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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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5.プレイヤーとの交流 1

「うーん……なんか違うなぁ」

 ヘイリグトゥムの蔓で編み上げたワンショルダーバッグを、追加で注文したトルソーにかけて、雰囲気を確かめてみてから、こう、頭の中で想像したイメージと違うことにため息が出る。

 最初にヘイリグトゥムの蔓を採取しに行って採取用の刃物がなかったことに気づいたひから、実に現実で二週間。すぐにアメリーさんに採取用の刃物を販売している刃物屋さんを紹介してもらって、小さめだけどかなり鋭くて使いやすい採取ナイフを購入した。ついでに伐採に使う初心者用の伐採斧も購入して、森でヘイリグトゥムの蔓もそうだけど、いくつかの木材も集めてきた。とはいっても、少し細めの枝を切り落とすくらいしかしてないけど。いや、丸太なんて持って帰れるわけないから、持ち帰れる分だけにしてるだけだけど。

 細めの枝は、しなり具合がいい感じの奴はワンショルダーバッグのそこ部分を固定するための芯棒にして、しならないタイプは少し考えてから、アクセサリー制作キットの中の彫刻刀みたいな奴で彫れそうなものは、彫り物練習に使用して、ワンショルダーバッグの縁を補強するためのパーツにできないかといろいろやってみている。

 すでにヘイリグトゥムの蔓での試作は四つ目で、本番用の素材は全部アメリーさんから届けられていて、使われるのを今か今かと待ってくれている状態なんだけど、四つ試作しても、なんかこれじゃない感じになってしまって、本番に取り掛かれない。

 一つ目は、肩紐部分が短くなってしまって、肩掛け自体はできそうだったけど、想像していた斜め掛けをして腰部分にかばん部分が来るようにはできなかった。

 二つ目は、その長さを調節した分、長さは特に問題なかったけど、その代わりかばん部分が想像していたより小さくて使いづらく感じた。ものを入れるときに、口の部分が狭いと入れづらいことに気づいたのはこの時だ。

 三つめは、紐の太さを太くしすぎて邪魔になった。細いと千切れそうだから、その対策として少し太めにしてみたところ、今度は太すぎて肩からかけたときに胸のあたりの圧迫感もひどいし、肩の首の圧迫もひどくてダメだった。

 四つ目は蓋部分がよくなかった。ジッパーを使う気持ちがよくわかる。蓋をしめるのもあけるのもすごくやりづらかった。とはいっても、ジッパーはこの世界にないみたいだし、形はわかっても簡単に作れるようなものじゃないから、蓋は必須なんだけど、蓋が浅すぎたら隙間からこぼれちゃいそうだし、でもこの時のように蓋が深すぎると逆に蓋を外すのに時間がかかってしまって使いづらかった。

 そうして、四つ目を基準にして蓋のサイズを検討している最中だ。

「ジッパーがあったらこんなに悩まないのになぁ……」

 ないものねだりをしたい気分になりながら、蓋を少し織り込んで、いい感じの模様になるように調整と止めるためのボタンの位置を直す。軽く引っ張って簡単に取れないのを確認してから、かばんの肩ひもを自分にかけて立ち上がる。その場でしゃがんで尻の上あたりにかばん部分がのるように位置を調整してから、後ろ手で蓋を開けられるか、蓋を絞められるかを確認する。そのあと、かばんの中に素材を大量に詰め込んで、かばんが膨らんだ時にどうかとか、肩紐の食い込み具合なんかを確認して、肩にかけていたかばんを作業テーブルにに載せ直す。

「んんん……。肩紐の調整ができるようにだけしたいけど、どうやるのがいいのかな」

 立っているときと、しゃがんでる時でちょうどいい肩紐の長さが違ってた。そこも調節できるようにしたいけど、かばんの肩紐の調節の仕方ってどうすればいいんだろう。あれかな、ベルトみたいにすればいいのかな。

 長さの調節でぱっと思い浮かんだのはベルトとその位置を決めるバックルを思い浮かべる。普通のかばんがどういう風になっているのか、自分が使っていたかばんを思い出しても全く思い出せないことにうなりながら必要になりそうな素材やパーツを考えていたところ、ピコンっと軽快な音と共に、視界の端にメッセージウィンドウがポップアップした。

 これはフレンドメッセージと呼ばれているメッセージ機能だ。主治医であるカササギさんとフレンドになって以降、カササギさんからしょっちゅう個別チャットが入ってきて迷惑だったので、着信拒否したら、代わりにこのフレンドメッセージを送ってくるようになった。いや、ほんと集中して結んでる最中に『カナく~~ん、お話しよ~~』なんて声が何度となく聞こえてくるのは本当に迷惑だった(そしていつの間にか呼び方も「カナカくん」から「カナくん」になっていた)。久しぶりにHELPで検索して個別チャットの着信拒否設定をしたらしたでメッセージもうるさかったけど、メッセージも拒否していいかと現実で確認したところ、渋々必要な時だけメッセージを送ってくるようになった。

 なので、用事があるときだけメッセージを送ってくるようになったので、なにか用事ができたのかとポップアップウィンドウに指を滑らせ。そのウィンドウの中のメッセージにさっと目を通して、首をかしげることになった。

「……いべんとぉ?」

 そこに記されていたメッセージはこうだ。


[カナくん、来週半ばからあるイベントに一緒に参加しようね。

 キミはもうちょっとプレイヤー間交流が必要だから、丁度いいと思うよ~。]


 ……まあ、言いたいことはわからないでもなかった。

 カササギさんの言うとおり、このゲームを始めてから、会話をするのはこの世界の住人ばかりで、プレイヤーとは全く会話をしていない。というより、会話をするような必要性があるような場面にならない。だって、外出するのは採取の時かアメリーさんのところに行くくらいで、それ以外では外出しなかったし、プレイヤーと遭遇しそうになったときは隠れて逃げてたから当たり前だと思う。

 主治医としては、プレイヤーと交流することもリハビリの一環と考えているらしくて、今の環境をもう少し何とかしようか、と現実でも言われてはいるのだが、やることを考えたらプレイヤーと交流する必要性が全くないものだから、ついついプレイヤーと交流しようとは考えもしなかった。

 街中でのぶしつけな視線の数々を考えると、交流してもまっとうな交流にならなさそうだなと感じているのもあったけど、これではリハビリにならないという主治医の言葉にも納得はできるというもので。

 仕方がないか、と考えてカササギさんのメッセージに「わかりました」とだけ返信する。それから、現在は週の初めで、カササギさんの言うイベントまで丸々一週間ある。この一週間で本番のかばんを仕上げよう。

 配達された本番用の素材の中から、フルーリングスルフトの毛糸を取り出し、フリューデ草とグロル草の花を乾燥させたものを、初級アクセサリー制作キットの中にあった小さな乳鉢と乳棒で細かく粉砕する。大容量を粉砕するなら別途薬研を使用したほうがいいかもしれないが、アメリーさんから教えてもらったファヴェルイレン液の脱色加工時の防水に必要なこの混合粉末は、少量でいいので、この乳鉢と乳棒での粉砕でも十分間に合う。ちゃっかり配達された荷物の中に追加されていた大き目の容器の中にファヴェルイレン液を投入し、その中に粉砕したばかりの混合粉末を薬剤用の小さい匙一杯分をぶち込んでかき混ぜ棒で液体をかき混ぜてから、その中にフルーリングスルフトの毛糸をしっかりと漬け込む。

 漬け込んでいる間に、ミットファブンフェン液とヴェスターケン液の混合液を作るためにもう一つの容器を出してきて、それぞれの量を計量する。ミットファブンフェン液とヴェスターケン液は五対一の割合で混ぜるのが耐久度を一番よく上げられるらしい。さらに、ここに染料をぶち込むのだが、染料は気持ち多めに入れる必要がある。元々染色の際に色の染まり具合は時間をかければ少しずつ濃くなっていくものだけど、この混合液、染色の際に時間をかけても色が濃くなることはないようで、濃いめの色に染めたい場合は、最初から染料を多めに入れる必要がある。今回は、髪色に埋もれるようなピンク系の色に染めようと思っていたが、アメリーさんから提案され、ヘイリグトゥムの小さいかわいらしい花を砕いて入れる。この花、かなり特殊な染料で、生花を染料液に漬け込んで染料にすると花と同じ薄紫色の染料になるけれど、乾燥させた花を砕いて漬け込んだ場合、若草色のような明るい緑色に染まるのだ。不思議だな。

 徐々に混合液が緑色に染まっていくのを確認してから、かばんの縁に使うための補強パーツを作るために、工房の隅に積んであった小さめのサイズの木材を取り出して、彫刻刀を取って作業テーブルに向かった。

 

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