5.プレイヤーとの交流 19
リスみたいなのはこっちがついてくるのを時々振り返って確認しながら、森の奥へ、奥へと進んでいく。足元に這う木の根に蹴躓かないようにだけ気を配りながら、リスみたいなのを追いかけるけど、明らかに歩幅はこっちが大きいはずなのに、人の手のひら位の大きさのリスみたいなのには全然追いつく気配がない。
どれくらい進んだかわからないけど、結構進んだところでリスみたいなのが立ち止まってこっちを振り返る。こちらが追いつくと、今度はどうぞいわんばかりに「キューイッ」と鳴いて首を振って、また人の足から体を登ってきた。
なんだろう、そんなに登りたい体してんのかな、と思いながら示された方を見て、無意識にほぅっと息がこぼれた。
「……すごい」
「キュッ、キューイッ」
そうだろうといわんばかりの鳴き声を聞きながら、周囲を見回す。
そこは、今まで見てきたののどれよりも大きな木が作った木陰の下に寄り添うように密集するそれよりも小ぶりな木々のトンネルだった。木枝や葉っぱで空は覆われているのに、小ぶりな木々の幹がどういう理屈かわからないけど、淡く青白く光ってるので、光源が確保されてる。
その木細い蔓のようなものが何本も連なって一つの幹になっていて、大きな木の根の上、けれどその大きな木の木枝の下を覆うような、ゆるい弧を描く不思議な生え方をしてる。
大きな木と発光する木の間には、人が三人くらいは余裕で通れるくらいの空間が広がっていて、その空間には覆いかぶさる木枝から落ちたと思われる木の葉や木の実がいくつも落ちていた。
その木の葉も木の実も、今まで見たことがない形や色をしていて、現実では絶対ありえないような光景だ。
「……これ、拾っちゃってもいいもんなの?」
ちゃっかりまた肩口まで登ってきて、人の首筋に頭突きを繰り返してきていたリスみたいなのにそう問いかけると、リスみたいなのは「キュイ」と一声鳴いて頷いた。
それがたぶん、いいよって意味なんだろうなと感じて、ひとまず屈んで足元にあるソレから拾い上げる。拾い上げたのは自分の手のひらより一回りほど小さいくらいの少し複雑な形をした、たぶん木の実だ。
なんでこんな形になった? って思うくらい不思議な形をしてて、下半分は三角錐で上半分は数本の蔓に分かれていて、その蔓がくるくると巻き付いている。その蔓の巻き付いてない部分だけ見ると、ハートの形にも見える。
こんな形の木の実、現実には多分ないよね。蔓部分はそこまで硬くないけど、三角錐の部分は結構固い。つかんだ感じ、どんぐりとかくらいの硬さだから、必要であればつぶして中身を取り出すこともできそう。
よく見たら、三角錐の部分もちょっと発光してる。これ、この外側の部分だけが光ってるのかな。この場所だと青みのある緑色に見えるんだけど、周囲が青白く光ってるからそう見えるのかもしれない。
「なんだろ、ほんのりあったかい気がする」
拾い上げたその不思議な形の木の実をかばんに入れたら、手のひらにほんのりと冷たい風が当たった、もう一つ同じ木の実を拾い上げてそのまま手のひらに載せてると、じんわりと暖かく感じる。
景色も含めて不思議だらけだなと思いながら、一つ一つ持ち上げてかばんに放り込む。
この木の実以外に、蔓のような発光している木の、何かの衝撃で折れ落ちただろう細枝を拾ったり、両手のひらよりも大きなひし形が八つ集まったような木の実や、くるくると丸く巻いている細長い落ち葉も拾い上げる。
こちらが木の実や枝、落ち葉などを拾い上げている間、リスみたいなのは変わらず人の肩口に乗って、人の首筋にぎゅっとつかまってた。時々リスみたいなののふかふかとしたしっぽが耳や首筋をくすぐって、くすぐったさに拾い上げたものを落としそうになって、リスみたいなのの頭を指先でちょっと強く押さえつける。そうしたら、なんでかリスみたいなのは嬉しそうに「キュ~イッ」と鳴くので、もしかして大分このリスみたいなのに好かれてるのかな、と思った。
リスみたいなのは、こちらが周辺のものを拾い集め終わったのを見ると、人の体を駆け下りて行って、「キュイっ」とこちらを先へと招き入れるように進んでいく。
なんとなく思ってたけど、たぶん、ここって普通は入れないとこで、あのリスみたいなのがこっちを招き入れてくれてるんだよね。自分が触れてもいい範囲はごくごく限られた範囲だけで、その範囲のものを取りつくしたら、次の場所へ入れてくれてる。
まあ、拾えてるものの形が変わってるのも、景色が現実味がないのもそうなんだけど、さっきの三角錐とハートの蔓の木の実を鑑定してさ、こんなこと書かれてたら、まあ理解できるよね。
ホッフヌング
性質:風属性 品質:A 平均売価:80,000B
とある聖域にしか生息していない樹木。
幻獣の許可を持つものしか採取の許されない。木材としては美しい木目をしており、硬度もそれなりにある。実の内部には蛍光塗料にできるわたがある。アクセサリー職人の素材として求められる。
聖域って何。幻獣の許可って何。訳が分からなかったけど、まあ文字通りの意味があるんだろうと思って、とりあえずリスみたいなのに招かれた場所にかがんで、その周囲の手の届く範囲のものを拾い上げるのを繰り返してる。
木の実や落ち葉の下は、大きな木の根が這っていて凸凹してるんだけど、リスみたいなのが、こちらがその場で静止していてもバランスが崩れないような、比較的かがんでその場で行動しやすい位置を選んで誘導してくれてる。
一度誘導して、その場所まで自分がたどり着くと、リスみたいなのは人の足から体を登って、肩口で頭突きを繰り返したり、首筋にぎゅっとしがみついたりしてる。
移動するたびにそれが繰り返されるから、何度目かの移動をしたら、そっとかがんでリスみたいなのに手を差し伸べる。リスみたいなのは不思議そうにしてたけど。
「お前、毎回上るときに足とかくすぐったいんだよ。ほら、おいで」
そう伝えてリスみたいなのを持ち上げて、そのまま自分でリスみたいなのを自分の肩口に乗せてやる。すると、リスみたいなのは少しの間びっくりした様子で硬直してたけど、すぐに気を取り直したのか、「キュキュッ! キュイ! キュキュイ~~ッ!」と甲高く鳴いて、人の首筋に今まで以上に激しく頭突きしてきた。
なんでこいつは毎回頭突きしてくるんだろう。よくわかんないなぁ。頭突きするのが好きなのかな。さすがに痛いから、また頭を押さえてやると、今度はぎゅっとしがみついてくる。それはそれでくすぐったいんだけど、まあいいかと思ってそのまままたかがんで周囲のものを拾い集める。
どれくらいそれを繰り返していたのか覚えてないけど、結構な回数、リスみたいなのを自分の肩口に乗せるのを繰り返してたら、耳元で焦ったようなカササギさんの声が聞こえてきた。
『カナくん! カナくん、今どこにいるの!?』
その声に、とりあえず今近くにあるのを拾いながら返事をする。
「あ、ようやく終わったの? 今、ちょっと離れたところで採取してるだけだよ」
『採取してるだけって……』
「終わったなら戻るよ。ちょっと待ってて」
カササギさんにそう言いながら、そういえばどうやって戻るんだろうと、ハッとして周囲を見回す。相変わらず、周囲はここにやってきた時と変わらず、大きな木と細い幹の発光してる木の間の空間の道しかない。
そもそも、どこから入ってきたんだろう。この空間に入ってきた時の入り口も見当たらない。あらまぁと思いながら、とりあえずここに連れてきてくれたリスみたいなのに尋ねてみる。
「ねぇ、元の場所に戻りたいんだけど、どうすればいい?」
リスみたいなのの頭を指先でつんつんと突きながら聞いてみると、リスみたいなのは「キュイッ」と一つ頷いて、肩口から降りてそのまま走っていく。
「今から戻る」
カササギさんにそれだけ返して、進んでいくリスみたいなのの背中を追いかける。相変わらず、歩幅が全然違うはずなのに、リスみたいなのには到底追いつけそうにない。見失わないように気を付けながら追いかけていくと、少し走ったところで周囲の景色が少し変わったような気がした。
そのまま走っていると、徐々に周囲の木が減っていく。そうして、リスみたいなのが急転換してこっちに向かって走ってきた。どうしたんだろうと思えば、リスみたいなのが急転換した当たりが拓けているように見える。
また足から登ってこようとしてるリスみたいなのに手を伸ばして、自分で肩口に乗せてやってからその拓けたところに足を踏み出すと、若干挙動不審な様子のカササギさんとカチュさんがそこにいた。




