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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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3.アクセサリーを作ってみる 5

 十分少々かけてようやく理解した蔓の結び方でウェアツヴァイフル草の茎同士を結んで長い一本にできたころ、薬液に漬け込んだエルガー草もいい感じの時間になっていたので、薬液からキットの中にあったピンセットで摘まみ上げる。……で、乾燥するときはどうやればいいんだ。

 そんな感じで、一手順一手順をどうすればいいんだ、という困惑と経験の足りなさからくる技術不足で何本かダメにしながら、連続ログイン制限が来る前に一つだけアクセサリーを作成することに成功した。


 初心者のマクラメアミュレット

 性質:風/雷属性 品質:E 売価:30B

 アクセサリー職人の見習いが作成したマクラメアミュレット。蝋引き紐ではなく植物で作成されているため、処理によっては劣化を興す。

 エルガー草の芯材に、ウェアツヴァイフル草の茎を蔓として基本である平結びで結ばれたマクラメ。その素材の通り風属性と雷属性にかすかな耐性を持つ。


 ……うん、これはいい出来なんだろうか、どうなんだろうか。あと、マクラメって編むんじゃなくて結ぶっていうのが正しいんだね。よくわかんないや。

 とりあえずできたけど、これでいいのかなぁという疑問がわく。というのも、アメリーさんのお店で見たマクラメアクセサリーは、もっとすごい複雑な形をしていた。入門書にもあったし、作ったアクセサリーを鑑定して表示された文章にもある通り、今回のアクセサリーの結び方はマクラメの基本の基本なる結び方で、ほかにもいろいろな結び方が簡単に説明されてた。そっちは詳しく載ってないからやってないけど。

「うーん。とりあえず、失敗しないで作れるようにこのマクラメアミュレットっていうのを作れるだけ作ろうかな」

 もうすぐ連続ログイン制限のアラートが鳴りそうだけど、どっちにしろ一気にフレシェバーン液にぶち込んだエルガー草を引き上げて乾燥させなきゃいけないところだからちょうどいいよね。とりあえずダメにならないように薬液から取り出したエルガー草を乾燥場所に並べてから、アラートが鳴る直前に一度ログアウトした。

 相変わらずログアウトしたらこちらを見ている主治医に暇なのかなと思いつつ、ゲーム内で初めてアクセサリー制作をしたことを伝えると、なぜかとてもうれしそうに「そう、よかったね」と笑ってきた。主治医が喜ぶようなことはないと思うんだけどなぁと思ったけど、思うだけだ。

 それから細かくゲーム内の事を報告すると、「あ~、あのワールドアナウンスはキミだったのか」と言い出すから、ワールドアナウンス、とは? と首をかしげてしまった。

「……なに、それ」

「いやぁ、現実で二時間くらい前にね、大騒ぎになってたんだよ。NPCと初めての個人契約を結んだプレイヤーが現れました、ってね」

 なにそれ。とは思ったけど、確かに現実ではそれくらいの時間にアメリーさんと契約した記憶はある。ゲーム内では結構な時間が立ってるはずなのに、なんで自分が初なんだろう。不思議に思うけど、主治医はけらけらと笑うばかりで答えてはくれないから、いわゆるゲーマーという人種から外れた行動をしたってことなんだろう。たぶん。

 だって、オートラヴィーダの中での経過時間は年単位で経っていると聞いてる。でもって、オートラヴィーダの同時接続人数の平均は5万人くらいらしい。平均5万人が遊んでいるのに、年単位で発見されてないってどういうことなんだろう。

「それで、アクセサリーを作ってみてどうだった?」

 主治医の言葉に、少し考えこむ。先ほど作ったばかりの「初心者のマクラメアミュレット」。正直に言うと、あの結び方を描いた図解を見ても全く理解できなくてすごく難しかった。図解にちゃんと矢印とかも描いてあるんだけど、一番最初はともかく手順が進むにつれて図解の意味がだんだん理解できなくなっていくあの感覚は、実際に体験しないとわからないかもしれない。

「あー。聞いたことあるね。手芸系ではよく使われてる編み図だけど、あの編み図を理解できる人と理解できない人がいるらしいね」

 そういうものなのか、と思いつつ、確かに見ても一瞬よくわからなかったし、実際にやり始めてもよくわからなかったし。

「まだやってみたいかい?」

「……うん、品質がもうちょっといいやつ作れるようになりたい」

「うんうん、いいことだね。もしやってみたかったら、現実でも材料を取り寄せられるからね」

 現実でまでやるかわからないけど、とりあえず主治医の言葉にうなずいて見せた。それから、ほかの仕事に向かう主治医の背中を見送ってから本日二度目のログイン。まだなれないぞわぞわを堪えて目を開ければ、ログアウトした工房の椅子に座った状態だった。

 目の前には机の上にアクセサリー制作キットの中にあった油紙が何枚も広げられ、その上に何本ものエルガー草が間隔をあけて並べられている。ところどころ斜めに並んでるのを見て、ギリギリエルガー草同士がくっつかなくてよかったなと思った。ログアウトギリギリであわてたのもあったけど、くっついちゃってたらやり直しできないからなぁ……。

 一つ一つ摘まみ上げて状態を確認して、ちゃんとできていることを確認してから、ウェアツヴァイフル草の茎の処理を始める。ウェアツヴァイフル草の方はエルガー草よりも積んできた数が少ないから、とりあえずウェアツヴァイフル草が足りる分だけ「初心者のマクラメアミュレット」を作って、ひとまずアメリーさんのところにもっていこうと決める。

 すぅっと息を吐いて、ウェアツヴァイフル草をエルガー草を中心に結んでいく。一度やったことを再度なぞることはそこまで難しいと感じたことはない。格闘技を習っていたころは、一度目で見たことをそのままなぞっていく修行もあったから慣れている。

 そうして、ウェアツヴァイフル草が足りなくなったころには10本の「初心者のマクラメアミュレット」が出来上がっていた。

 ……なんでアミュレットなんだろう。いまいちこのアイテムの名前の意味が分からないけど、まあいいかと頭の片隅に追いやる。それから、今残っている素材を使って作れるアクセサリーを入門書から探し、不足している素材を頭の片隅のメモ帳に書き連ねる。

 この不足素材のうち、いくつかはアメリーさんのところにも売っているんだろうか。とりあえず聞いてみよう。机の上に散らかした素材をとりあえずある程度整頓して、作った「初心者のマクラメアミュレット」を全部ウェストポーチに放り込んでから、雑貨屋アメリーに向かうために、拠点を後にした。

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