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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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4.変わることと考えること 6

「あ、今何言ってんだこの人って思ったでしょ!」

「まあその通りですよね。フレンド登録ってなんです?」

 聞かれたとおりに素直に答えると、主治医はけらけらと笑いながら説明してくれた。

 フレンド登録とは、ようはプレイヤー間での連絡先交換の一種らしい。フレンド登録をしていると、個別でやり取りができるささやき機能というのが使えるようになるらしい。それで離れた場所にいる人とも会話ができるというので、現実でいう電話に近いのか、と感じたんだけど、まあそんな感じでいいらしい。それって友達なの?? と思ったけど、ゲームの慣習のような感じで「フレンド」と呼称されているらしい。

 そのフレンド登録を突然しようと言い出したのは、ようはこちらがいつ頃ログアウトするのかを、ゲーム内でも確認できるようにしたいのだという。まあ、一応忙しい人……のはずだよね。いや、うん。ゲームなんてやってる時間ないくらい忙しい人のはずなんだけど……。本当によくわからない人なんだよな、この人。

「そういうわけで、この後ログインしたら、モーガンの大通りの中央にある広場まで来てね」

「……わかりました」

 気は進まないけど、まあ要観察対象になってるのは理解してるから、主治医の提案にうなずいた。相変わらずうまく動かない体は主治医の指示にしたがってVRHMDをかぶり直してゆっくりと横たわり、ログイン操作を行う。少し慣れた感じがするぞわぞわに耐えて目を開くと、先ほどログアウトした、自分の手で若干景観の変わった工房が見える。

 実際に使い勝手を試したい気持ちがわいてきたけど、主治医にゲーム内で合流する約束を取り付けられたことを思い出してため息がこぼれる。ため息をついてても待ち合わせ場所に迎えるわけじゃない。若干気が重く感じてはおれど、足は慣れた調子で拠点を後にし、街路を歩き始めた。

 自分が目立つ方なのは、初日の視線でも察しがついているし、現実でもそれなりに目立つ方だった自覚はある。そして、主治医もその目立つタイプのはずだ。主治医は自分みたいな厄介者の主治医ができるだけ高名な、分野の第一人者でももちろんあるんだが、それ以上に人間性が、こう、こんなんになってるこっちが言うのもアレな感じだが、アレな感じだ。

 悪い意味ではないんだけど、自分としては主治医じゃなきゃあらゆる意味でお近づきになりたくないタイプだ。我が道を行くタイプで、人の意見は聞くけど聞いただけ、自分がこう思ったらこうでしょ! と突き進み、その最中に周囲の人間を巻き込むだけ巻き込んで騒ぎを大きくしていく、クラスカースト最上位のタイプだ。

 自分は真ん中の真ん中らへんの、どこのグループにも所属してないけど、若干目立つ感じの人間だと認識してる。

「ね、あの子ってもしかしてさ」

「あの日以降見かけた報告なかったけどまだ続けてたんだね」

 早足で主治医に指定された場所に向かう際中に突き刺さる視線。その視線の主と思わしき人々のささやき声がうっとうしい。こっちは見世物じゃないんだぞ、と振り払いたくなる気持ちを抑え込んで、指定された通り大通りの中央にある広場へとたどり着く。

 おそらくここは、オートラヴィーダに一番最初にやってきたときの広場だと思う。あの時は周りの視線にさらされているのが煩わしくて、すぐに小道の小道に入り込んだから周りを見てなかったけど。

 改めて景観を確認すると、まあ、今まで街中を何度か歩いてたので想像はついていたが、このモーガンという町は石畳とレンガの西洋風の建築物が多いようだ。石畳は比較的白みの強い石を規則的な形に切り出して埋め込んでいるように見える。さすがにモザイクアートのような色彩での絵柄付けまではいっていないらしくシンプルだが、歩きやすいし悪くないシンプルさだと思う。

 あと、個人的にレンガって赤いものだという思い込みがあったんだなと気が付いた。こう、学校の花壇に使われていたレンガブロックとか、いわゆる赤レンガ倉庫なんかのイメージが強くて、レンガ=赤いと刷り込まれていたが、建物に使われているレンガは白っぽいものも黒っぽいものも、灰色っぽいものもあった。中間に近い色もあって、さすがに青や緑なんかはないけど、それでも色合いの違いがあって面白いと思う。

「あ、いたいた。お待たせ~」

 そうやって中央の広場を眺めていると、そんな声が背後から聞こえて、振り返る。そこにはなんとも上等そうな装備に身を包んだ男が、こちらをにこやかに見ながら手を振っている。その顔は見慣れた現実での主治医の顔立ちと何ら変わっていないようだ。

「どうも」

「あはは、えーっとPC名はなんだっけ? 俺はね、疊鴼(かささぎ) 鸞瑪(すずめ)だよ。スズメくんでいいよ~」

「カナカです。カササギさん」

「カナカ君ひどいね~。とりあえずフレンド登録してね」

「……どうやって?」

「キミ、本当に機械音痴っていうか……。もうちょっとシステムに慣れなさいよ」

 主治医……カササギさんに苦笑されたと思ったら、目の前にポンッとウィンドウが出る。「疊鴼(かささぎ) 鸞瑪(すずめ) からフレンド申請が来ています。許可しますか?」というメッセージに、はいといい絵のボタンがある。一瞬いいえを押そうかなと思ったら。

「早くはいを押してね」

 と先手を打たれてしまったので、素直にはいを押す。すると、フレンドリストというウィンドウが出て、そこに「疊鴼 鸞瑪」という名前と、現在地、ログイン中と記載されていた。

「フレンドリストは出たかな。フレンドリストの名前をタッチして」

 言われる通りに「疊鴼 鸞瑪」という名前に指を触れる。

『そうすると、個別チャット、ささやき機能に切り替わるよ』

 まるで電話のように、突然向かいから聞こえていた声が耳元から聞こえてきて、ぞわりとした悪寒にびくっと体が反射で震えたのを感じた。すると、カササギさんは楽しそうに笑う。

『あ~、カナカくんのこれ見たかったから満足だわ』

『満足されたんなら僕は作業しに帰りますね』

『はいはい待った待った。帰さないよ~。ちょっと付き合ってもらうからね』

 そう言ってカササギさんは、こちらの腕をつかんだかと思うと西方面へと大通りを進み始める。

『ちょっと、僕そっちに用事ないんですけど?』

『現実ではいくつか聞き取り調査してるけど、こっちでも聞き取り調査が必要だからね、付き合ってね』

 そうして連れていかれた先は、大通りから一本入ったところにある小さなカフェだった。二階建てのカフェに入るなり、カササギさんは「上借りるよ」と言ってこちらをひっぱって階段を上り始める。足を段差で引っ掛けないように気を付けながらついていくと、二階は半個室のように衝立の仕切りがたくさんあり、その間に多くても四人掛けのテーブルセットがあった。

 その中でも一番奥にある二人掛けのスペースに入り、カササギさんはこっちを入り口側に座らせたかと思うと、そっと衝立の隙間にあった入り口部分をスライドドアのような衝立でふさぎ、奥側の椅子に腰を下ろす。

『カナカくんは何飲む? 俺はいっつもここはオリジナルブレンドコーヒーなんだよね。どれでも好きなの選んでいいよ』

 差し出されるメニュー表。目を通せば、一般的なイメージの喫茶店と同じような内容が記載されているので、少し考えてから名前は見たことがあるけど飲んだことのなかったものを指し示す。

 すると、カササギさんは何が面白いのかニコニコと笑みを浮かべて、自分の分のコーヒーと一緒にそれを注文してくれた。飲み物は一瞬の間をおいて、テーブルに誰もいないのに配膳されたので、ちょっとだけびっくりした。

『これ、オートラヴィーダの機能の一つで、店舗内の指定場所に一瞬で注文された商品を転送するんだって。便利だよね』

『そうですね』

『じゃ、最近なかなかできなかった面談を始めますか』

 湯気の立つコーヒーカップの取っ手に指をかけながら、カササギさんはそういってにっこりと笑った。

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