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2.始まりの街 3

 露天街には多種多様なお店があった。食品や薬草? と呼ばれる草南下を売ってるところがあれば、ポーション? とかいう薬、らしいものを売ってる店もある。盾や剣みたいなのを売ってるところもあれば、アクセサリーや服を売ってる店もあった。

 生ものまで売ってるのかとは思ったけど、この露天街にある店は同じ店が一つもない。どの店も一畳くらいのスペースに敷布を広げ、思い思いのディスプレイをしている。鎧や服なんかはマネキンみたいなので飾ってたり、食品等は見本だけ出して後ろの在庫から品出ししたり、本なんかは平積みのところもある。

 なんていうか、露天主の性格が出るもんなんだなと思った。買いに来たわけではないから、人の流れに乗りながら脇の店を眺めて歩くだけでもいろんなものが見れてちょっと楽しい。なんだかお祭りみたいだな、なんて思ったけど、そもお祭りなんて遠目に眺めただけで行ったことなかったから、ほんとにこんな感じなのかは知らないけど。

 そうして眺めて回って、気になったのはきらびやかな「アクセサリー」だ。アクセサリーと服だけ、「見た目装備」と「実用装備」という表記がされていたのに気が付いた。前者はすごくきらびやかで、かわいらしかったりするものが多くて、後者はなんて言うか飾り気のないシンプルなものが多く見えた。

 ぐるりと露天街の通路を一周したところで、とりあえず人の流れから外れる。それから、いろいろHELPを調べたいから人気のない静かなところに行きたいと考えれば、地図がそのまま南を指している。マーカーにしたがって細い路地を通っていけば、何メートルもありそうなデカい石レンガの壁に突き当たった。その壁際は特に誰もいなくて、周囲をきょろりと見回しても人気がない。

「……ここでいっか」

 そっと壁に背中を預けて座り込み、HELPを開いて気になったことを一つ一つ調べていく。

 「GM」ゲームマスター、このオートラヴィーダを運営している会社の人が操るアバターで、違反者や迷惑行為を行うプレイヤーの処罰を行ったり、運営が主催のイベントの開催担当をしている。……ふぅ……ん? とりあえず、迷惑なことされたら訴える先ってことかな。

 「あかばん」……あれ、出てこないな。「あか」だと「アカウント」って出てきた。ああ、「あかばん」って二語以上の略語なのかな。「ばん」だとどうだろう。あ、でた。「BAN」、ああ、禁止って意味の英語か。お、載ってた。アカウントBANで、アカウント使用凍結の意味合いで使われてる、なるほど。つまりあの絡んできたやつはプレイヤーアカウントが使えない状態になったから消えたのか。納得。

 つぎは、「GMコール」……まあ、GMの単語から何となくわかってたけど、通報のことか。通報したいって思ったら「コール」ボタンが出るから、ボタンを押して開いた画面にどういう理由で通報したいのか理由を書く、と。急いでる場合は簡潔に書いてもOK。理由が書けたら通報対象を十秒通報したいと思いながら見つめれば通報できる、と。さっきは自分ではコールしてないから、近くにいた誰かがコールしてくれたってことか。感謝したいけど誰だかわかんないのか……。もし見つけることができたらお礼しよう。

 で、あとは、「見た目装備」と「実用装備」と……。うーん、出ない。今までゲームなんてやってこなかったから知らないことが多すぎるのは理解してるけど、もしかしてこの界隈ってスラング多いのかな。HELPはもうちょっと頑張って。

「……わからん」

 ぽちぽちとHELPを一覧まで開いてみるも、ぱっと求めている答えは出てこない。そのことから、たぶんこのゲーム独特の考え方とかスラングなんじゃなくて、「VRゲーム」という大きなくくりでの常識扱いなんだろうな、と考え付いた。

 考え付いたけど、わからないものはわからない。そういったん放置して、次のことを考える。

「……なんか、写真で見たフリーマーケットみたいに混沌としてたよな」

 降りかかる火の粉を払う程度はやるつもりだが、というか反射的に体が反応してしまうが、基本的には戦うことに基準を置いてゲームをするつもりはない。のんびりするならものづくりを、とHELPで出たからどんなものがあるのか見てきたわけだけど、想像以上にいろいろあった。

 全部が全部作れるものなのかはわからないけど、ものづくりするならどれだけスキルってあるんだろう。そう考えたら、スキル一覧が表示される。「○○作成」「○○生成」って名前のスキルめちゃくちゃ多い……。「薬剤生成」と「調合」と「薬効作成」ってなにがどう違うわけ?

「そもそも何を作る?」

 ものづくり、に括られるスキルはいっぱいある。でも、まずは何を作りたいのか決めないとだめだよね。そう思って、もう一度露天街のことを思い出す。

 本当にいろんなものがあった。あそこなら何でもあると思えるくらい様々なものがあった。あのきらきらしてたアクセサリーはかわいかった。ああいうものがあるというのは知っていたけど、遠目で見る女子の雑誌の写真か、移動の時に街で見かける女性のつけてるものくらいしか碌に見たことがない。

「……きらきらしてたな」

 どういう用途のものだかわからないけれど、そこそこ大きな銀色の輪っかにきれいな色のガラスなのか石なのか、何かがちりばめられたもの。おそらくイヤリングかピアスだと思うけど、雫のような形の小さな石やパーツのついていたもの。たぶん髪飾りだと思う金属製の花とそこにきらきらと光る不思議な欠片。

 ほとんど家と習い事の稽古場と学校を行き来するだけの日常。時々大会に連れていかれるときだけ乗る電車の中で、きゃらきゃら笑う女性と、髪から足の先までを光を反射するきらきらしたものとふわふわひらひらした服で着飾っているのを見かけた記憶。

 きらきらに興味を引かれたけど、そんなことを口にすれば何をされるかわからない、時代錯誤な両親。同じ習い事仲間が食べたと言っていたファーストフードが気になると口にしただけで何度も頬を張られて、真っ暗な部屋に閉じ込められた記憶もよみがえってきてそれを考えないようにするために明るい空を見上げて何度か深呼吸する。

 あのどうしようもない両親はここにはいない。なら、あの頃のきらきらを探してみてもいいかもしれない。

「……アクセサリー、って金属で作るのか? あと、あれは、石? ガラス?」

 そこまで考えて、現実にも存在していそうなのに自分の中にそういう知識が何一つないことに気づいてむなしくなった。それと同時に、だって仕方がないじゃないかという泣き声が頭の中で反響して、気持ちが悪くなってくる。

 もう一回深呼吸をして心を落ち着けるようにする。そのために、オートラヴィーダを進められたんじゃないか。知識がなくても、ここでその知識を学べばいい。どうせ当面現実ではまともに生活できないんだから、ここで現実で得られなかったものを少しずつでもいいから学べばいいんだ。

 気持ちをそう切り替えて、スキル一覧を眺める。まずはあのきらきらを探すのにアクセサリーを作ってみよう。それから、ほかに気になったことを一つ一つ知っていこう。で、アクセサリーを作るのに必要なのはどれだ。

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