5.プレイヤーとの交流 20
「カナくん! もう、一人でどっか行っちゃだめだろう?」
こっちに気づいたカササギさんがそう少し強めの口調で話しかけてくる。
「僕のこと放置してたのはそっちでしょ」
「いや、それは悪かったと思うけど……」
こっちが指摘すれば、カササギさんはバツが悪そうにしてる。まあ、それはそうだよね、二人で忙しそうにしてたからこっちは暇してたんだし。
「それはすみませんでした。でも、どちらに行かれていたんです?」
カチュさんが申し訳なさそうに頭を下げてから、そう聞いてくる。それに、こちらもちょっと困った。どこと言われても、あそこがどこだったのか、自分自身も実は知らないので。
知ってるのはこの肩に乗ってるリスみたいなのだけど、聞いてもわかんないだろうな。多分、リスみたいなのの方は普通に答えてくれるんじゃないかと思うけど、こっちがその返答を理解できない意味で。でもまあ、聞いてみるだけ聞いてみるか。
「ねぇ、あそこってどこなの?」
「キュッ、キューキュ、キュキューイッ!」
ぶんぶんと小さな両手を振ったり広げたりして、たぶん答えてくれてるらしいリスみたいなの。でも、やっぱりなんて言ってるのかは読み取れなくて、「やっぱわかんないね」と、返答してくれたリスみたいなのの頭を指先で押さえて、少しだけ指先を動かしてなでる。
感謝はしてるけど、このリスみたいなのにどうやって感謝すればいいかわからなかったから、とりあえずなでることにした。そしたら、リスみたいなのはそれを堪能するように身じろぎをやめた。
「……お前、なでられるのが好きなの?」
「キュイッ」
「ん~、嫌がってはなさそうだし、好きならもっと早くなでればよかった。ありがとうね」
「キュキュイーっ」
なんかとろんとしたように見える表情で頷いて、まだなでろと言わんばかりにこちらの指先を押さえてくるので、好きなんだと判断して、リスみたいなのの頭を繰り返しなでる。
手のひらを頭を覆ってなでてやるほうがいいのかもしれないけど、リスみたいなのは小さいから力加減を間違ったら嫌で、耳と耳の間で、額についた石に触らない狭い範囲をなでるなら指先で十分だった。
少しの間リスみたいなのをなでていたけど、なんかやけにカササギさんたちが静かだなと思ってそっちを見たら、カササギさんとカチュさんがそろってぽかんとした顔でこっちを見てる。カチュさんは会ったばっかりだからアレだけど、カササギさんがこんな表情するなんて珍しい。
「どうしたの?」
「どうしたのって……カナくん、その肩の……」
カササギさんにそう言われて、自分が動物を連れてたからびっくりしてたのか、と納得した。動物に好かれるタイプじゃないしね。
「このリスみたいなの? 暇でこの辺の木を伐採してた時に、木から飛んできた。受け止めて地面に下したんだけど、なんか登ってくるからここに乗せてる」
こっちがそう答えると、なんでか二人は唖然とした表情で……たぶん、これはリスみたいなのを見てるっぽい。こいつ、なんか珍しいのかな。まあ、体に石が生えてるのは珍しいか。そう思って、そっとリスみたいなのを持ち上げる。
「そろそろ僕ら帰るから、お前もお帰り」
そう言いながらリスみたいなのを、乱暴にならないように地面に降ろしたんだけど、降ろした途端にリスみたいなのが人の足にしがみついてきて、勢いよく体を登ってくる。
「なに? お前も住処にお帰り」
なんで登ってくるのかわからなくて、もう一度地面に降ろそうとするけど、リスみたいなのはすごい勢いでイヤイヤと首を振りながら、人の指にしがみついてくる。絶対に離さないといわんばかりの勢いのその様子に、どうしようとカササギさんを見る。
すると、カササギさんは引きつった顔でリスみたいなのを見て、何かつぶやいていたみたいだけど、なんて言ってるのかは聞こえなかった。このリスみたいなののこと、カササギさんは知ってるのかな。
「ねえ、こいつどうしたらいい? 僕にしがみついてくるんだけど……」
「……ひとまず、拠点に一緒に連れて行ってはいかがでしょう? その子、カナカさんと離れたくないようですし」
「お前、僕と一緒に来る?」
カチュさんに言われて、リスみたいなのにそう聞いてみる。必死に手にしがみついてたリスみたいなのは、手にすりすりとすり寄りながら嬉しそうにしてるので、たぶん一緒に来たいんだと思う。
なんでこのリスみたいなのはついてきたいんだろうね。よくわからないけど、カチュさんが言ってくれるってことは、まあ連れて行っても迷惑にはならないってことなんだろう。
リスみたいなのをさっきまでずっと乗ってた肩口に乗せなおすと、また首元にトストスと頭突きを繰り返す。こいつ、本当に頭突き好きだなぁ。この頭突きってリスみたいなのの習性なのかな。
とりあえずくすぐったいからリスみたいなのの頭を指先で押さえて頭突きを止めてから、拠点に戻るために移動しようと思ってカササギさんたちを見たら、カササギさんが面白い顔してた。どういう感情なんだろう、この顔。
「戻るんじゃないの?」
「あ? あ、うん、そうだね。……ほんとにカナくんは目が離せないねぇ」
こっちから声をかけると、カササギさんは少しひきつった顔でそう呟いてから、また同じように先頭に立って進み始めたから、その背中についていく。後ろにはカチュさんがついてきてる足音。
肩にいるリスみたいなのは、何かが気になるのかちょいちょいカササギさんとカチュさんを見てスンスンと鼻を鳴らすような音をさせてるけど、それに合わせて頭突きをするので、頭突きされるたびに指先で押さえてたら、カチュさんの笑い声が聞こえた。
何度かそれを繰り返すうちに、気づけば拠点まで戻ってきていた。なんか出た時とちょっと違うような気がして周囲を見回したら、拠点の建物を建てた拓けた場所の端っこに山積みにされていたはずの、丸太の山がなくなっていた。
結構な量の丸太だったと思うけど、あんなにいっぱいどうしたんだろう。倉庫にでも入れたのかな。かばんに放り込んだだけの切り倒した木も、使い易い程度に加工しておかないと。
「おっかえり!! カーバンクル、マ? マ???」
周囲を見回してると、拠点から飛び出してきた最中食べたいさんがそう言ってあたりを走り回る。かーばんくるってなんだろう。びっくりするくらいの勢いで何かを探すように拠点周りを走り回っていたかと思うと、こっちを見て人の肩をつかみ、ぐいっと顔を近づけてくる。
こっちがぎょっとしているのも気にしない様子で、最中食べたいさんは肩口に乗ってるリスみたいなのを食い入るように凝視してる。ちょっと怖いし肩がつかまれてて体勢がキツいんだけど、最中食べたいさんはお構いなしというか気づいてないっぽい。リスみたいなのは怯えてるのか、若干毛が逆立ってる。
さすがにリスみたいなのがかわいそうで、最中食べたいさんを引きはがそうとするんだけど、この人以外と力が強いのか引きはがせない。うーん、関節キメて外すしかないかなと思ったところで、カササギさんが最中食べたいさんの頭をわし掴んで引きはがしてくれた。
「こら最中、カーバンクルが怯えてるでしょ。離れろ離れろ」
「やーぁだぁ! 幻獣! 幻獣がこんなに人間の近くにいるなんて初めてなんだから観察したい!!」
じたばたと暴れる最中食べたいさん。でも、カササギさんは最中食べたいさんを軽く引きはがした後、暴れる最中食べたい酸を後ろから羽交い絞めにしてもう一度こっちに近づけないようにしてる。最中食べたいさんがビチビチと水に挙げられた魚みたいに必死にもがいてるのに、最中食べたいさん、リスみたいなのにそんなに興味あるのかなとだけ感じた。
「……かーばんくる?」
「カナカさんの肩に乗ってる、その幻獣の種族名です。広義では額に宝石を持つ獣をさすことが多いのですが、この世界では基本的にリスににた姿のようですね」
「ふぅん。お前、かーばんくるっていうんだ」
確認のためにリスみたいなのもといかーばんくるの頭に指先を当てて声をかけると、かーばんくるは違うといいたいのか、イヤイヤという意味なのか、頭を左右に振った。
「……かーばんくるじゃないの?」
「え? いえ、この姿からカーバンクルで間違いないはずですけれど……」
「たぶん、使役獣になりたいんじゃないかな」
聞こえてきた声に顔を上げると、いつの間にか最中食べたいさんの頭をぺちぺちと叩きながらなだめてるジンジャーマンクッキーさんがいた。
しえきじゅうってなんだ? 疑問に感じてHELPを開こうとしたら、カチュさんが簡単に説明してくれた。
使役獣(って表記するらしい)は、魔物や幻獣、神獣と呼ばれる人間外の存在と契約をして、戦闘や生産などの手助けをしてくれるようにできるらしい。テイミングというスキルがあればそれができるらしい。
らしいっていうのは、テイミングというスキルを取得は誰でもできるそうなんだけど、実際にテイミングスキルが成功した例がないそうで、まずそもそも、魔物が人間に懐くこともなければ、幻獣や神獣と遭遇した人間もいないんだって。
……いないって、こいつはどうなの? 肩に乗って人の首に頭突きを繰り返してるかーばんくるを見れば、かーばんくるもどうしたの? といわんばかりにこっちを見てた。
「……お前、僕の使役獣になりたいの?」
まあ、本人の意思確認は必要だよね、と思ってかーばんくるにそう声をかけると、かーばんくるは嬉しそうに頭を上下に振った。あ、ほんとにそうなんだ。
どうしようと思って周囲を見回すけど、カササギさんも含めて、こっちを見てる人たちも期待したような様子でこっちを見てる。
これは、テイミングってスキルを使わなきゃだめだな。そう感じて、スキル取得画面からテイミングスキルを探して、SPを使用して取得する。
で、このスキルはどう使えばいいんだろう。そう思いながら、かーばんくるを見ながら、テイミングスキルを使いたいなと考えたところ、かーばんくるがかすかに光った。
それは、このかーばんくるに連れて行ってもらったあの森のような、ほのかな青白い光だった。その光は一瞬だったけど、なんとなく感覚で、自分とかーばんくるが何かでつながった、紐づいたような感覚を覚えた。




