4.変わることと考えること 7
お久方ぶりです。
シフトが不規則で執筆時間が取れなかったり、コロナになって死んでたりといろいろしましたが、ようやく少しずつ書けるようになりました。
以前ほど執筆時間はとれそうにありませんが、ひとまず週一での投稿で再開します。
もう少し余裕ができたら、また前回のような投稿速度に戻せれば……いいなぁ……。
『こっちでの生活はどう? まあ、細切れだからアレかもしれないけど、少しはやりがいがある?』
自分で頼んだはいいけど初めてだからこののっかってる生クリームをどうしたらいいんだろうと困惑しながら刺さってるストローを突っついているところにそう聞かれて、やりがい、とは? を首をかしげる。
聞かれたことがよくわからなくて、クリームをストローでぶすぶすとさしてその下の液体と混ぜながら考えるけど、何をもってやりがいと称するのかがわからなくて黙り込んでしまうけど、カササギさんはニコニコ笑うばかりで何も言わない。
『よくわからない。……なんか、やばいものは作った気がするし、作ることになってる気がする』
と答えたら、うん? とカササギさんの表情が変わった。
『やばいものってなに?』
『んー……』
言っていいのかな、わかるかな、とちょっと考えてから、とりあえずジャブから投げてみることにした。
『品質の壁って知ってる?』
『聞いたことがあるね。俺の知り合いの生産職も品質A以上の制作物は作れないって言ってたね』
耳にしたことがあったらしく、カササギさんが何かを思い出すようにそう声に出した。やっぱりそうなのかと思ったけど、とりあえずアメリーさんに聞いた話を簡単に説明することにした。
『僕も雑貨屋の店主さんに聞いただけだけど、スキルレベルと技術が釣り合ってないのが原因らしいんだけど、それを越えちゃったらしくて。品質Aのモノを作っちゃったんだよね……』
『はい?』
さすがに想像をしてなかったのか、カササギさんは目を丸くしてこちらを見てる。
『一応、生産系のトップでもまだ品質Aの作品は作れてないって聞いてるんだけど』
『そういわれても、できちゃったんだよね。で、今もっとやばそうなものを作る予定が立ってるんだ』
そこまで言うと、カササギさんがジトっとした感じの目でこちらを見てきた。自分でもなんでそんなことになったのかよくわかってないので、そんな目で見られても困るんだけどな。
『まあ、キミがやりたくないわけじゃなければ好きにやればいいんじゃないかな』
若干の間はあれど、カササギさんはそういいながらカップを傾けている。こちらも話しながらなんどもストローでかき混ぜていた飲み物に口を付ける。クリームと混ぜたからか、さらさらとした液体が少しとろっとした気がするが、それよりも初めて口にした味に脳内で「こんな味がするんだ」とこの世界での飲食に少しの興味が生えた気がした。
『こっちのキミは自由なんだから、やりたいようにやればいいよ。最低限のルールを破らない程度にね』
にっこり。カササギさんが言いながらそんな感じで笑う。この主治医はいつもよくわからない。自由という言葉が頭の中に突き刺さるけど、まるで外国語かのようによくわからない単語に感じられた。
『最低限のルール』
『そ。こっちの世界にもルールがある。現実の法律と同じ。そこはキミがよく使ってるHELPに載ってるし、HELPを見ても書いてないことは、仲良くしてる雑貨屋さんでもいいし、俺でもいいから聞いてくれればいいよ』
『ん』
カササギさんの言葉に一つ頷けば、満足そうな笑い声を立てられる。主治医は自分の回答の何かに満足したんだろうけど、やっぱりよくわからない。
『もし選択肢ができたときは、キミが決めていいんだよ。それを忘れないように、ゆっくりリハビリしていこうね』
そういわれて、自分で決めるという言葉に戸惑ったけど、もう一つ頷く。カササギさんはカップを大きく傾けて残っていた飲み物を飲み干すと、腰を浮かせてこちらの頭を緩くなぜる。
『プレイヤー相手で困ったときはすぐに連絡してね。何とかしてあげるから』
『支払いはしておくからゆっくりしておいきね』といいおいて、カササギさんはさっさと店を出て行ってしまった。置いていかれてしまって、どうしたらいいんだろうと思ったけど、とりあえず飲みかけのこれを飲み終わろうと、ストローから液体を強く吸い込む。舌に広がる甘さに不思議な感覚を覚えながら、「これ、飲み終わるのにどれくらいかかるだろう」となかなか減らないグラスの中身に顔が引きつった。
あれからてグラスの中身を飲み干すまでに、大分時間がかかったけど何とか飲み干せたのにほっとした。最後の方は口の中に充満してる味が気持ち悪くなってきて、量を考えてカササギさんと同じものを頼めばよかったと少し後悔した。同じ飲み物でも、ホットとアイスで量の差があるのは何なんだ、値段はあんまり変わらないのに。
若干タプついたような気がする腹部を軽くなでながら、足早に拠点へと向かっているところで、目の端になにかが映ったような気がしてそちらに自然と目線がひきつけられる。それは、小さな商店のショーウィンドウだった。
そこは洋服店らしく、壁一面のガラス窓の内側にトルソーに着つけられた洋服が飾られている。それはシンプルなつくりをしているのに、袖口や裾などのいたるところに丁寧に刺繍で模様を差し込まれ、その糸の色彩も布地を殺さない柔らかい色使いで美しいと思う。襟ぐりの大きさなどから、女性向けのものなのかと思ったけれど、よく見れば下はスカートではなく膝丈くらいのハーフパンツにも見えたが、シャツの胸部の作りが女性用にしては平坦なので、男性向けなのが分かった。
ここはそういう系統の男性向けの衣装を専門に扱っているらしく、デザインこそ違えど、似たような雰囲気のする洋服がいくつも飾られているのが見えた。
今まで与えられたことのないタイプのこの服がに合うのはどんな人なんだろうな、と少しだけ考えてから、自分の中にそれを想像するだけの知識もないことを思い出し、想定よりも時間を使っているのだからと、とりあえず拠点に戻ることを優先する。結局図案集の中身も見れていないし、「初心者のマクラメアミュレット」は染色したものも作ってみたい。ああでも、また必要なものを取りに行くのもいいかもしれない。無心で草をむしるのも嫌いじゃないような気がする。
拠点の玄関扉に手をかけて、ふと自分が「これをしたい」とやりたいことを考えていたことに気が付いた。主治医に言われたのは、「好きにやればいい」という言葉だけで、何かを指示されたわけではない。指示をされていないのに、やることがあるのは不思議な気分だった。
「……好きにやる、かぁ……」
ぽつりとつぶやいて、工房の中に駆け込む。再ログインして、工房を後にする前と同じように少しがらんとした室内の右奥にある作業テーブル、その上を通る交差しつつも完全に重なり合うことはないように張り巡らされたロープと、そのロープにひっかけられた複数の干し物用クリップ。
あのクリップに薬剤に浸した素材を吊り下げたら壮観だろうなと思いながら、作業テーブルに備え付けてあった椅子に腰を下ろして、作業テーブルに放置してあった図案集の表紙をなぜる。
まだ全く考え付いていないけど、あとからやってくるあの驚くような素材を使ったかばんはもう二度と作れないというくらいのものに仕立てたい。アメリーさんに見せられた布を思い出して、そう思う。あの時は正直頭の中が完全にパニック状態になっていて、聞かされた布の性能におののいてばかりだったけれど、あの布を本当にかばんにするのであれば、外側もあの布に見合うだけの出来にしなければならない。
まるで満天の星空を見上げたような、そんなきらきらとした美しい布に見合うだけの外装は、デザインからしてしっかりと考えないといけないだろう。そうじゃないと、あの美しい布がもったいないと思う。ログアウトした後も、時間があればネットでかばんを検索してどんな形のものがあるのか調べてもいいかもしれない。
そう考えたところで、やっぱり不思議な気分だった。指示をされないと動けないはずの操り人形だったはずの自分に、まるで自我が芽生えたような、そんな不思議な気持ち。いつか、完全に人形じゃない自分になる日が来るんだろうか。
昔、ずっとずっと願っていたことが叶うかもしれないという小さな希望と、それを何度も何度も叩き潰されて人形であることを刷り込まれてきた現実に少しだけ息がつまりそうになりながら、ひとまず図案集に目を通すかと図案集の表紙を開いた。




