5.プレイヤーとの交流 21
[とあるプレイヤーが、ワールドで初めて幻獣の使役化に成功いたしました。ワールドクエストが一部進行いたします。]
突然、頭の中に反響するように、男とも女とも判別のつかない不思議な声が聞こえて、思わずびくっと体が震えた。それに、かーばんくるは驚いたのか、こっちを窺うように見てくる。
「やっぱWAだよねぇ」
「っはー、幻獣テイミングktkr!!!」
きゃっほーいと人の周りをぐるぐると走り回る最中食べたいさんを、疲れた顔で「こら、落ち着け!!」と追いかけまわすジンジャーマンクッキーさん。カササギさんは呆れた顔をしながら、片手で顔を覆ってる。
わーるどあなうんすって、さっきの声のことかな。初めて聞いたけど、ちょっと気持ち悪かった。
「カナカさん、カーバンクルに名前を付けて差し上げては?」
「……名前?」
「はい。使役獣には命名すること必須と言われておりますし、カーバンクルも待っているようですよ」
カチュさんにそう言われてかーばんくるをみると、なんだかきらきらとした目でこっちを見上げていた。期待してる雰囲気がバシバシ感じられる視線に、名前を付けるってどうすればいいんだろうと思う。
ひとまずかーばんくるを見る。イメージするリスと似たような、茶色みのある毛皮。額にくっついてるっぽい石は、きらきらと赤く光ってて、ルビーみたいだ。
そのままならルビーって呼ぶ? でも石が本体じゃなくって、その下のリスみたいなとこが本体だよね、たぶん。なら石の名前で呼ぶのってどうなのかな。あと、なんかこいつルビーって感じしないし。
名前を付けるのってすごく大変な気がする。大体、このゲームで呼ばれてる「カナカ」って名前だって、なんかそんな名前のセミがいた気がするってだけだった。あの後確認したら、「カナカナゼミ」って名前のセミはいなかった。なんでそんなセミがいるって思ったのか、自分でもわかんない。
自分の使役獣、とりあえずペットみたいなもんなのかな。だったら自分の名前と似た系統だと名前つけるの楽かな。そうなるとセミの名前になるんだけど、セミかぁ。改めて確認した時に、セミって想像してたよりいっぱいいるんだなって思ったんだよね。
鳴き声を聞いたことがあるのはニイニイゼミとミンミンゼミくらいだけど。ほかにも種類はいくつかあったけど、パッと出てきたのがこの二種類で、だったらこの二種類のどっちかでいいかなって感じちゃった。
ニイニイゼミとミンミンゼミかぁ……。セミとはつけたくないし、だとしたらニイニイかミンミン……? どっちも微妙じゃない? ニイでもミンでもなんだかなって感じるし。あとは、ニニとかミミ……? それなら……。
「……ニニ」
小さな声でそうつぶやくと、かーばんくるはそれが自分の名前だって思ったみたいで、嬉しそうにこっちの指先に頭突きしてきた。小さな手? 前足? で指先をぎゅっと抱きしめながら、「キュ、キュ~イッ」と何度も鳴く。
それが、うれしいって言ってるように聞こえて、かーばんくる……ニニの頭をつかまれてない方の手でゆっくりと撫でた。
それから、ニニは何を食べるんだろうと疑問がわいてくる。生き物は食べて生きていくから、かーばんくるのニニも何かを食べてエネルギーにするはずだ。
若干、イベントに参加するまでは別に何も食べなくても平気だったような気がするけど、とりあえずイベント中は三食きっちり食べさせられそうな予感だけはしてるので、とりあえずニニの食事は何になるのかが木に成った。HELPにのってるかもわからないけど、とりあえず本人に聞いてみよう。
「ねえ、お前は何を食べるの? 僕がとってこれるものだといいんだけど」
一応、虫とかでも何とか対応できるけど、別に虫が好きなわけじゃないから昆虫じゃないといいなと思いながらニニに尋ねると、ニニはきょとんとした様子を見せてから、小さく「キュイッ」と鳴いて首を横に振った。
……食事はいらないってことなのかな。よくわからなくてニニを見てると、ニニはつかんでいたこちらの指先を口に含んで、そのまま軽く歯を立てられたような感覚がある。
その瞬間、指先から何かがちゅーっと吸い上げられるような感覚があって、数秒そのまま様子を見てると、ぷはっとニニが人の指先から口を離す。
その様子は満足げで、どことなく毛皮もつややかになっているようにも感じた。なんとなく直感で、これがニニの食事になるのかと納得する。
「足りた?」
「キュ~イッ」
肯定と思われる返事が返ってきたので、もう一度指先でニニの頭をなぜる。
「幻獣のエサは何だってこと? 契約者の生気か何かを吸ってる? 幻獣全部が同じなの? 吸われた後の契約者の五体状況は? あ~~~~、新しい発見しかない!!」
「最中、いい加減に、しろっ!!」
突然耳の近くで聞こえた声に驚いて肩を震わせると、その直後に鈍い殴打音と、何かが落ちたような音が響いた。
そろそろと声が聞こえてきた左斜め後方のあたりを見ると、木製なのか金属製なのかよくわからない、とりあえずそこそこ太さのあるたぶん鈍器を振り下ろした様子のジンジャーマンクッキーさんと、たぶん、ジンジャーマンクッキーさんが鈍器で殴打したと思われる、頭部におおきなたんこぶを作って地面に横たわってピクリとも動かない最中食べたいさんがいた。
……状況からみて、さっきの声は最中食べたいさんだったんだろうけど、えっと、これはどうすればいいんだろう?
『おーい、お出かけ組。拠点前まで帰ってきて何やってんだい! さっさと食堂に集合しな、ちょっと遅いけどお昼ご飯にするよ!』
パーティーチャットで、真鯛の刺身さんからそう声掛けがある。どうしようかなと思ってカササギさんを見たら、呆れたような顔をして「最中と生姜はそのままにして食堂いこっか」といわれたので、とりあえずそのまま食堂に行くことにした。




