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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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4.変わることと考えること 8

 図案集は想像していた以上に面白かった。いわゆる紋章のような図案ばかりかと思ったら、それ以外にも数多あった。小さなものや、それらを所定の配置に置いた集合体の図案も含めれば、本当に数多あった。立体にした方がよさそうな図案もあれば、平面にした方がよさそうなものもあって、飽きが来ない。

 それに加え、一つの図案を見て次の図案を見て、これらを組み合わせられないかとか、この図案とこの図案を並べて繰り返していったらいい感じの模様になるんじゃないかとか、一つ図案を見ると、それまでに見てきた図案を思い出して、そのページに戻って図案を見返すを繰り返していたら、随分と時間が経ってしまっていた。本当はほか二冊のアクセサリーアイデア集と染料についての本も読み込むつもりだったんだけど、さすがにもうあと二冊も目を通す時間はないから、後者の染料についての本を開く。

 アメリーさんから聞いたのは耳に残ってるけど、それ以外にも使える素材とか、素材を採るときに一緒に採っておいた方がいいものとか、少しでも頭に入れておきたいと思ったからだ。アイデア集は実際にモノを作る前に見ればいいかと思ったのもあるけど。

 染料についての本は、布類などの繊維を染めるものと、金属類などの鉱石に着色するもの、革や植物などに色付けするものなど、手順が似ているもの毎にまとめられていたため、何に色を付けたいのかの目的さえ決まっていればどこを見ればいいのかが簡単にわかるようになっていた。

 一応頭から順にみていくけど、それぞれで大分手順が異なるのが面白い。あの脱色はなんで行うのかと思えば、脱色をすることによって色を入れやすくするとともに、素材の加工をしやすくするためらしい。加工するのが困難なくらいに繊細な素材も、この脱色工程を挟むことで、ある程度の強度が生まれるとか。あの薬剤すごいね。

 それにしても、比較的に入手しやすくて扱いやすい染料の情報を整理するだけでも、結構な量になる。植物もそうだけれど、現実同様に鉱石も染料になるらしい。絵具は鉱石からできてるっていうのは、美術の授業の時に、美術の歴史に出てきた記憶がある。でも、植物や羊毛なんかを染色するときは植物を、鉱物や金属を染色するときは鉱石を使った方が染まりやすいっていうのはどういう理屈なんだろう。不思議に思ったけど、とりあえず書籍に記載されるってことはそれなりに研究されているんだろうと考えて、そのまま受け止める。

 これからの予定として、まずは採取の時の荷物の意味も含めて、かばんを作成することを最優先にするけれど、それができたら、今度は鉱石や金属を使うアクセサリーも作ってみたい。

「……ところで、かばんって普通は布を縫って作るものなんじゃないのかな……?」

 そこまで考えて、ふと脳裏に浮かんだことが口からこぼれた。ぱっと浮かんだとは、学校に通うときによく使用していたワンショルダーバッグや、周囲に違和感を持たれない程度にカジュアルなスポーツリュックサックだ。あれらは様々な素材の布地を縫い合わせて作られていた気がする。ジッパーやら一部に金属金具が使われていたのは覚えているけど。

 まあ、自分が使ったことのあるかばんはあの布にふさわしい形じゃないから絶対にないけど。でも、本当に裁縫じゃなくていいのかな、と疑問がわいてくる。現実じゃないからある程度練習すればできるようになるかもしれないけど、家庭科の授業以外では一切針にも糸にも触れたことがない、その辺に転がってる男子大学生だ。ボタンが取れたら付け直すんじゃなくて買い替えるような家庭だったことも含めて、裁縫でかばんを作るのは難しそうだけど。

 染色素材を植物と鉱石に分けてメモを取り、そのメモに確認できる限りのそれぞれの特徴や、採取・採掘できる場所についても記載していく。ログアウトした後、動けるならネットサーフィンでかばんの形のアイデアを探す、次にログインしたら、できるだけ効率よく採取しに行こう。

 今、手元に素材が全くないわけじゃない。あるけど、正直に言うと、今まで採取してきた素材は「初心者のマクラメアミュレット」のような小さなものを作るのであれば十分だけど、その何十倍も体積のあるかばんを作るにはどう考えても足りていない。あと、基本的に今まで採取してきたの植物はかなり細かったり、太いものでも小物を作るにはちょっと太めかな、と思う程度だったから、もう少し太さがあって長い蔓なんかを探してみてもいいかもしれない。

 改めて入門用の本を開いて、扱いやすそうな蔓の情報が記載されてないかパラパラと目を通し、使えそうだなと思った素材の名前を、同じようにメモに特徴や採取可能な場所を書き留める。

 今確認できるのは全部かけたかな、と思ってメモをウェストポーチの中に放り込んだところで、連続ログイン制限のアラームが鳴ったので、素直にログアウトを選択した。

 相変わらず現実に戻ってきて身動きが取れない状態でぼんやりしていると、少ししてから足音がして、昼前と同じように主治医が「指示」を出してくれて、上体を起こしてVRHMDを外す。

 色合いこそ違うけど、さっきゲームの中でも顔を見たのを思い出して、なんだか不思議な気分になる。こちらの考えを見透かしてるのか、主治医が「Otra Vida(あっち)と色と髪型以外違わないはずなんだけど、あっちが結構ありえない色だから別人に見えるねぇ」とつぶやかれた。それはそうだ。あんな色が現実であったら怖い。

「さて、いつもより遅いけどこの後昼食を持ってきてもらうよ。そのあとはいつも通り、夕食までログインするかい? 教えてくれるかな」

 主治医に問われてうーんと少し考えてる間に、いつもの配膳係が昼食を持ってきてくれた。それを主治医に指示されて口に運びながら、少し考えて「そうしたいかも」と答える。この状態でできることがないというのも事実なんだけど、ゲーム内でやりたいと思っていることを思い返すと、想定以上に多い。次のログインは採取を頑張るけど、その次は試作をしたい。

 それを説明すれば、主治医は「わかったよ」と楽しそうに笑っていた。そこで主治医は無言になり、こっちは指示されたとおり昼食を黙々と平らげる。今日の昼食はいつもより少し少なめだったが、普段は移動などで体を動かしているが、それがない分脳の活動に必要そうな糖分の多い食事になっていたのは、主治医の指示なんだろう。主治医は昼食を平らげたこちらを見て、再度口を開いた。

「再ログイン可能まであと少しあるけど、現実でやりたいことあるかい?」

「……かばん、調べたい」

 主治医が一瞬「かばん?」と不思議そうにしたけど、ゲーム内での会話を思い出したらしく、「それなら、アイテムを入れやすいようにワンショルダー型がいいと思うよ。背負うタイプは、入れるために毎回下ろして、移動のために背負ってを繰り返す必要があるからね。背負いかごならともかく、そういう方向じゃないんでしょ」といわれた。

 背負いかごとは? と思ったのに気づいたのか、サイドテーブルにおいてあった端末を取り上げて、「こんなのだよ」とイメージ画像を見せられた。うん、これはさすがにないかな。

 そのまま渡された端末でワンショルダーのかばんをいくつか検索する。ある程度検索したところで、どうやらその様子を見ていたらしい主治医が「そろそろ時間だよ」と言い、指示を出す。

 再度VRHMDをかぶり直し、本日三度目のログインを選択した。

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