3.アクセサリーを作ってみる 6
すたすたと街中を進むけど、街の中央に十字に通っている大きい通り以外にはほとんど人がいない。時々少し広めの路地を通っている人もいるけど、そのほとんどがどこか目的地に向かって進んでいるのもあり、本当の小道のような路地を進んでいる人も、そこにとどまる人もいない。
まあ、よくよく見たらこの辺りは店舗らしいものは見えず、比較的住宅地のようにも見えるから、あまりやってくる人もいないんだろうなと感じながら、相変わらず大通りを横切ればこちらを刺す視線に気分が悪くなるのを感じながら、とにかく速足で通り過ぎた。
「おやまあ、工房は気に入ってくれたかい?」
少し勢いよく入ってきたこちらを見て、アメリーさんが相変わらずにんまりとした笑みを浮かべながら歓迎してくれた。店内にいたお客さんには目もくれず、アメリーさんはこちらを手招いて店の奥に入っていく。一瞬戸惑ったけど、そのあとについて店の奥に進めば、店頭に並んでいるよりも何倍もの数の商品が所狭しと並べられていた。中央には何も載ってない簡素なテーブルと四客の椅子があり、入ってきたのと反対側にも扉があった。
「さて、早いけどもう納品に来てくれたのかい?」
「それもあるんだけど、聞きたいこともあって」
素直にそういうと、アメリーさんは部屋の中央に置いてある椅子に座るように促してくる。いわれるままに椅子に座れば、アメリーさんはどこからか持ってきたティーカップをテーブルにおいて、向かいの椅子に自分も腰を下ろした。
目の前に置かれたティーカップに、そういえばオートラヴィーダの世界でまだ一度も飲食したことがなかったことを思い出して、そっとカップの取っ手に指をかけて、ゆっくりと口を付ける。鼻孔をくすぐった香りはほんのりと甘い。口に広がるのは遠い記憶の中で一度味わったことがある、紅茶の味と同じだった。
「……おいしい」
ずいぶんとまあ久しぶりだ。本当にこの世界だと味を感じられるらしい。ぽつりとこぼれた言葉を聞いて、アメリーさんがにんまりと笑った。
「それはよかった。それじゃあ、先に聞きたいことってのを聞こうかね」
アメリーさんに促されて、少し考えながら聞きたいことをまとめて尋ねた。採取したアクセサリー制作に必要ない素材を買い取ってもらえるところはあるのか、ということと、今ある素材では足りない素材があるが、その素材の取り扱いはアメリーさんの雑貨屋にあるのか、という二点である。
後者に関しては、アメリーさんのところになければ採取しにいかないといけないなぁと考えていれば、アメリーさんは相変わらずにんまり顔で答えてくれた。
「そうさね、素材にもよるが基本的にはウチで買取ができると思うよ。アクセサリー制作用の素材についても、ウチである程度の取り扱いはあるさ。まあ、種類によっては常時入荷はしてないから、お得意筋からの取り寄せ待ちになるかもしれない」
「そっか、ありがとう。あとでいくつか購入させてほしいな」
「かまわないよ」
「それじゃ、作ったのだすね」
アメリーさんに一言断ってから、ウェストポーチにぶち込んできた「初心者のマクラメアミュレット」をすべて取り出す。
出来上がったのは全部一緒なのかなと思ってたけど、ちゃんと鑑定してみたら微妙に鑑定した後の表示の文章が違ってたんだよね。
初心者のマクラメアミュレット
性質:風/雷属性 品質:D 売価:35B
アクセサリー職人の見習いが作成したマクラメアミュレット。蝋引き紐ではなく植物で作成されているため、処理によっては劣化を興す。
エルガー草の芯材に、ウェアツヴァイフル草の茎を蔓として基本である平結びで結ばれたマクラメ。その素材の通り風属性と雷属性に若干の耐性を持つ。
初心者のマクラメアミュレット
性質:風/雷属性 品質:C 売価:40B
アクセサリー職人の見習いが作成したマクラメアミュレット。蝋引き紐ではなく植物で作成されているため、処理によっては劣化を興す。
エルガー草の芯材に、ウェアツヴァイフル草の茎を蔓として基本である平結びで結ばれたマクラメ。その素材の通り風属性と雷属性に少々の耐性を持つ。
こんな感じで、作った「初心者のマクラメアミュレット」は三種類あった。一番最初に鑑定した時と同じ結果になったのは、やっぱり最初の方に作ったやつ。後の方になると品質がDかCになってて、とりあえずアルファベットのAに近い方がたぶんピンキリのピンで、Zに近い方がピンキリのキリなんだろうなと予想してる。
テーブルに広げた「初心者のマクラメアミュレット」を一つ一つ手に取って、アメリーさんはなんだか驚いたように目を丸くした後、はぁ~と大きくため息をついた。いったいどうしたんだろう、とアメリーさんを見てると、アメリーさんはこちらを見てにんまり顔が崩れて苦笑になる。
「いやはや、まさか初回からCランクの品を作ってくるとはねぇ」
「えっと、まずかった?」
「いいやぁ。うれしい限りさね。自分の目の正しさにちょいとびっくりしてただけだよ」
そう言ったアメリーさんは、手早く広げられた「初心者のマクラメアミュレット」を品汁ごとにまとめて計算に入る。そして、アメリーさんが何かを触ると、目の前に一枚のウィンドウが表示された。
そこには「初心者のマクラメアミュレット」の品質と個数、それに対する値段が記載されていて、合計額が……2,300?? あれ、売価ってそんな高かったっけ?
「アメリーさん、鑑定の売価と違うけど……」
「売価? ……ああ、それはギルドに売却したときの価格だよ。ギルドはね、その商品の価値とは関係なく品質価格で買い取るからねぇ」
そうなの? 計算を確認すると、今回持ち込んだのは合計11個。で、内訳がEが4つとDが4つ、Cが3つだった。今回アメリーさんへの納品価格が、Eが150、Dが200、Cが300になってる。Eで600、Dで800、Cで900になって、600+800+900だから、うん、合計としてはあってる。
でもいいのかな。だって、アメリーさんだってギルドと同じ価格で買った方が利益が出るんじゃないのかな。そう思ったけど、アメリーさんはこちらのそんな考えはお見通しなのか、ふるふると首を横に振った。
「いいかい、カナカ坊。商売ってのはね、その品物に合った適正価格で行うべきなのさ。そういう意味では、ギルドはユーバーにとんでもない阿漕な商売をしてるのと変わらんよ。その代わり、ギルドは昼夜問わずそれに応じることで対応してる。逆に、あたしら商業連合はあくまでも日中の決まった時間しかやってないし、ギルドと違ってなんでも買い取るわけじゃない。そうやってすみ分けてるんだ。カナカ坊はあたしら商業連合の取引相手だ。そんなあんたは商業連合のやり方に慣れてくれればいいよ」
そういうものなのか。なんだかこちらだけ得をしているような感覚にむずむずする気もしたけど、アメリーさんが折れる気配はないからそれでいいのかもしれないと思った。
ひとまず、「初心者のマクラメアミュレット」はすべてアメリーさんに納品し、回取り扱いになったので若干だけどゲーム内でのお金が増えた。うっかり全部拠点のテーブルにおいてきちゃったけど、薬草の葉っぱはアメリーさんの雑貨屋で引き取ってもらえる素材であることを確認したので、次回持ってくることにする。
それから、いくつか気になった素材をアメリーさんに伝えて、アメリーさんのお店に在庫があるものを出してもらい、それに加えてフレシェバーン液などの必要な道具の値段も確認する。フレシェバーン液はキットの中に入ってはいたけど、あの勢いで使ってたらすぐになくなると思ったからね。
薬液関係はおおよそ1ℓ単位での販売で、フレシェバーン液のようなとにかく使用頻度が高いものだとℓで250B、逆に、希少な素材を使用して生成する薬液でレベフェイマーザン液っていうのは、ℓで700,000Bするらしい。ひぇって声が出たよね。アメリーさんには笑われたけど。
とりあえず、フレシェバーン液と幾つかの石系素材を購入して、もう一度採取に行く予定を立ててアメリーさんのお店を後にした。
現在のステータス
PC名:カナカ
身体状況:五体満足/所持金:3,800/所持品:フレシェバーン液1ℓパック×2/メランカリシャ石×10/ダムカプフ石×10
重要なもの:始まりの街 モーガンの工房の鍵
拠点:始まりの街 モーガン
所属:商業連合 雑貨屋アメリー
未使用SP:22P
取得済みスキル:歩行Lv7/視線察知Lv6/格闘技術Lv2/蹴術Lv1/アクセサリー制作Lv9/アクセサリー鑑定Lv10/採取Lv11/鑑定Lv10
※素材とキット等は拠点にあるため記載してません。
※今回、250Bのフレシェバーン液1ℓを2つ、1個150Bの石を各10個ずつ購入しているため、金額が変動しております。




