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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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4.変わることと考えること 3

 一瞬、何を言われたのかわからなくて首をかしげてしまった。最高品質なのにBとはどういうことだろうか。脳裏によぎるのは、「B級品」という現実世界で時々両親だった人間がかすかに歪んだものや、傷の付いたものを見下すようにしていたのを思い出す。Bという品質は、現実世界では一歩劣ると、そう認識されるものだったが、それがこのゲームの世界では最高品質なのか……?

 こちらが困惑しているのがわかるのか、アメリーさんは笑って、「まあ聞きな」と言う。

「制作物の品質はね、素材の品質も関わってくるけれど、職人のスキルレベルだけじゃなく技術が必要になる。が、現在の職人の大半は技術が足りず、どんなにスキルレベルを上げても品質がBまでにしかならないのさ」

「技術が足りない?」

「そう。ところでカナカ坊。カナカ坊はこの「初心者のマクラメアミュレット」をどうやって作ったんだい」

「どうやってって……」

 アメリーさんの問いかけの意味が理解できず、やっぱり首をかしげるしかない。こう、手で作るという以外にどういえばいいんだろう。こちらの困惑をよそに、アメリーさんは「それができない職人ばっかりなのさ」という。

 ……それができない、とは?

「ごめんなさい、よくわからないよ」

「ふむ、ほかのユーバーは大体理解して居るようだったんだがねぇ」

「あ、それなら僕はわからないや。僕、こういうゲームをやる(ほかの世界にくる)のは初めてだから」

 それはわからないわ。いや、ゲーマーの常識とかほんとにわからない。たぶん、このゲームをやってる人って自分と同じくこのゲームが初めてのゲームって人はほとんどいないと思う。同じようなクソみたいな親に当たった人ならそういう人もいるかもしれないけど、それでもこのご時世でゲームを一切やってない人間はほぼいないと主治医からも笑われたことを覚えてる。

 だから、ほかのプレイヤーが理解してることを、たぶん理解できてない自覚はある。そういう意味でいうのであれば、アメリーさんと契約したのと同じく、ゲーマーの常識では行わないようなことをやっていてもおかしくはないと思う。

「ふむ、そうなのかい。まあ、もしかすると、だからお前さんは品質Bの壁を超えられたのかもしれないねぇ」

 にんまりとした笑みを浮かべて、アメリーさんが続ける。

「この世界の人間もユーバーもそうだが、職人を名乗る連中の大半は、ある程度スキルレベルが上がればスキルで制作を行うんだよ」

「……スキルで制作を行う??」

「ああ、そうさ。カナカ坊はスキルを使ってるかい?」

「鑑定は、使ってる」

 というか、それ以外使い方がよくわかってない。スキルのレベルは……うん、なんかよくわかんないうちにいっぱい上がってるね。上がってるけど、スキルってのはどうやって使うの。想像がつかないんだよね。

「それと同じさね。スキルを使って制作を行うと、どうしても品質はBまでにしかならないんだ」

「???」

「ふーむ、カナカ坊は本当にわかってないようだねぇ」

 完全に理解の範疇外で困惑しているこちらに苦笑したアメリーさんは、先ほどこちらから買い取った薬草を数枚と、それから、どこからか取り出した三角フラスコのような形の瓶を取り出した。

「見ていなよ、カナカ坊」

 アメリーさんはそういうと、右手を薬草と三角フラスコの上にかざす。そして。

「調薬」

 そうアメリーさんがつぶやくと、アメリーさんの手のひらから小さな光が生まれて、光が薬草と三角フラスコを包み込む。数秒間光り続けていたかと思うと、ふっと光が消えた。光が消えた後には、薬草がなくなって三角フラスコの中に緑色の液体が入ってた。

「制作系のスキルは、こうやってスキルでアイテムを作成ができるんだよ。カナカ坊はこうやっては作ってないだろう?」

「……うん、そうだね」

 むしろそんな作り方があるのを今初めて知ったよ。ゲームってすごい。いや、あの、入門書にもそんなことどこにも書いて無かったよね? HELPのどっかに書いてあったのか? わかんない。書いてないなら、ゲームでのお約束みたいな感じなのかもしれないなぁ。

「こうやってスキルで制作することは簡単さ。簡単だからこそ、技術は磨かれない。ゆえに、職人を名乗る大半は品質Bの壁を越えられない」

「スキルを使ったら職人じゃないの?」

「ああ、言い方が悪かったね。スキルを使うこと自体は悪くないんだよ。スキルを使うことに慣れて、それに驕るのが悪いのさ」

「ん……。なんで職人たちはスキルで作るの?」

 まず、そこがわからない。スキルで作る理由とは? そこがわからない。手で作るのが嫌なのかな。

「時間をかけずに稼ぎたいのさ」

「稼げるの?」

「そりゃ、稼げるさ。なにせ、材料さえあれば同じ時間で手作業で作る何倍もの数の作品を作れるんだからね」

「あ、そういうことか」

 そこまで聞いてようやく理解できた。それはそうだ。手作業で1つずつ作る時間で何倍も数を作れるなら、同じ金額で売却できるならそりゃいっぱいできる方が稼げるだろう。それは納得できることだ。

「品質が上がれば何かあるの?」

 ひらすら没頭して作ったのは事実だけど、その品質の壁を越えたら何かあるんだろうか。壁、だから品質A以上は何か特別扱いされるんだろうか? 確かに、若干鑑定結果は違ってた。

 そうして思い出すのは、品質Aの鑑定結果の文章の相違だ。


 初心者のマクラメアミュレット

 性質:風/雷属性 品質:A 売価:50B

 アクセサリー職人の見習いが作成したマクラメアミュレット。蝋引き紐ではなく植物で作成されているため、処理によっては劣化を興す。

 エルガー草の芯材に、ウェアツヴァイフル草の茎を蔓として基本である平結びで結ばれたマクラメ。その素材の通り風属性と雷属性に強い耐性を持つ。

 誰かから零れ落ちた怒りと絶望のはて、縒りあげられたそれは誰かに届くのか。結びついたはて、昇華される日を待ち続ける。


 なんか一文増えてます。これ、素材で文言変わったりする? だってさ、エルガー草(怒り)ウェアツヴァイフル草(絶望)だよね。明らかに素材の意味が反映されてるよね? グロル草(恨み)トラウリギケイタ草(悲しみ)もあるから、ちょっとそっちでも作ってみようかな。

「ああ、もちろん品質Aはめったにだ回らないから、高値になるよ。品質Bが500Bで、品質Aは5,000Bだね」

「ふぁ????」

 アメリーさんが提示した品質Aの「初心者のマクラメアミュレット」の買取価格に、たぶんすごい間抜け面をしていた自覚はある。待って待って、Bが500なのにAが十倍の5,000なの!?

 びっくりして固まったこちらを見て、アメリーさんがにんまりと笑う。

「それだけ品質Aの制作品っていうのは希少なのさ。ま、カナカ坊が大量に持ち込んでくれるようになったら値崩れするだろうがね、それでも当面は無理だろう。このペースで持ち込んでくれても、「初心者のマクラメアミュレット」であっても、むこう十年は飛ぶように売れるよ」

 価格をさらに十倍の50,000Bにしてもね。そう続いた言葉に、もしや自分はやべーもんを作ってしまったんではなかろうか? と若干の嫌な予感がひしひしとし始めた。

12/6 すみません、誤字とルビ化忘れに気づいたので修正しました。

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