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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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5.プレイヤーとの交流 5

「まず、このイベントはね、本当にサバイバルするだけのイベントなんだ。とはいっても、ここみたいなNPCもいない未開の地で長い時間を過ごすことになるから、とりあえず自分たちが安全に過ごすことができるセーフティエリアの確保から始めなきゃいけないんだけどね」

 意味が分からない。こちらがそう思ったのがわかったのか、カササギさんは苦笑をこぼしながら「ほんとそれだけなんだよね」とつぶやいた。

「今までにも同じ内容のイベントを何回かやってるんだけど、そのまんまでねぇ。特に提示される目的もなく、力を合わせて倒さなきゃいけない魔物がいるわけでもなく、本当にイベント期間中未開の地でセーフティエリアである拠点を作ったら、それ以外は採取したり出てくる魔物を倒したり位しかないんだよね」

「それってわざわざ参加する必要があるの?」

「一応、この空間で採取できるものは普段いる場所では手に入らないものもあるし、同じものでも品質が高いから意義はあるし、まあ、連続ログインに抵触せずに長期間没頭できるっていうのもあるよね」

 そういわれて、後者については納得できた。それをもってしても、イベントに意味を見出せなくて首をかしげてしまうが、カササギさんは「不思議だよね」というだけだった。

「で、この場所だけど、魔物もいるわけで、カナくんにはアクセサリーを作ってほしいんだよね。やっぱり耐性とか補助とかが欲しいからね」

 アクセサリーにそんなのあったっけ。と、自分で作ったアクセサリーの鑑定結果の文章を思い出したら、確かに何か「耐性」といった記載があったと思うけど、その耐性というのが何なのかがよくわかっていないので結局よくわからなかった。

「一応、このマップが解放された後に、作られたセーフティエリアがそのまま実装されることもあるから、パーティーによってはそのために拠点を作りこむところもあるね」

「……それで何かあるの?」

「いいや? ただ解放後のマップに自分たちで作った拠点があるってだけさ」

 やはり意味が分からない。解放後のマップに作った拠点があったからなんだというのだろう。理解できないが、これについてカササギさんはそれ以上は説明をするつもりはないようで、ニコニコと笑っているだけだった。

「ま、とりあえずカナくんはこの二週間は好きなようにアクセサリーを作ったり、一緒の拠点にいるメンツと少しは交流してくれればそれでいいから」

 あ、そう。よくわからないけど、とりあえず頷いて、ちらりと周りを見回すと、入門書などで見かけはしたけど、モーガンの街の近くには生えていなかった植物や、見かけたことのない植物があるのに気が付く。

 ちらりと少しだけカササギさんを見てから、そっと見かけたことのない植物や、図鑑で見た植物などをむしることにした。結局のところ、「初心者のマクラメアミュレット」以外に作ったのはかばんや巾着だけで、それ以外のアクセサリーはまだ作ったことがない。かばんのために枝などを使うことが増えて木材も扱うようになったが、まだまだだった。

 かばんの話がなければ、もう少しマクラメのアクセサリーを作ってみて、それから扱いさすそうな木材加工に進もうと考えていたのが、随分と想定とずれていたけど、この二週間を使っていいのなら、少しは想定の作業ができそうだ。

 時間をつぶすためにと入門書や図案集などの所持書籍は全部持ってきているし、彫刻刀などの木材加工に使えそうなものや、採取伐採に使える刃物なども持ってきてはいるので、できるところまでやってみたい。

 ほかのプレイヤーとの交流は、できるかはわからないけど。

『おーい、スズメ~。カナカくーん。拠点用地が確保できたからこっちに来てもらっていいかい』

 近くでカササギさんに観察されていることも忘れて、しゃがみこんで足元に生えていた草という草を無心にむしっていたところ、唐突に耳元に近いところで声が聞こえて、反射で体が震えた。その声は個別チャットのような感じで聞こえたが、いったい誰の声だろう。不思議に思っていると、カササギさんが「やっとか」とつぶやいた。

『はいは~い。今から行くから、マップにピン刺しといて~』

 カササギさんも同じように答えると、こちらにすっと手を伸ばしてきて、ひょいっと両脇の下に腕を差し込まれて抱えあげられた。……この人、ヒトの事を幼児だとでも思ってるんだろうか。むしったばかりで手の中に握りこんでいた草をかばんに放り込み、降ろせとカササギさんの脛近くに踵をいれてやると、さすがに痛かったのか、「いっだ」と呻いたので、少しだけ溜飲が下がる思いだった。

「ひどいなカナくん。とりあえず、みんなが見つけてくれた場所に俺たちも行くよ」

 落とさないように慎重にこちらを降ろし痛むのか踵を入れてやった方の足を軽くプラプラとさせてから、カササギさんが手を取って歩き出す。迷う気配もなく、すたすたと進み始めるその様子に、目的地が見えているのかと不思議に思っていると、カササギさんがもう一つの手を振ってこちらになにかウィンドウを投げてきた。そのウィンドウには、自分も何度かお世話になったことのある地図。まあ、見たことのないまっさらといわんばかりのそれに、自分たちを示すマークと、自分たちが向かっている方向に一つ、ここを目指せと言わんばかりに、何かよくわからないけど楽しそうな感じのマークがついていた。

「カナくんはあんまり使ってないかもしれないけど、これはイベント隔離空間用マップで、このちんくしゃなのはプレイヤーが使えるマップピンの一種ね。何か目印にしたいときに使うやつで、マークはいっぱいあるから、今後カナくんが使うときは自分の好きなのを使ってね。今回のこのちんくしゃなのは、さっき話しかけてきた四月朔日(ワタヌキ)がよく使ってるやつだね」

 わたぬき……と言われて、一瞬誰だかわからなかったけど、なんか一番最後の方にそんな名前を聞いたような気がすると思った。

「あはは、まだあいつらの名前と顔が一致しないでしょ。そんなもんだから、わかんなかったら普通に名前きいて大丈夫だからね」

「ん」

 カササギさんに頷き返しながら、カササギさんに誘導されるままに進んでいく。その道中に、よさそうな蔓や花、葉っぱがあったら横を通るときにむしったり引っ張ったりしてかばんに詰め込む。こんなにむしったりしてかばんに入れても、全然かばんに余裕があるので、やべーもんを作ってしまったとは思うけど、作ってよかったなとも思ってしまった。

 十分ほどそんな風に進んでいると、うっそうとしていたはずの森が少しだけ開けていて、そこに三人ほど人がいた。パーティーメンバーとして紹介されたうちの、遠距離物理担当の人と、補助担当の人、そして鍛冶系担当の人だった。あ、そうだ。鍛冶系担当の人が四月朔日(ワタヌキ)さんだった気がする。

 記憶の中から情報を引っ張り出して自分で納得していると、向こうもこちらに気づいたのか「いらっしゃ~い」と補助担当の人が楽しそうに笑っていた。

「待たせたね、とりあえず周辺に食材やら調剤用の素材やらが結構あるみたいだったから、ここにしといたよ」

 と、遠距離物理担当の人が、切り株に腰を下ろしながら言う。よく見ると、あたり一面切り株だらけで、どうも開けてると思ったのは、ここに生えていた木々を全部切り倒して文字通り切り拓いたらしい。切り倒した後の木々は、この空間の端っこの方に積み上げられている。

生姜(ジンジャー)さんと最中(モナカ)さんが調剤用の素材を、真鯛(マダイ)さんと(ヒグラシ)さんと織夜(オリヤ)くんの三人で、食材その他もろもろを探しに行ってますよ」

 ニコニコとしている補助担当の人がそういうと、カササギさんが「オッケーオッケー」と頷いた。たぶん、この様子だといつもこんな感じなんじゃなかろうか。いつもの事ねと言わんばかりだった。

「おい、スズメ。お前はさっさと拠点を建てろ」

「あ、ごめんごめん」

 そういって、カササギさんがどこかからか(もしかしてインベントリから?)何か手のひら大の丸いものを取り出して、それを切り拓いた空間の中心辺りに放り投げる。その様子を見ていた、切り株に座っていた女性二人はそそくさと立ち上がって空間の端の方に移動していった。

 いったい何をしてるんだろう? そう思ったとき、ボンっと大きな音が鳴る。反射的に目をつぶってしまう。真っ暗な視界の中、それ以降は何も音が聞こえないのに、そろそろと目を開けると、切り株だらけだったはずのその場所には、大きな一軒のログハウスが建っていた。

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