5.プレイヤーとの交流 3
工房に戻ってから、その回のログイン時間目いっぱいと、次のログイン目いっぱい(あれから数日して調子が戻ったので、ログイン回数は一日二回に戻っている)を使い切って、小さめの口を紐で絞ったかばん(一回ログアウトしたときに主治医に聞いて、巾着という名前だったことを思い出した)を作り上げた。
最初は染料にヘイリグトゥムの花を使おうと思ったが、自分のかばんを作るので使い切っていたことに気づいて、ほかによさそうな染料を探して、エポスという植物の茎を乾燥して粉末にした染料を使って、ほのかに赤みのある青という不思議な色合いの染料になる。何気に内布も青みの強い不思議な光沢のある布だからちょうどいいよね。
そうしてできたものはこんな感じだった。
春風詩の空間収納巾着
性質:水/風属性 品質:A 売価:3,000,000B
フルーリングスルフトの毛糸を丁寧にマクラメ結びで花のような紋様に編み上げたかばんの内布に空間魔法と時間魔法を織り込んだ布を使用している。
このかばんの中に収納したものは、時間経過に伴う劣化を避けられるため、生物を収納することはできない。
収納量は品質によるが、最低でも10㎥以上にはなるため、かなり大容量となる。
編み上げられた叙事詩が春風と溶け合い、そのめぐみはいずこかへ届くことを祈るものがいるだろう。
収納量:10㎥ 現在の残容量:100%
名前違ってるし、性質の属性も違ってるのは、たぶん染料として使用したのがヘイリグトゥムの花じゃなくてエポスの茎だったからかな。素材の属性確認してなかったから覚えてないけど、たぶんフルーリングスルフトの毛糸は風属性で、エポスの茎が水属性なんだと思う。ちゃんと素材の方鑑定確認しておけばよかったな。
とりあえず、同じものを三つ作れたが、全部同じ品質Aだった。収納量が最低なのは品質のせいなのか、サイズのせいなのか……。とりあえずアメリーさんのところにもっていけば、アメリーさんはにんまりにんまりして、「カナカ坊、内布の残りで作れるだけ作っておくれ」と言ってきたので、もうフルーリングスルフトの毛糸が残ってないことを伝えると、じゃあ追加で納品するという話になり、納品があり次第作成することになった。
この三つの納品金額で15,000,000B(一つ5,000,000Bだって)で買い取ってもらって、次に納品されたフルーリングスルフトの毛糸の代金は、次の巾着の納品時の買い取り代金から支払うことに決まったところで、また視界の端にカササギさんからメッセージが飛んできた。
[カナくん、今どこ? そろそろイベントの時間だよ]
開いたメッセージにそう書いてあったため、アメリーさんに時間だと別れを告げて、カササギさんから指定されていた場所をMAPで確認しながら街の中を進んでいく。徐々に人が増えていく様子に機嫌が下降していくのを感じながら、待ち合わせ場所兼、イベント参加者の集合場所でもある西門を出たところの大きな広場に足を踏み入れ、ひしめき合う人にかすかな吐き気を感じた。
こちらを見てくる奴がいるのを感じながら、西門を出た広場、門を出てすぐ左手に進んでしばらく行ったところ。西門から出たのは初めてだけど、西門を出たところはきれいに石畳を敷き詰められて整備されていて、多人数が集合しやすいように広場になっていた。緑はほとんど見えないけど、その広場を囲うように整備されたところとそうでないところの境目にいくつもの花壇と小さな噴水が設置されていて、緑がないわりにからからと乾いた感じはしなかった。
その一番南側に当たる小さな噴水の方へ足を進めると、見覚えのある姿が目に入る。
「あ、カナくん。こっちこっち~」
そういいながら大きく手を振るのはカササギさんだ。その周囲に何人も人がいて、カササギさんは前に見たときと特に変わらない武装をしているように見える。応えを返すこともなく、カササギさんのところまで足を進めれば、「よく来たね~」と言ってこっちの頭を撫でようとしてくるので、その手をとりあえず払いのけた。
「おお~、少しは良くなったみたいだね。とりあえず、今回のイベントのPTメンツ紹介するよ」
払いのけられたにもかかわらず、カササギさんは嬉しそうにしている。その様子を見て、反射で払いのけただけなんだけどなと思いながら、カササギさんが示す人と名前を頭の中に叩き込んでいく。
「左から、遠距離物理担当の「れるん。」。遠距離魔法担当の「ジンジャーマンクッキー」。前衛の盾担当の「蜩 虹」。補助担当の「エカテリーナ」。回復担当の「最中食べたい」。料理系生産担当の「真鯛の刺身」。服飾系生産担当の「織夜」。それから、鍛冶系担当の「四月朔日 治親」。PTメン、この子が前から言ってたウチの子で、今はアクセサリー系を育ててる「カナカ」くんね」
ショートヘアで腰からボーガンを下げた女性、真っ黒い前髪で目が隠れて見えない青年、全身金属鎧で背中に大きな盾を背負っている小柄な少女、いたるところに十字架のマークが入った白と青の衣装を身に着けた金髪ロングの女性、腰から下だけのエプロンを身に着けたお団子の女性、見覚えがある男、筋骨隆々で浅黒い肌の小柄な男性。
カササギさんが順に示した人物の要望と名前をゆっくり頭に叩き込みながら、自分が紹介されたのにペコリと頭を下げて挨拶をする。それに、一気に騒がしくなったが、どれが誰の声かよくわからない。
あと、一気にしゃべられても聞き取れなくて困っていたところで、ポップアップウィンドウがポンっと浮かんで、なんだろうとそれを見れば、「パーティーへの加入要請が届いています。以下のパーティーへ加入しますか? パーティー名:厨二病上等」と記載されていた。
これをどうしろというのか、とカササギさんに視線をやれば、「はいを押してね」としか言わない。パーティー名がよくわからないが、なんか嫌な予感がするけど、とりあえず「はい」を押すしかなかったので、はいを押した。
そうすると、表示されていたポップアップウィンドウが消えて、代わりに名前がいくつも並んだウィンドウが表示される。そのウィンドウの一番上に「厨二病上等」の表示があり、今聞いたばかりの名前がずらずらと並んでいた。
「パーティーウィンドウは表示された? じゃあ、ウィンドウの右下にあるチェックボックスにチェック入れて。そしたら、カナくんの発言はパーティーチャット扱いになって、チェックを外すまでは周りに声が聞こえない状態になるからね」
言われるままに、ウィンドウの右下を見れば、確かに「基本会話をパーティーメンバー内に限定する □」とチェックボックスがあった。なんでそれをしなきゃいけないのかはよくわからなかったけど、素直にそのチェックボックスにチェックを入れる。
それから、とりあえず一緒に行動する面々を眺めることに時間を使った。わいわいとしている会話の中心はカササギさんで、みんながカササギさんに食って掛かっているような感じになっている。
(……で、イベントって何するのかそういえば確認してなかったんだけど、何するんだろう)
今更にもほどがあるけれど、そういえばイベントだとは言われていたけど、そのイベントの詳細は確認していない。イベントの詳細ってどっかから見れるのかなと一度HELPで検索すれば、「開催予定のイベントについて」というページが出てくる。
そのページを開いて中を確認してみると、間もなく始まるイベントの概要やシステムについて記載されていて、それをざっと読みこめば、イベントは隔離空間でのサバイバルをするというものらしい。一隔離空間毎におおよそ五千人規模で複数サーバーに振り分けて、無人地域で二週間を過ごすらしい。この二週間、元々ゲーム内時間は現実より倍速されているのに、それをさらに強めて、連続ログイン時間の制限内に修めるために、現実の2時間にイベント期間の二週間をおさめるらしい。そのため、ログアウトしたらイベントに再参加はできないようだ。
まあ、それもそうだと思ったけど、この形のサバイバルイベントは実は初めてではなく、すでに今回で四回目になるらしい。また、この隔離空間はイベント完了後に解放空間となり、改めて訪れることも可能らしい。……イベント後にこの空間に行って一体何をするというのか。そこはよくわからない。
「カナくん、ちょっと意識こっちに戻してね~」
カササギさんに声をかけられて、うっかりとイベントの概要画面を読み込むのに集中していたことに気づいて、カササギさんを見る。すると、カササギさんも「うんうん、戻ってきたね~」と笑ってから、こう言った。
「カナくん、今のスキル状況見せてもらえる?」




