4.変わることと考えること 4
ひとまず、持ってきたものは全部買い取ってもらうことで合意して、若干やべーもんな気がする「初心者のマクラメアミュレット」の品質Aも全部売却することにした。自分で持っててもたぶん使わないしなぁ。
ということで、最終的に薬草を50、ファブル草20、ヴォルクスマーチェン花18、エラザフルン24、ミサス花16。「初心者のマクラメアミュレット」がC4つとBが10、Aが1つがアメリーさんに売却納品するものになった。
薬草は最初に摘んだ15は品質Dで1つ30B、残りの35が品質Bで1つ50B。それ以外の植物は、すべて品質Bで1つ55Bで。「初心者のマクラメアミュレット」はCは前回と同じく1つ300Bで、BとAはさっき聞いたばっかりの通り。
ということで、合計17,690Bになった。……うん、半分以上は作ったアクセサリーなんだけど、想像してた以上に素材も高値で引き取ってもらえてびっくりしてる。これで合計所持金が21,490Bになった。一応、初期所持金の倍になってるから、大分増えたような気がするよね。
うーん、ローンの返済と合わせて、拠点内の整備できるだけの金額になるのかなぁとちょっと不安になる程度の金額な気もするよね。
「うん? ああ、ローンに関しては気にしなくていいよ。お前さんから納品されてる分の売り上げで十分だからねぇ」
ありがたいことだよ、とアメリーさんはにんまりじゃなくてにっこにこになった。……うん、あの、なんかあとから怖そうだけど、さっきの品質Aの販売価格の話から、確かにこっちへの引き取り金額の支払いを考えても十分もうけが出てるだろうなぁとは思うけどさ、それでいいんだろうか……。
まあいいか。ほくほくしてそうなアメリーさんを見つめて、アメリーさんに欲しいものというか拠点の工房の設備について相談を始めた。
「ふむ、カナカ坊は魔法は使わないのかね」
「……まほー?」
乾燥させるのに吊るすようにしたいと伝えたところでこれだ。もしかしなくても、自分はこの世界で何かするのに向いてないんじゃなかろうかと悩んでしまう。そもそも魔法とは何ぞや、という話で、今しがたスキルを使えてなかったことが発覚した人間にいうことじゃなくないかい。
「はは、そんなこったろうと思ったよ。まあ、魔法はセンスがないとうまく使えないだろうからねぇ。魔法で乾燥させた方が早い場合もあるが、お前さんはとりあえずは魔法なしで考えた方が早いんだろうね」
確かいいのがあるよ。と続いた言葉にほっとした。魔法なんてどうやって使うんだ、全く想像つかないよ。鑑定の時もそうだけど、現実ではできないことをやるのはすごく難しいと思う。世のゲーマーって人種はすごいなと感心するばかりだ。
その後、アメリーさんにいろいろと相談して、室内に渡せる乾燥用ロープとそれにモノを留めるためのクリップ、完全乾燥させたいとき用の乾燥用ラック、溶液を小分けにできるような小分け用の小瓶セット、レシピを書き留めておくときなんかに使える汎用ノートと使いやすい万年筆とインクセット。それから、鞄に関しては一枚の布を持ってきてくれた。
「……この布は?」
「これはね、知り合いの織物職人がお試しに作った今のところこの世界に一枚しかない布でね。ソイツの想定が正しければ、この布を鞄の内布として使用することで、空間魔法と時間魔法の作用する倉庫のような空間ができるはずさ」
「……????」
「あっはは、カナカ坊の頭がついていってないねぇ。とりあえず、お前さんはすでにマクラメの平結びは随分と上達した。マクラメのほかの結び方も使えば、お前さんのための、大容量かばんになるだろうさ」
あ、これ自分でかばん作れって言ってるのか……。かばんを作るには平結びじゃ難しそうだから、まだ触ってない巻き結びとかが必要になりそうなんだけどさ。ちょっと自信はないんだけど、アメリーさんがせっかくこういってくれてるのなら、作れるのかもしれないなと思う。
「実際にかばんにするときはフルーリングスルフトの毛皮から紡がれた毛糸を、フリューデ草とグロル草の花の粉末を混ぜ合わせたファヴェルイレン液で脱色加工すると、防水になるよ。あと、ミットファブンフェン液にヴェスターケン液を混合した染色液で染色することで、そのままよりは少し持ちがよくなるはずさ」
そういいながら、アメリーさんは三冊の本を出してくれる。初級から中級のアクセサリーアイデア集、染色や脱色に関わる薬液と染料について、誰でも使えるデザイン図案集。そう書かれている本とアメリーさんを見比べれば、アメリーさんは相変わらずにんまり顔をしていた。
「カナカ坊はきっと入門書に書かれたものを一通り作ってみようと思ってるだろうね。でも、あの入門書は本当にそれぞれの素材でできる最低限しか載ってなかったはずさ。それじゃあ、お前さんはすぐにできることがなくなってしまうだろう? 金属類を扱うのはまだ早いかもしれないけど、知識を増やすのはいいことだと思うからね」
「ありがとう、アメリーさん。……ところで、全部まとめておいくらですか?」
にっこにっこになったアメリーさんに提示された金額に、さーっと血の気が引く音が聞こえた気がする。内布として出してきた布、1メートルで5,000,000Bって言われたんですけど??? まって、こっちがそんなに持ってないってわかってて言ってない、アメリーさんんんんっ。
「いやー、カナカ坊は面白いねえ。冗談だよ冗談。まあ、それだけの価値はあるんだけど、正直理論が合ってるかわからない試作品なのさ。カナカ坊がかばんを作って理論通りになれば、今後その値段で売り出そうかと思うよ」
「そんな高価な試作品を僕に渡さないでくれるかな??」
「とはいってもねえ。布を作れる織物職人はいるんだけどね、現状、品質Aに届く可能性のあるかばんを作れそうなアクセサリー職人も裁縫職人も誰もいないんだよ。カナカ坊以外はね」
「えぇ……?」
「というよりも、昔はいたんだけどね、いなくなっちまったんだよ。ま、カナカ坊に売った工房の持ち主さ。織物職人は織物の才能はあっても、かばんを作ることはできない。というか、本人が頑張って織物ができなくなるくらいまで手をボロボロにしちまったから、職人連合の面々でかばん制作を止めたってのが正しいんだけどね」
「それは……なんというか……」
「で、その本人の失敗から、品質が低いと内布の効果が発揮されないことがわかってるからね。カナカ坊に検証の意味も込めて作ってみてもらいたいのさ。できたかばんはもちろんカナカ坊が使ってくれて構わないし、そのためのかばんの試作の材料費は織物職人持ちだから安心しな」
それでいいのか? と少しの疑問はわくけど、ちょっと興味もわいたのは事実だった。マクラメのかばんってアクセサリーの領域なのかな、という素朴な疑問はおいておいて、少し大きいものも作ってみたい気持ちになったので、アメリーさんの言葉に頷いて引き受けることにした。
うまくいったら、素材を集めてくるのにすごく便利な気がするし。さっきアメリーさんが出してくれた本も、どうもこのかばんのためらしくて、冊子の代金も織物職人さん持ちらしい。
実質自分で支払うことになったのは、さっき上がった拠点用の用品も小分け用小瓶以外は全部織物職人さん持ちになった。本当にいいのかな、それで。しかも、かばんようにするなら結構な量のフルーリングスルフトの毛糸が必要だから、それの脱色染色用の大型容器も付けてもらって、ほんとにこれでいいのかな、と何度目かの疑問がわいてくる。
とりあえず、乾燥用ロープとそれにモノを留めるためのクリップ、小分け用の小瓶セット、ノートと使いやすい万年筆とインクセットと本三冊についてはその場で受け取って、乾燥用ラックやそれ以外の素材類は後ほどまとめて拠点まで配送してくれるらしい。
かばんの制作はそれが届いてから試していいということなので、一度拠点に戻ることにしてアメリーさんの雑貨屋を出る。
拠点に向かって進みながら、少しだけ冷えた頭で考えた。
(……品質Aの「初心者のマクラメアミュレット」よりやべーもん作ることになってない……?)




