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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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5.プレイヤーとの交流 4

 カササギさんの一言に、そういえばスキルとか全部忘れてたなと思いだす。自分でも忘れてたけど、これを見せるってどうすればいいんだろうと思っているところで、一緒にいたパーティーメンバーがギョッとした様子でカササギさんに詰め寄っていた。

「ちょっと、鸞瑪(スズメ)! いくら身内でも他プレイヤーのスキル取得状況を開示させるのはマナー違反でしょ!?」

 そう声を荒げたのはエプロンを付けている女性、真鯛の刺身だった。スキルの取得状況を他人に見せろというのはマナー違反なのか。別に見られることに対して何も思うことはないんだけど。

 とりあえず、今現在の自分のスキル状況を見てみよう。最後に見たのも鑑定をとったときが最後だった気がする。そういえば、今はどんな感じになってるんだろうか。見せろと言われて改めて気になったので、スキル取得状況を確認するために、メニューからステータス画面を開く。


PC名:カナカ

身体状況:五体満足/所持金:23,554,107/所持品:聖なる春風の空間収納かばん

重要なもの:始まりの街 モーガンの工房の鍵/称号:熟練の手(スペシャリスト)

拠点:始まりの街 モーガン

所属:商業連合 雑貨屋アメリー

未使用SP:273P

取得済みスキル:歩行Lv57/視線察知Lv60/格闘技術Lv5/蹴術Lv3/アクセサリー制作Lv100

アクセサリー制作ⅡLv100/アクセサリー制作ⅢLv72/アクセサリー鑑定Lv100/アクセサリー鑑定ⅡLv100

アクセサリー鑑定ⅢLv88/採取Lv100/採取ⅡLv100/採取ⅢLv24/鑑定Lv100

鑑定ⅡLv100/鑑定ⅢLv88/マクラメ結びLv100/マクラメ結びⅡLv35/染色Lv75

調合Lv84/隠密Lv43/伐採Lv95/木工Lv88/彫刻Lv76

裁縫Lv42/小物作成Lv65


 気づかないうちになんだがスキルの量が半端なく増えている。え、ほんとにえげつないくらいスキル増えてるし、未使用のSPがえぐいことになってる……。自分で取得した記憶はないから、たぶんマクラメアミュレットやかばんを作ったことで増えたスキルがほとんどだと思うけど、こんなに増えるくらい、あの作業でスキルレベルというのは上がるものなのか、と、思ったよりスキルって上げるのは難しくないんだな、と思った。

 それにしても、このスキルを見せるってどうすればいいんだろう。めちゃくちゃ増えてはいるけど、別におかしなものがあるわけじゃないからかまわないんだけど、HELPに書いてあるかな? HELPへスキルを他人に見せるで検索したら、警告文がポップアップされて一瞬びくっとしてしまう。そこに記載されていたのは、取得済みスキルは基本的にプレイヤーがどのような行動をとってきたか、どのような行動ができるか、攻撃手段の有無などが相手に開示されることと同義のため、よほど信頼できる相手でもない限りはお勧めできないという文字だった。

 それに目を通して、言われてみれば確かにそうだ。取得済みスキルの一覧を眺めれば、いかにアクセサリー制作ばかりやってきたかが如実にわかるし、戦うことに必要そうなスキルがほとんどないから、戦わない人間だということがバレバレだ。こちらを害そうという意志あるものが見れば、どのようにすれば害しやすいかが一目瞭然になる。

 なるほど、自分の個人情報にも等しいのが取得済みスキルなのであれば、それを開示するように言うのはあまりよろしいことではないと理解できる。まあ、カササギさんがこちらにそれを要求してきて意味は違うだろうけど。

 HELPの注意書きを読み進めていくと、他プレイヤーへスキル開示を可能にする方法が記載されていた。操作方法は特段難しいこともなかったが、いかんせん、要求したカササギさんがパーティーメンバーから詰め寄られていて、スキルを開示してもたぶん見ることができなさそうな様子だ。どうしたらいいかな。

 そう考えていると、天井から響くように機械的な音声が降ってくる。

【イベント開始時間となりました。現時刻をもって、サバイバルキャンプ~密林ではぐくむ絆~開催マップへ集合フィールドに存在するプレイヤーの転移を行います。イベントへ参加する予定がなく、誤って該当フィールドに居たプレイヤーは、イベントマップ転移後即時ログアウトしてください。現実時間で5分間のみ、イベントマップよりログアウトしたプレイヤーの再ログイン制限を緩和いたします。それではイベントマップへ転移いたします。この度もイベントをお楽しみください】

 合成音声のようなその音声が終わると同時に、視界が一瞬真っ黒に染まる。それは本当に一瞬のことで、すぐに視界は開けた石畳の広場の小さな噴水から、密集する木々で閉ざされたものになる。何が起きたのかと思ったが、先ほどの音声のことを考えれば、たぶんイベント用の隔離空間に自動で移動させられたんだろう。概要にも記載されていたけど、サブタイトルもうちょっと何かなかったんだろうか。音声で聞くとなおの事ダサい。

 そこまで考えてから周囲を見回すと、詰め寄られていたカササギさんはのほほんとした様子で立っていて、その周辺にパーティーメンバーが立っていた。これはちょうどいいかもしれない。開きっぱなしだったスキル取得一覧の端っこにある、他プレイヤーへ共有するのチェックボックスにチェックを入れて、カササギさんをつつく。そうすれば、カササギさんもわかったのか、「ありがとね」と笑ってから共有されたスキル一覧を見ていたかと思うと、その場で頭を抱えてしまった。

「あー。いや、うん。こないだのワールドアナウンスからそうなのかなぁと思っていたけど、カナくんはほんとに規格外だねぇ。あと、引きこもりすぎ。ちょっとは外に出なさい」

 ワールドアナウンスは知らないけど、そういわれることは予想していたのでそっぽむく。やりたいことをやるためには作業テーブルが必要なんだよ。そうなると必然的に工房の中で作業することになって、外には出なくなってしまう。それでも、採取のために結構外に出てるつもりではいたんだけど。

「採取以外でも外に出ろって言ってんの。リハビリなんだからね」

 そういわれてしまうとその通りなので、何も言い返せない。自分のやりたいことをやるには工房に引きこもる必要があるけど、そういえば今いる街のこともほとんど知らないことに気が付く。うーん、まだまだ作れていない入門書記載の作品も多数ある。このイベントが終わったら、少しくらい街中を探索してみてもいいかもしれないなと思いながら、カササギさんを見ると、一人だけ周囲を見回していた。

「さて、お前ら~。さっさと作業始めろ~。カナくんには俺が説明しておくから」

「わかったけど、スズにぃ、俺の女神(ヴィーナス)……じゃなかった、カナカさんにこれだけ渡しといてね!!!」

 カササギさんの言葉に、何かを確認するようにしていたパーティーメンバーが軽く手を振って方々に散っていく中、服飾系生産担当と呼ばれていた、見覚えのある男が何かの袋を押し付けて、同じように走っていく。その時にこちらの名前が出たのは不思議だったけど、カササギさんは苦笑しつつ、受け取った袋の中身をちらっとみてこちらに袋をそのまま渡してくる。

「……なぁに、これ」

織夜(オリヤ)は服飾職人、いわゆるデザイナーなんだよね。以前にカナくん見かけたときに初期服のままなのが納得いかなくて、キミに来てほしい服を作ったんだって」

 そういわれて袋の中を覗き込むと、布製の何かが入っている。中から出してみると、汚れが目立ちそうな真っ白な袖なしのシャツが二枚に、同じく白いひざ丈くらいの裾が広い、ぱっと見スカートみたいなハーフパンツ、ハーフパンツを止めるためのベルトは淡い緑色で、細く裂いた革ひもを編み上げたみたいな感じで、穴の調整が簡単な感じだった。それにプラスして、同じく淡い緑色で透ける布地の、ふくらはぎ半ばくらいまでありそうなフード付きの軽い上着も入っている。

「へぇ、カナくんに似合いそうだから着替えてみなよ」

 カササギさんにそう言われて、来たことがないタイプの服だけど、確かに悪くはなさそうだと思って、上の服に手をかけたら、カササギさんから「イベントりに入れて装備換装したら?」と言われて、インベントリとは? と首をかしげる。

「ちょっとまって、カナくん、インベントリも使ってなかったの?」

「どうやって使うの」

「インベントリ収納って考えながらモノに触れればインベントリに入れられるし、インベントリって念じればインベントリ内のアイテム確認できるけど、今までどうしてたのさ」

 カササギさんに言われたとおり、インベントリって考えたら目の前にポップアップが出た。そのポップアップウィンドウは小さなマス目が大量に表示されている。袋とその中身をインベントリへ収納って考えたら、持っていたはずの袋や服が消えて、ポップアップウィンドウ内のマス目の中に袋や服のそれぞれの形や色がわかるような小さな絵が表示された。

「装備換装ってどうするの」

「インベントリにはいったなら、換装したい装備を選択して、換装って考えれば着替えられるよ。一応脱ぎ着ももできるけど、こんな野外でカナくん脱ぎ着したら変質者が出るかもしれないからねぇ」

 変質者が出るというのはよくわからないけど、脱ぎ着する手間が省けるってすごいな。とりあえず、上の服の画像のマス目を選択して、換装と考えたら、それまで半そでだったので肩口は露出してなかったのに、着替えた後の服は袖がなくて肩が露出しているからか、吹き抜けた風が肩に触れてなんだか寒く感じた。

 同じように下も着替えた上で、上着も着る。すると、むき出しになっていた肩が薄い布とはいえ覆われて、寒さを感じなくなる。足も半分以上覆われていて、むき出しになっている足も風から守られているみたいだった。軽く動いてみると、思ったよりも動きやすいし、軽い。

「うんうん、似合っているね。もし汚れたり、破れたりしたら、織夜に声かければ修復してくれるから安心しなね」

 くるりと一回転して不思議な感覚を確認していたら、カササギさんからそういわれた。似合いっているならそれでいいと思うし、汚れやすそうだなと感じていたのもあって、直せるのはいいなと思った。まあ、それがあの男っていうのはちょっと考え物だけど。

「じゃ、お着替えも終わったし、カナくんにこのイベントで何をやるのかを説明しよっか」

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― 新着の感想 ―
カナカくんの淡々と楽しんでいる感じが好きです スキルの有無での熟練度上昇差、とんでもないことになってる感じでしょうか でもこれカナカくん本人の器用さも影響してるのだとすると品質の差を超えるのってもしか…
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