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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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3.アクセサリーを作ってみる 7

 アメリーさんのお店を出た後、ひとまず拠点へ向かって足を進める。そのまま東門から出たところで採取をしようかとも考えたが、よくよく見れば、もうすぐ連続ログイン制限の時間になってしまう。

 それもそうか、あれだけ「初心者のマクラメアミュレット」を作るのに集中していたんだから、そうなってもおかしくはない。一つ作るのに数十分かかっているのだから、当たり前だろう。アメリーさんに見せてもらったあの複雑な形のマクラメは、一つ作るのにいったい何時間かかるんだろう。20センチにも満たない、「初心者のマクラメアミュレット」でこれだけかかるんだから、数時間はかかりそうだ。

 だから、一度拠点に戻って買ったものを置いておこうと、そう思ったのだ。ありがたいことに、ウェアツヴァイフル草の花を染料にするなら、しっかりと乾燥させて粉末状にすればいいとアメリーさんから小話程度に聞かされたので、次はウェアツヴァイフル草の花の染料で染色もしてみたいものだ。

 早足で戻った拠点の工房になっていた部屋に入ってそういえばと室内をぐるりと見回す。

 工房の部屋はそこそこ広い。さっきは作業テーブルに直行してしまったけど、よく見ればいろんなものがあることに気づいた。アクセサリー制作に使った一番大きな作業テーブル以外に、その横には大きなガラス戸付きの戸棚が三つ。中は空になっているけど、素材なんかはここに保存しておけばいいのかもしれない。作業テーブルとは部屋の制反対側にかまどのようなものがある。ほかにも陶芸用なのかろくろなんかも置いてあるし、いったい何に使うための設備なのかよくわからないものもいくつもある。

 この拠点を元々使っていた人はどんなことしてた人なんだろうなぁ。少しだけ興味がわいたけど、連続ログイン制限が迫っているからあわてて購入してきた素材を戸棚に放り込む。それから、テーブルの上に広がっている草花を見て、整理方法を考えなきゃなと思いながら、とりあえず素材ごとにかためて戸棚に放り込んでログアウトした。

 VRHMDを外してから、明日の予定を考える。まず、「初心者のマクラメアミュレット」追加で作るなり、別のものを作るなり、どちらにしても素材が足りないの現実があるので、素材を取りにいかなければならない。アメリーさんのお店である程度買取をしてもらうこともできると言ってたから、とりあえず片っ端からウェストポーチに入らなくなるまでむしればいい。

 そこまで決めてから、ふと思い出したことを調べようとスマホをしまい込んであったサイドテーブルの引き出しから取り出す。手に持ってから、なんだか不思議な感じがした。ここにくる前は、一時間に一回は通知を確認して新しい支持が入ってないかを確認していたのに、今はもう使うことなくこうして引き出しの中に眠らせるばかりだ。

 そう思いながら、インターネット用のブラウザアプリを立ち上げ、手早く検索ウィンドウに文字を打ち込む。数秒の時間をかけて出てきた検索結果を見て、思わず「まじか……」と声が漏れた。検索したのは、「マクラメ」という手法の現実での作品だ。出るわ出るわ、これどうやって作ったんだ? と首をかしげるようなとんでもない作品群が。色もカラフルだし、アメリーさんのお店で一番最初に見せてもらったような、きれいなのがいっぱいあった。結び方も図解してくれてる画像が出てきて、平結び以外の結び方をいくつか頭の中に叩き込む。

 手元に素材がそろってたからって理由で始めたけど、想像していた以上にマクラメって深いのかもしれない。結び方もいくつもあるし、その結び方の組み合わせで雰囲気が全然違う。これ、編み物も同じなんじゃないかな。そう考えたら編み物はどんなものがあるんだろうと気になってしまって、編み物で調べたら、もっととんでもなかった。

 きらきらが気になって気軽にアクセサリー制作を選んだけど、もしかしなくても結構むずかしいんじゃないか、これ……。ちょっと失敗したかなと思いながら、でも一度始めたんだからできるところまではやろうと思いながら、いつの間にか配膳されていた味気ない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。

 いつもと変わらない錠剤が、なんだか苦く感じられたのは気のせいだろうか。気のせいだろうと思いながらスマホを引き出しの中に仕舞い直して上かけをかぶって目を閉じる。真っ暗な視界の中で思い浮かべるのは、今日何度も作った「初心者のマクラメアミュレット」だ。

 ただまっすぐに結ぶだけなのに、均等に力をこめないとぼこぼことゆがんだあの形を、満足いくまでに何度も結び直した一番最初のは少しよれてたけど、それでも品質Eでアクセサリーとして認識されてた。一つ一つ作る度に「こうすればいいんじゃ」という気づきがあって、徐々に品質が上がったことはその気づきがまちがってなかったとおもわせるものだった。それは、いやいやとはいえ習わされていた格闘技の技が形になっていくときの感覚と似ていた。

 ふっとまぶしい気がして目を開けると、もう日が昇っている。眠っていたのか、考え込んで寝ていなかったのか自分でもわからないけど、起床の時間だから体を起こす。そして出された味気ない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。喉に引っかかるような感覚に首をかしげながら、今日のスケジュールを確認して移動するためにたちあがった。

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