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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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4.変わることと考えること 1

 色褪せた景色。すごい勢いで流れていくそれをガラス窓越しに眺めながら、意欲のわかない大会を思い出してため息がこぼれる。周囲には大会を楽しみにしているというよりも、優勝できることを前提とした驕った発言を繰り返す同年代の少年たち。バカみたいだなと思いながら、こいつらと話をしたくないからじっと外を見つめる。

 他人に拳を向けるのは好きじゃない。殴った拳は痛いし、相手側の肌が痛そうな色になるのを見るのが本当に嫌だった。でも、両親はそれを喜んだ。人を殴って、蹴って、大会で優勝すると、「お前は自慢の息子だな」って、汚い顔で嗤う。その顔を見るのが嫌だけど、逆に殴られて顔に痣を作ったりすると、息ができないくらいに頭を、おなかを、足を、顔の痣の何倍も叩かれて、蹴られた。だから、自分が殴られないように相手を殴る技術だけは上がっていった。

 それは大会に出場させられるたびにどんどん磨かれて行っていたけど、何一つうれしくなかった。年を重ねるにつれて、大会で優勝するのは当たり前で、そのためだけに格闘技の道場に所属させられているような状態だった。大会の出場メンバーにこちらが含まれていれば、今、前の前で捕らぬ狸の皮算用をしてる奴らと同じように、同じ大会の出場メンバーは優勝した後のことを話す。

 それが嫌で嫌でたまらなくて、自分の力じゃない優勝を、まるで自分の事のように胸を張って自慢するそいつらの醜さが嫌で嫌でたまらなくって。いつも、大会に向かうための集合から、解散までの時間は本当に苦痛だった。もっとも、家に帰ってからもあの両親に優勝した後の指示をされる。

 両親の言うことを聞いている自分は何なんだろうと思うことは何度もあったけど、それに気づかれるたびに自分のなにもかもを否定されて、息ができないくらいたたかれて、蹴られて。体は両親から指示されたとおりにしか動けなくなってて、自分って何なのかわからなくなって。そうして。

 ふっと、体が軽くなるような感覚がして、瞼の上から真っ白くて強い光に焼かれるような感じがして、目を開ける。すると、こちらの顔を覗き込んでいる、いつもあの味気ない食事を配膳してくれている配膳係の人。配膳係の人が何か言ってる気がしたけど、よくわからなくて、体も動かなくて、ぼんやりと天井を眺めてたら、いつもの主治医がやってきた。

 主治医に「指示」されて、ようやく体を起こすことができて、ああ、なるほど? と納得した。主治医からの「指示」で配膳係の人に起こされるまでに何があったか話すように言われて、自分の口が勝手に指示に従って数年前のことを夢で見ていたことを自分でも知った。

 道理で体が動かないわけだよな、と自分では納得してたんだけど、主治医も「あらら、ぶり返しちゃってるねぇ」と苦笑されるだけで終わったんだけど、主治医の助手の人とかはこっちを痛ましいとか言いたげな目で見てくるんだよね。ちょっと面倒な。

 それは置いておいても、どうしようかな。指定されていた午前の行動を終わらせたら、感会えていた通りゲームをやるつもりだったんだけどな。そんなことを考えていたら、主治医から「何かしたいことあるかい?」と聞かれたので、「ゲームやりたいかも?」といえば、主治医が楽しそうに笑って人の頭に無遠慮にVRHMDを被せてきた。ちょっと、とがったとこで怪我したらどうするつもりだ。

「今日は特別ね。午前の時間も体が動かないならゲーム内でリハビリしてくること」

 いいのかな、と思ったけど、主治医がそういうならいいんだろう。若干のめんどくささもあって、主治医に促されるままにゲームへとログインする。ログインするときのぞわぞわは、体が動かないことに意識が割かれてあまり気にならなかった気がする。

 ログインしたのはここ最近いつもログアウトしていた工房で間違いないんだけど、若干体の動きが鈍いような気がする。体全体に力が入らず、まるで水の中で動いてるような、そんな負荷が全身にかかっているような気がしたけど、とりあえず動くことはできたからそのまま動くことにした。

 とりあえず、当初の予定はウェストポーチに詰め込んだ制作物とアクセサリー制作に必要という記載がない素材の売却だから、アメリーさんのところまで行ければ……と思ったんだけど、その前にふっと視界に入った、黄奥の中よりもきれいな黄色に染まったウェアツヴァイフル草の茎。

「あれ、すごくきれいに染まってる……」

 あれほど染まる気配のなかったウェアツヴァイフル草の茎が、少しきらきらとした黄色、金色? にも見える色にしっかりと染まっている。この色はとてもいい感じだと思ったので、出かけるよりも先にウェアツヴァイフル草の茎の処理をしようとアクセサリー制作に入っていたピンセットに手を伸ばす。

 一枚、大き目の油紙を取り出して、その上にウェアツヴァイフル草の茎をできるだけ丸まらないように、重ならないように一本ずつ広げていく。確か、染色が終わった後は完全に乾燥させる必要だったはず。完全に乾燥。大分かかるのかな。ちょっと、一緒にアメリーさんに聞いてみようかな。

 それから、必要なものを考える。正直、やっぱりこの乾燥方法は場所をとるし、油紙に接してる部分は乾かない気がする。だから、乾燥方法はもう少し考えなきゃいけないと思う。それから、完全に乾燥してれば大丈夫らしいけど、染色後に漬け込むフレシェバーン液も別枠で容器を用意したほうがいいはずだ。そういう容器もいいのがないか聞いてみよう。

 う~ん、欲しいものが増えると、お金が足りないと感じてしまう。もし、薬草とかの素材でいい感じの買い取り額になりそうだったら、連続ログイン制限までをひたすら素材採取で使うのもありかもしれない。素材はあればあるだけアクセサリー制作の練習になるし。

「……メモ帳とかないかな」

 欲しいものを書き留めておきたい。記憶力が悪いとは思ってないけど、やっぱり目で見える形で残したい。メモ帳と筆記用具も欲しいな……。あ、あと、もっと入るカバン。現実でこんなに欲しいものができたこともなかったから、お金がないことが悲しいと思ったことなかったよ……。

 とりあえず、アメリーさんのとこに行ってみよう。なにかいいものがあればいいなぁ。

原神の5.2が来たのでそっちに意識が割かれてます……。

4日に1回は投稿できるように何とか頑張ります。

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