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2.始まりの街 1

 ウサギから送り出された先は西洋風の街並みだった。石畳とレンガの街並みは、現実でもありそうな雰囲気で違和感はそこまでない。同じくOtra Vidaを始めたばかりだろうやたら目ったらカラフルでシンプルな服装の人間が周囲を駆け回っている様子は、なんだか子供みたいだ。

 それにしても、主治医からは剣と魔法のファンタジーの世界と聞かされていたけど、よくわからない。ただ、シンプルな服装じゃない人も何人もいて、その人たちは鎧だったり剣だったりを身に着けてるから、なるほど、ファンタジー。

 なんだか周囲から見られているような感覚がするのが気持ち悪い。視線が刺さる。若干の吐き気を感じながら、とりあえず人通りのない方に歩くことにした。しばらく歩いて、裏路地のようなところにたどり着いた。薄暗くて、人がいない場所。ゴミなんかは転がってないから、たぶん近隣の家々が使っている通路のようなものなんだろう。

 喉を大きく開くように心がけて二度、三度深呼吸。そうして、そっと路地の隅に座り込んで、メニューとはどう拓けばいいのかと首をかしげる。

 が、そう考えた直後に目の前にパっとエアディスプレイが表示される。なるほど、考えるだけで出てくるのか。便利。

 メニューにはいくつも項目があったが、その中から「HELP」を選ぶ。「HELP」のQ&Aを開き、「スキル」というものについてを熟読する。

 文字を読むことは苦にならない。音声と文字だと感じ方が変わるから、説明は文字で読みたい派。

 ある程度読み込んで、とりあえずOtra Vidaの世界では行動がすべて「スキル」で表現されるということが分かった。「HELP」を読みながら、スキルという項目を開けば、何も選んでないはずのスキル項目に「歩行 Lv.1」「視線察知 Lv.1」というスキルが増えている。

 各スキルの横にあるレベルとは、熟練度というやつらしい。この熟練度は、そのスキルにそくした行動を取るたびに増えていき、最大Lv.100まで行くらしい。最大レベルになったら、そのスキルの上位スキルや派生スキルの取得条件を満たすことになるとあるけど、そこはよくわからない。

 とりあえず、「歩行」スキルのレベルが上がれば歩くスピードが上がるらしい。同じように、スキルの熟練度が上がるだけその行動をやりやすくなるというのもあるらしいので、持っているスキルにあった行動をしてスキルの熟練度を伸ばすのがいい、らしい。

 たぶん、この「歩行」と「視線察知」はさっきこの世界に来てすぐに歩いたし、出たばっかりのところでやたら視線を感じたのがそのままスキルになったんだと思う。

 ある意味すごいな。意識してなくても増えるなんて。

 あとは、スキル獲得ポイントというやつでスキルを選んで取得できるのと、住人に教えてもらって覚えるのがあるんだっけ。

 ……何を覚えてるといいとかあるのかな。

 「HELP」の中からおすすめの取得スキルという項目を見ると、どうもどんな遊び方をするかでおすすめが変わるらしい。剣と魔法のファンタジーで戦いたい人はそういう方向だし、のんびりと物を作ったりしたい人はそういうスキルを取ればいいらしい。

「ん……のんびりしたい」

 クソ親に無理やり習わされた格闘技各種。やりたくもないのに長年やらされ続けたそれは体に染みついているけど、わざわざここでまで暴力的な行動をしなくてもいいよね。

 のんびりあんまり外に出なくてもいいのはたぶん後者だよね。剣と魔法のファンタジーだから外には魔物っていうのがうろついてるらしいんだけど、街の周りにはいないらしいから、戦わないなら後者がいい。

 後者でおすすめは、農業とか、調合とか、細工とか?

 どれにしたらいいかわかんないな。どんなものが作れるかとかは……さすがに「HELP」にも載ってないや。

 と思ったら、突然街の地図が表示され、今いる路地から数本行った先の大通りが点滅する。なんだなんだと思ったら、「プレイヤーによる露天街が形成されている地域」とコメントが表示された。

 ほうほう? つまりここに行けばどんなものが作れるのか確認できるってことか。

 フルダイブ式はプレイヤーの思考を脳波から読み取ってくれるって主治医が言ってたけど、これは確かにすごいな。

 無意識に抱え込んでいた膝を伸ばし、立ち上がって尻や地面に接してた部分の服を軽く払う。そこまで意識せずに腕を動かして、ほぅっと息をつく。今しがたすごいなと思ったけど、このリアルさもすごい。現実と何ら変わらないこの感覚は、何も特別なことをする意識をしなくてもよい。まるで意識だけではなく、肉体ごとこの世界にやってきたような、そんな不思議な感じにもう一度吐息がこぼれた。

「あ、露天? ってのあるとこ行かなきゃ……。僕、いまどこにいるんだ?」

 ひとまず視線から逃れることを優先して入り組んだ路地であろうと気にせず入ってきてしまったから、現在位置がよくわからないことに気が付いた。その露天がある場所もいまいちわからない。ひとまず大きな通りに出られないか歩き回ってみるべきか。

 そう考えると、ポンっと一つ電子音を立てて目の前に半透明の地図が表示される。それは少し細長い六角形の形をした街の地図で、街の中央には十字にかなり大きいと思われる通路が通り、そこから少し外れた場所にピコンピコンと点滅する青い光があり、そこから赤い矢印が伸び、大きな通りを素通りした先にまるで目的地といわんばかりに小さなエリアが薄ピンク色に染まった。

 もしかして、これは青いのが現在地で、ピンクが目的地だろうか。地図の端っこに小さく表示されている「?」マークを押せば、簡潔にマークについての説明が表示される。その説明は、思った通りのことが書かれていた。そのほかに、フレンドなどの表記もあるが、人付き合いについては慎重を期す必要があると思うから、いったん無視する。

 地図に表示されたとおりであれば、そこまで目的地は遠くないらしい。現在地は六角形を縦横に四分割した、右上の区画の東西に走る大通りから少し入った場所。目的地は六角形の四分割の右下の区画で、こちらも東西に走る大通りから少し内に入ったエリアだ。

 どうやらちょうどよい感じにまっすぐ大通りを縦断すれば目的地に着くようなので、地図に表示されたとおり、素直にまっすぐ歩き始めた。

以下現時点のステータス


PC名:カナカ

身体状況:五体満足/所持金:10,000

拠点:なし

所属:なし

取得済みスキル:歩行Lv1/視線察知Lv1

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