっている場所を掬って口に入れると、全然違う味が口の中に広がる。下のオムライスの部分は変わらないのに、ソースでまったく違う感覚が広がるのはすごいなと思った。
「カナくん、白いのと茶色いの混ざったとこも食べてごらん」
隣のカササギさんにそう言われて、中央部分の二色が混ざってる部分にカトラリーを差し込む。このソース二種類って混ぜていいものなのかな。でも、カササギさんが指示してるってことは混ぜてもいいってことだよね。
カトラリーで掬い上げたオムライスは、二種類のソースが混ざっていて薄い茶色に染まっている。それをゆっくりと口の中に入れると、それぞれだけがかかっていた時とも違う感覚が広がっていった。
「ブラウンソースとホワイトソース混ぜるってどうなんだって最初は思ってたけど、案外悪くないって気づかされたよね」
「あたくしも初めての時は驚きましたけれど、真鯛に作っていただいているんですから、食べないわけにもいきませんし」
「ふぅん? 次のPvイベの時は空腹でスキル使えなくなっても知らないからね」
「食べないなんて言ってませんでしょ!?」
ソースのことでコウさんとカチュさんが話していたところに、すっと目を細めて真鯛の刺身さんが突っ込めば、直前の発言をしていたカチュさんが冷や汗をかきながら否定している。その様子にカササギさんがけらけらと笑うので、この光景はいつものことなんだろう。
「キュイ~」
そんな風にほかの人たちがわいわいと騒ぎながら食べているうちに、ニニが目を覚ましたみたいで、相変わらず頭をふらふらとさせながら上体を起こしてる。
「起きた? おなかすいてる?」
「キュキュ~」
温野菜を掬ってたカトラリーを置いて、ふらつくニニの頭を指先で抑えながら聞いてみると、ニニはお腹がすいてないのか鳴きながら首を横に振った。なら自分は食べるかとカトラリーを持ち直したところで、ニニがきゅっとカトラリーを持つ手を握ってくる。
「……? なに?」
「キュイッ! キュキュキュィ?」
「これが気になるの?」
「キュイィ!」
こくこくと頷くニニに、カトラリーに乗せた野菜を見る。小さくコロコロとした形をしているオレンジ色の野菜は、たぶん人参だと思う。たぶん。真鯛の刺身さんがやわらかくしてくれてるけど。
「やわらかい人参だよ」
「キュイッ!? キュキュ!?」
「……? 自分の知ってる人参じゃないって言いたいの?」
「キュイッ!」
こくこくと頷きながらじっとソースを絡められた人参のかけらを見てるので、ニニの口元にカトラリーを寄せてみる。
「食べてみる?」
「……キュ、イッ」
ちょっとの間人参をじーっと見ていたニニは、意を決したように一つ頷くと、カトラリーの上の人参にかじりついた。さすがにニニの口には大きいので、カトラリーにちょこんとのってる人参の端っこがほんの少しかじり取られただけだった。
人間だったらたぶんすごいしかめっ面をしてるんだろうなっていうくらいの渋い顔でもぐもぐとしていたんだけど、徐々にニニの顔がほころんできて、食べ終わったのかな。もぐもぐが終わったらぱぁっと顔を輝かせて、「キュキュイッ! キュキュ、キュイッ、キュイーッ」と大声で鳴いた。手足もバタバタとばたつかせながらのそれに、どうしたんだろうと思ったら、隣でこっちをみていたらしいカササギさんがけらけら笑った。
「おいしいをそこまで大きく表現できるってすごいねぇ」
「……おいしい」
「キュイーッ」
カササギさんの言葉に同意するように何度も頷いたニニは、そのままカトラリーの上の人参にかじりつく。ちょっとずつ減っていく人参を見ながら、さっき食べた人参の味を思い出そうとしたけど、よくわからなかった。
「はい、ニニくんがまだ食べるなら、このお皿からどうぞ」
いつの間にか真鯛の刺身さんが小さなお皿を持ってきていて、そこには自分のお皿のよりも小さくカットされた温野菜をいくつかのせてニニの前においてくれた。
こっちのカトラリーからかじってたニニは、自分用に用意された野菜に嬉しそうに鳴き声を上げ、カトラリーの上のもそのお皿に乗せろと言わんばかりのジェスチャーをする。
ニニのかじりかけを小さなお皿にのせてやると、ニニは顔を突っ込むように野菜にかじりついていったので、よっぽど気に入ったのかもしれない。
ニニが必死に食べる様子を少しの間見ていたら、カササギさんに「食べないと終わらないよ」と自分のお皿を示されて見れば、まだオムライスも付け合わせも半分以上が残っていて、慌てて自分の食事を再開した。




