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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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5.プレイヤーとの交流 13

 地下の倉庫に入って一つ一つ見たことがない素材を鑑定にかけていけば、いくつかの素材が使えそうだった。使えそうなのは、ちょっと硬めの木材と、鉱石や鉱物だ。でも、台座にするならもう少し硬い木材が欲しい。鉱石と鉱物の方はちょっと加工方法を練習するために使ってみたいけど、いきなり使うのもどうかと感じるので、できれば一度木材で作ってみたい。

 自分でむしってきた花や、木の蔓なんかは全くと言っていいほどなかったので、練習用や染色試作も考えるともうちょっとほしい。あと、見ていたら、フレシェバーン液の調合に必要な葉っぱもいくつか採取できることが分かった(倉庫にあった)から、一緒に取りたい。フレシェバーン液はいくらあってもいい。むしろいくらあっても足りなくなる。アメリーさんのとこでずっと買ってたけど、アメリーさんから「大量に使うなら自分で作りな」と調合についての本を売ってもらった。

 ……調合の本、持ってきてたっけ? フレシェバーン液は何回か作ったから覚えてるけど、他の染色関係の薬剤は覚えてないなぁ。……最中食べたいさん、毒とかも作るならそういう薬液も作れないのかなぁ。もし作れるなら、教えてもらえないかな。

「カナくん、何が必要だった?」

「もっと硬い木材欲しい。あと、ここに来る前通ったとこに生えてた花も欲しい。ついでにむしれるものもっとむしりたい」

「……そういえばこの地点に来るまでの間に、やたらその辺のモノ引きちぎってたねぇ」

「むしれるものはむしっておくのがいい」

 むしれるだけむしるのがいい。むしってアクセサリー作るのに使わなくても、アメリーさんがほとんど買い取ってくれるから、むしっても損にならないし。むしるのはずっとむしってられる。

()むのではなく、むしるんですか?」

「むしってる」

 カチュさんに不思議そうにされたけど、自分では特におかしいことを言ってるつもりはないんだけど、むしるんじゃないのか。つむってなんだ。カチュさんの疑問がよくわからなくてカササギさんを見るが、カササギさんは苦笑するだけして答えは教えてくれなかった。

「まあ、とりあえず集めに行くぞ。初期スポーン地ピン刺ししてないけど、まあ何とかなるだろ」

「初期、すぽーん、ち」

 またよくわからない単語が出てきた。なんかそれらしい単語あったかな。このゲームでよく使われてるドイツ語では思い当たる単語はないなぁ。Spann(シュパン)ならあるけど、張るとかつなぐとかの意味になるから、初期つなぐとかよくわかんないし。

「英語のspawn(スポーン)、産卵する・発生させるといった意味合いの言葉が、ゲーム用語として捜査キャラクターが最初にゲームマップに配置された場所を指す言葉になってますよ。同じように、一度倒れたキャラクターが再度発生することをrespawn(リスポーン)、敵対キャラクターを倒したのち再発生することをrepop(リポップ)とも言います。これは基本的にどのゲームでも利用されているゲーム用語に近いですね」

 言葉の意味が理解できていなかったことがカチュさんにも伝わってしまったみたいで、丁寧に解説してくれる。なるほど、このゲーム独特の用語じゃなくて、ゲーム共通の言葉なのか。英語で考えれば確かに理解できる。

 理解できたことを示すために、カチュさんに一つ大きく頷いて見せると、カチュさんは柔らかく笑いながら、「わからない単語は遠慮なく聞いてくださいませね」と言ってくれた。

 それにももう一度頷いて、カササギさんを先頭にして三人でうっそうと繁った森の中へと足を踏み出す。

 今回は木材も目的だから、周囲に生えている木にも鑑定をかけていく。モーガンの近くで見かけたことがある木もあれば、見たことのない木もいくつもあって、ちゃんと下の方にも目を通すけど、今のところ土台に使えそうな硬い木材は見当たらなかったから、足元とかでむしれるものをとりあえず手あたり次第手の届く範囲をむしっていく。

 全部かばんの中にぽんぽん放り込んでると、カチュさんがかばんをじっと見てくるけど、どうしたんだろう。

「いい感じの木材あった?」

「ううん。この辺、なんか芳香剤になるって感じの文章しかない」

「香木とかに使えるならそれはそれで使えるかもな」

「じゃあ、とりあえず枝もいでく」

 近場にあった、鑑定結果で香り高いって書いてあった木の枝を掴んでもぐ。やわらかめなその枝は、ちょっと引っ張っただけで簡単にもげたので、そのままかばんに放り込む。

 少しずつ進んでいく間に、一本だけ他と違う木があった。木肌が少し黒っぽいその木も鑑定してみる。


 ウゥンシュ

 性質:水属性 品質:C 平均売価:5B

 とある地域にしか生息していない草花。

 木肌は黒いが木材としては白めの色合いで、硬く、少々加工に技術が必要になる。アクセサリー職人の素材として求められる。


「あ、これ切りたい」

「あぁ、確かに見たことがない木だね」

「伐るからちょっと待ってて」

 カチュさんとカササギさんにそう声をかけて、かばんのなかに入れてあった伐採用の手斧を取り出す。

 このウゥンシュという木はそこまで太くないけど、どんな感じだろう。ひとまず、何度かやったことがあるとおり、まずは周囲を確認したうえで、木が倒れてもいい方向を決めて、そちらの方向から気湯予定縒る低い位置に、斧を振るう。何度か振るって、少しの隙間ができるようにしてから、逆側に戻って、今隙間を付けた位置よりも少し高い、本来切りたい位置に斧を振り下ろす。

 カーン、カーンと硬質な音が森の中に響くのを感じながら、何度も斧を振り下ろす。受け側の隙間を作るときも思ったけど、確かに硬い。なかなか深く入っていかない斧の刃先が若干もどかしく感じながら、姿勢を崩さず、同じ場所に刃先を振り下ろすのに集中する。

 数分か、数十分か。何度斧を振り下ろしたかわからないくらいに何度も振り下ろし、ようやくいい感じに入ったと思った瞬間に、ウゥンシュの木が奥へと緩く傾いていく。ミシミシと音を立てながら倒れていった木に、いつの間にかにじんでいた汗を拭いながら、斧を先にかばんに放り込む。若干の指先の痛みと痺れは、手ごわい木の伐採に比べれば軽いモノだったんじゃないだろうか。

 誰を巻き込むことなく、周辺の木々を巻き込みながら倒れたウゥンシュの木を追いかけて、っていうかこの木何気に背が高かったんだ、なんか3~4メートル先くらいまで倒れた衝撃で周りの木がボロボロになってんだけど……。

 ちゃんと上見てなかった。これ、次に切り倒す時はもうちょっと気をつけよ。そう考えながら、切った幹を持ち上げると、硬いのは密度が高いからなのか、結構重たい。小さく加工するのも一苦労しそうだなと思いつつ、かばんのふたを開けて、そこにするすると幹の切り口を押し当てて少し押し込む。想像より軽々とかばんに飲み込まれていく幹が若干恐怖をあおるけど、とりあえず前へ進みながら幹をかばんに収めていく。

 長い幹を持ち上げながらかばんに収めていくのに少し手間取ってると、後ろから追いかけてきたカササギさんが先に行って先端の方を持ち上げてくれたので、少し楽にかばんにしまうことができた。

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