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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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4.変わることと考えること 9

 目を開けて、自分がログアウトしたのと同じ場所にいるのを確認して、ふと、ログインするときに感じていたぞわぞ羽とした感覚を感じなくなっていたことに気が付いた。あれだけ気になる感覚だったのに、このゲームを始めてから数日しか経っていないのに、自分の体が感覚に慣れていることに思い至り、不思議だなと思った。

 ウェストポーチに入っている、必要最低限のもの以外をすべて作業テーブルに放り出して、少しでも採取物を詰め込めるようにスペースを開けて、拠点を後にする。それから、素直に一度通ったことのある道を通って、東の門へと向かう。

 このログイン時間はできる限りの採取に努めて、次のログインでかばんの形を一度作ってみたい。十数分の間に調べたかばんを思い出しながら、あの美しい布を内布にするかばんは、あまり奇抜な形にしない方がよさそうだなと感じたから、シンプルな長方形のかばんにしようと思った。

 また、主治医に言われたとおり、ワンショルダーのかばんの方が便利がいい気がした。ゲームの中でどうなのかわからないけど、トートバッグのように腕に下げたり、脇に挟んでいたりすると、採取をするときに意外と邪魔になりそうだと思ったからだ。採ったものを入れるときは腹側に持ってきて、邪魔な時は背中側に回せるワンショルダーのかばんの方が、まあ使ったことがあるのも含めて、楽だなと思ったのだ。

 あと、もし可能ならジッパーを付けてかばんを閉じられるようにしたかったけど、ジッパーはあるんだろうか。アメリーさんに実際に作るときに聞こうと思うけど、ないならないでふたを付けたい。

 そんなことを考えてたらたどり着いた東門で、門の脇に立っている門番に小さく頭を下げてから、一面に広がる草原に足を踏み出す。今までは、この門を出てすぐのところで草むしりをしていたんだけど、今回はこの草原から少し北の方に移動する。

 入門書と染色の本から書き留めたメモの中に、わかる限りの採取個所も記載したけど、その採取場所を頭の中で整理すると、地図には表示されてないけど、ある程度街周辺の地理が把握できた。北にずっと進むと海になり、水辺に関連する系統の素材が。西に向かうと山岳地帯になり、鉱物系の素材が。南には田園風景と思われるような穀倉地帯、いわゆる植物系の食材になる素材が。そして、東には草原と、深い森、食材ではないタイプの植物系の素材が採取、採掘できる。

 今までは門を出てすぐに広がっている草原の草をむしっていたけど、今回は北側に存在する森での採取しようと思ったから。

 小さい「初心者のマクラメアミュレット」を作るなら、今までむしってた草でも十分かもしれないけど、かばんを作るのにあの小さくて細い茎では厳しい。ログアウト前は普通に今までむしってた草の茎を結んで長くすればいいかなと思ったけど、よくよく考えたらあの細い茎を何本も結んでたら結び目からほどけていきそうだし、どれだけあっても足りないことに気が付いたよ。

 だから、メモにまとめた中からもう少し大きいものを作るのにちょうどよさそうなものを洗い出して、東の草原から北側に向かった森林で採取できる耐久度があるという特筆項目があった蔓を使ってみようと思ったので、優先的にその蔓を採取しに行くことにして、帰り際に空いたスペースに草をむしって詰め込もうと考えてる。そうすれば両方持って帰れると思うし。

 十分くらい歩いたところで、徐々に草原の中に低木が増え、木が増え、森林になっていく。何とも言えないグラデーションのように切り替わるそれは、現実では多分無理だろうなぁと思いながら、薄暗い木々の隙間から目的の蔓のある木を探す。

 耐久度のある蔓の木は、ヘイリグトゥムという、幹は白っぽい色で、赤紫色の蔓が枝のように伸びて周囲の樹木に巻き付いて花を咲かせ、そこから種を落として生息域を増やしていくらしい。本物は見たことはないけど、ぱっとイメージがわいたのは、ブドウとか、藤の木みたいな、あの棚って呼ばれる蔓を巻き付かせるものが必要な種の木のこと。自然に生えてるならそういうのとは違うと思うけど、綺麗なら藤棚とかブドウ棚とかちょっと見てみたいよね。

 さすがにこの森の中であんな人工物は見れないのはわかってるから、それっぽいものがないかじっとみつめる。基本的に幹の茶色と葉っぱの緑が視界いっぱいを占めているから、ヘイリグトゥムの白っぽい幹はすぐにわかりそうだと思ったけど、森の入り口近くには生えていないみたいだ。

「……生き物は、いないのかな……?」

 このゲームの景色はとても『自然』だと感じる。こう、景色として違和感を感じないから、こういう森の中には野生の獣が住んでいるものだと、少なくない時間受けてきた授業の知識が主張してくる。

 そういえば、草原で草むしりしているときも見かけなかったけど、この世界はそういう、野生動物はいないのかな。そう考えてから、すぐにこの世界は『戦闘できる』ことを思い出す。

「そういえば、戦闘って何と戦うんだろ。カササギさんも鎧っぽいもの着てたよね」

 さっき会ったばかりの、ゲーム内の主治医の服装を思い出す。露天にもそれっぽいものが置いてあった記憶があるけど、こう、歴史などで教科書に載っていたみたいな感じではなかったなと思う。

 戦いたいと思っていなかったから、そのあたりはちゃんと確認していなかったので全く調べてない。でも、魔物っていうのがいるっていうのは、何となくアメリーさんと最初にあった頃に聞いたような記憶があるから、魔物っていうのが生息はしてるんだと思うけど。

「……魔物ってなんだろ」

 聞いたことがない単語だった。動物なんだろうか、植物なんだろうか。それともそれ以外なんだろうか。謎の存在だな、と考えつつも、自分が戦うことはないだろうからいいかと放り出す。今のところ、魔物に用はないからだ。

 森に入って数分のあたりで、他よりも白みの強い幹と、それから周囲の木々に伸びる赤紫色の蔓を見つける。ほかの木々に巻き付いた蔓になる、小さいかわいらしい花。ヘイリグトゥムだ、ようやく見つけた。そう思って駆け寄って、はたと気づく。

「…………えっと、この蔓どうやってとればいいの」

 幹に近い方を掴んでもぎ取ろうとするけど想像より硬くてうまくもげない。ぐぐっと力いっぱい引っ張っても、もげる気配が全く見えない。え、これほんとどうやってとればいいの? 何度かもごうとしたり、引っ張ったりを試して、取れないことを実感して、幹の根元に腰を下ろしてHELPを開くことにした。

 前と同じ通りに検索をかけて、出てきた回答を見てがっくりと肩を落とす。それなりに強度のある蔓系の採取には、刃物が必要だと書いてあった。でも、HELPを見てから、普通に考えたらそうだよねと納得もする。

 草は柔らかいから簡単にむしれてたけど、木の枝とか、幹とかが必要なら、たぶん斧が必要になると思うし、蔓を採るのに刃物がいるのも理解できる。たぶん、本当は草をむしるときも、刃物があったほうがきれいにむしれるのかもしれないけど、素手で簡単にむしれてたから気にもしてなかった。

 あー、折角来たけど、一回街に戻って、刃物を調達してこないとダメかな。そう考えた時に、ふっと何かにみられている感覚を覚えて、反射的に立ち上がる。ヘイリグトゥムを背にしたまま、視線が向けられている方向を見れば、そこにはぽかんとしている様子の、軽装の人間が立っていた。

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