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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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5.プレイヤーとの交流 11

 ノートを広げて見せ、「こんなのを作ろうかなって」と答えると、カチュさんもカササギさんも、何だったら食堂にいた他の人たちも全員が開いたノートを覗き込んでいた。いったいどうしたんだろうと思っていると、カササギさんが真剣な顔でこっちをみてくる。

「カナくん、これはどこの部位用のアクセサリーなの?」

「……どこの、部位?」

 よくわからなくて問い返すと、「あー、そうだった」とカササギさんがぼやく。

「これは、どこにつけることを想定してモノなの?」

「……これ?」

 カササギさんが指さしていたのは、先ほど描き上げたウチの一つで、アルフトラウムの花を中心に据えたデザインだ。アルフトラウムの花をメインにしているので、そこそこ大きいサイズになる。

「メインの花が僕の手のひら位の大きさがあるから、髪飾りかブローチ、ペンダントか……あとはキーホルダーみたいなチャーム系ににもできると思うけど」

「それって、加工によってどこにでも付けられるってこと?」

「……? 当り前じゃない。台座に必要な加工用の穴なんかをあけておけばいいだけなんだから」

 何を当たり前のことを言ってるんだろう? 台座を作るときに用途に合わせて必要な穴とかをあけておけばいいだけなのに。アクセサリー作成の入門書を見てわかったのは、どんなデザインだって、決まった用途でしか使えないということは一切ないということ。もちろん、自分の手のひら位の大きさのものをイヤリングのように耳から下げるのは難しいかもしれないけど、同じデザインでも中心にするものを変えてサイズを小さくすれば、それをイヤリングにすることもできる。

 これはどの分野の制作でもおなじなんじゃないだろうか。他の制作を中心に活動してる人を知らないから何とも言えないけど。

「カナくん。自分の常識は他人の非常識だよ」

「非常識の塊に言われても……」

 常識人って一番なのっちゃいけない人に言われてもなぁと言い返せば、カササギさん以外の人たちは「確かに」と頷いていて、カササギさんが「お前らなぁ」とぼやいてるけど、異論は言えないみたいだった。

「かわいいねぇ。髪飾りなら引っかかりづらそうだね」

 れるん。さんがノートを見ながらそうつぶやくので、まずは髪飾りから作ってみるかなと考えてると、「台座って何で作るんだ?」と四月朔日さんが訪ねてきた。

「金属がたぶん一番いいんだろうけど、まだ金属は厚かったことがないから、とりあえず木材で作ろうと思ってた」

「お、そうかい。炉の使い方とか、わかんないことがありゃ聞いてくれ。基本的には鍛冶用の工房にこもってるからな」

「ありがとうございます」

 四月朔日さんの言葉はありがたかった。炉に火を入れれば金属を加工できるのはわかるけど、どういう風にすればいいのかはわからなかったから。ここにいる間に、一回は学びに行ってみよう。

 そう考えたところで、どこからかカーンと小さな音が鳴った。何の音だろうと思ったら、蜩さんが走って食堂を出ていく。そのあとを、れるん。さんも追いかけて行って、他の人も少し緊張した様子で食堂の出入り口に目線を向けていて、状況がわかってないのは自分だけかと思いながら、他の人の邪魔にならないように周囲の様子を観察する。

 カササギさんも含めて、食堂にいた人たちはみんな、若干殺気立ってるように見えて、何かまずいことでも起きてるのかな、と思ったところで、れるん。さんが食堂に戻ってきた。

「スズメぇ。ここから一キロ先くらいに川があって、そこから水を拠点周りに引くつもりでいんだけど、この近くに同じようなこと考えて拠点作ろうとしてたアリスブルーの奴らが、同盟組んで噛ませてくれって来てる」

「アリスブルーって第四の街の「アリスブルーに誘われて」でOK?」

「OK」

 第四の街……。確か、いつもいるモーガンから南南東の方にある街だっけ。モーガンの南に第三の街があって、そこからもさらに南南東にある街だっけ。空間収納かばんに使った内布を作った、織物職人のハンナが住んでるトコだったはず。

 結構モーガンからは離れてるんだけど、アメリーさんがなんか偉い人で、すごいお世話になってるからって月一くらいの頻度でモーガンに来てるらしい。ナクタとヴェスパーは東西からの荷物の行き来のかなめになってて、ナクタは南方面に、ヴェスパーは北方面をになってるから、モーガンよりもいろいろ手に入りやすいよ、とは先日出会ったときにハンナから聞いた話だ。

 遠くの街にいる人たちも同じイベントに参加してるんだ。なんだか不思議な感じがする。

「アリスブルーは比較的穏健派だから同盟組んでもいいけど……ウチに今新人人見知りちゃんがいるからなぁ」

 ちらっとこちらを見てくるカササギさんに、誰が人見知りだと言いたくなったが、まあ、あんまり人と会話するのは得意な方ではないと思ってるけど、失礼じゃない?

「大丈夫よ、こっちもあくまで水を引くのに噛ませてほしいのと、敵対行動したくないだけだから」

 初めて聞く声が聞こえてそっちを見たら、れるん。さんの後ろから髪の長いきれいな女の人が食堂に入ってくる。その女の人は、こっちを見て一瞬驚いたように目を見開いたけど、すぐに気を取り直したのか、そのままカササギさんの方に近づいていく。

「川向こうに万華鏡(カレイドスコープ)の光(・レイ)も来ててねぇ。一応各街の自治組織を謳ってるからお互いドンパチしたくないし、中立の厨二病ともドンパチしたくないから、先にお互い手を出さない取り決めしておきたくてね」

「は? 万華鏡も来てんの。今回水辺あんまない感じなの?」

「偵察班の話だと、上流十キロ先に水源になる大き目の高台と湖があって、そこはさすがに侵入不可地域になってて、その湖から東西南北にそれぞれデカ目の川があるそうよ。ここの近くにあるのは湖から東に当たる川で、上流はちょっと魔物が強すぎて拠点化が不可能。ウチのあたりがナクタのギルドでもギリって感じ。あと、北にルージュ・ラ・ルージュ、西に天光の集いと雪花繚乱(せっかりょうらん)とグリード・グリードが三つ巴中。南は中小ギルドと、大型生産系ギルドのムサの指先がいるわ」

「……そこまで情報流してどうするつもり?」

「誠意のつもりよ。正直、どこの街の治安維持組織を自称するギルドも、アンタたち厨二病とだけは事を構えたくないの。これに関しては万華鏡も同意見だったわ」

「さよで?」

「さすがに万華鏡とウチが同時に来たら、アンタらももっと警戒するでしょ。だから、ウチと万華鏡が先に話し合って、ウチの方がアンタらの拠点に近いから、代表してやってきたってわけ」

「なるほどねぇ」

 傍から聞いてるだけで疲れる気がした。え、イベントのたびにこの人こんなことやってるの? なんかいくつも固有名詞っぽいものが出てるけど、何が何だかさっぱりわからない。

「まあ、こっちもデメリットはないからいいよ。あと、聞こえてただろうけどウチの新人は人見知りちゃんだから執拗にかまったりはやめたげてねん」

「ああ、わかっている。……おそらく、以前掲示板に目撃情報があった子だろうからな」

「ん? うちの子の目撃情報なんてあったの?」

「ああ、リアル一か月くらい前に、露天街で垢BAN間際の直結野郎に声掛けされていた目撃情報がな」

「まった、俺その話報告受けてませんけど? カナくん、寝る前にちょっとお話ししようか」

 カササギさんがこっちをまた見てきた。なんか前に聞いたことがある単語と、聞いたことがない単語が入り混じってるけど、リアル一か月くらい前が現実の時間で一か月くらい前って意味でいいなら、変な男に絡まれたことは、そういえばカササギさんに報告してなかった気がする。

 でも別にやり返してるし、言う必要ないと思うんだけどな。

 報告しなかったことについてどうやって説明しようかなと考えているうちに、あの女の人はいなくなってて、自室として設定した部屋のベッドの上に正座させられて、一時間カササギさんから説教をされる羽目になった。

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