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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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3.アクセサリーを作ってみる 4

「……ここかぁ」

 雑貨屋のアメリーさん(あの後名前で呼びなって言われたけど、さすがに年上を呼び捨てにしたりはできないから敬称をつけることだけは何とか許してもらった)に教えてもらった地図のしるしを頼りにたどり着いたのは、雑貨屋があった街の南東からは大きな通りを越えた北東の区画にある建物だった。

 思ったよりも大きく立派な建物にびっくりしながら、渡された鍵を使って建物の中に入る。見た目通りに結構な広さの屋敷は、結構立派な玄関ホールで、見た感じ部屋数もそこそこありそうに見える。

 ……この建物、たぶん一人で使う想定のものじゃない気がするんだけど、いいのかな……。でも、アメリーさんがそれでいいと思ったから契約してくれたんだよね。だからたぶん、いい、はず?

 とりあえず家屋内を一通り歩き回って部屋とかをいろいろ見まわってから、奥の方で見つけた作業部屋に落ち着いた。

 この作業部屋は、誰かの面影が残っている気がした。片付け忘れたのか、テーブルに投げだされたままの彫刻刀、数った後の木くず、作業しているうちに力んでしまったのかうっかりとつけてしまったであろうテーブルの天板の傷。ここで、作業をしていた誰かがいた。それがありありとわかる部屋だった。

 この家の設備はすべて使っていいとアメリーさんから聞いているから、遠慮なく使わせてもらうことにする。ここで作業をしていた誰かがどうなったのか、それはアメリーさんから聞いてないからわからない。聞いてはいけないと思ったから。でも、きっと作業に没頭する人だったんだろうなとは想像がついて、ふふ、と笑みがこぼれた。

 少し誰かの座り痕が残っている椅子に腰を下ろして、ウェストポーチの中のものを作業テーブルの上にぶちまける。あ、使わない薬草の葉っぱ、アメリーさんにどこかで買取してもらえないか聞くの忘れたや……。

「えっと、とりあえず一番やりやすそうなのは、エルガー草を芯に使ったグロル草かウェアツヴァイフル草のマクラメアクセサリー、かなぁ」

 長めのエルガー草を手に持って、初級アクセサリー制作キットを開ける。中には様々な液体の入った小瓶に、彫刻刀や針と糸や、小さな金具類とそれらを扱うための工具類がいくつも入っている。小瓶には一つ一つにラベルで中身の薬品の名前が割り振られていて、その中から(たぶん一番使うからだよね)一番大きい瓶を取り出す。

 摘んだばかりの瑞々しい素材を枯れない、乾燥しない程度にこなれた状態にする薬品らしい。名前は……フレシェバーン液? これ現実にあるやつ? ない奴? もしかして瑞々しさを保つとかって意味で「Frische bewahren」から取ってたりする? 真面目に命名者に聞きたい、なんでそこにこだわってるのかって。

 まあそれは置いておいて。

「まずは、芯材のエルガー草をフレシェバーン液に漬け込んで、三十分たったら付着してる薬液を落として、乾燥させる」

 しっかりと開いた入門書の説明を口に出して読み上げながら、一つ一つの手順を確認していく。読んで頭の中だけで考えるより、一度口に出してみる方が頭に入りやすいことがある。音読をするということに恥ずかしがる同級生や、意味を感じないという同級生もいたけど、実際に声に出すと読み上げる工程と耳から自分の声として入ってくる音声とで二重のインプットになって、理解しやすくなることも多いのだということは、中学時代の国語の教師が声高に主張していた。

 あの教師自体は、若干時代錯誤な熱血教師な面もあってあまり好かなかったけれど、実践してみれば確かに理解度が深まると感じたので、しっかりと覚えたい事項があるときは口頭で読み上げながら行うようになった。これにプラスして自分の手で筆記もするとより覚えやすいんだけど、そこまではいらないだろう。どうせ作業で手を動かすし。

「で、グロル草かウェアツヴァイフル草だけど……たぶん、鑑定結果からするとウェアツヴァイフル草の方が扱いやすいのかな。入門素材ってあったし」

 あの時集めた残りの三つの鑑定で表示された文章を思い出しながら、ウェアツヴァイフル草をつまみ上げる。

 

 グロル草

 性質:炎属性 品質:C 平均売価:5B

 世界に広く繁茂している草花の一つ。

 弦は柔らかいが強度があり、マクラメの素材として重宝される。アクセサリー職人の素材として求められる。


 トラウリギケイタ草

 性質:闇属性 品質:C 平均売価:5B

 世界に広く繁茂している草花の一つ。

 少し硬めの茎は特殊な技術を使って縦に割くことでマクラメに使える繊維となる。花も特殊加工をすれば素朴な花飾りとして使用可能。アクセサリー職人の素材として求められる。

 

 ウェアツヴァイフル草

 性質:風属性 品質:C 平均売価:5B

 世界に広く繁茂している草花の一つ。

 細い茎を芯材や繊維代わりにしてマクラメ素材にすることが多い。花弁は染料としても使用可能。アクセサリー職人の入門素材として求められる。


 うっかり無心になって集めた草たちを鑑定したら、軒並みアクセサリー制作に使えるとはあったんだけど、グロル草とトラウリギケイタ草に関しては「入門」って単語がなかったんだよね。売価とかは一緒だったのにさ。

 だから、入門書には載ってたけど、この二つは少し扱いが難しいのかなって考えた。トラウリギケイタ草なんか、特殊な技術を使って割かないとダメっぽいし。その割き方は入門書をざっと見た感じ載ってなかった。

 もちろん、数は多くないけどちょっとは採ってきてるから試してみてもいいけど、アクセサリー制作どころかこういった作業は何一つやったことがないんだ。おとなしく「入門」と記載されてる、扱いやすいものをしっかりとした手順で扱って、一つ一つ身に着けていくのがいいだろう。

 ウェアツヴァイフル草は、どう処理するんだ?

「えーっと、ウェアツヴァイフル草は……この小さい花を摘みとって、茎だけにする……。なんかこのちっちゃい花を摘まむのに罪悪感がわくな……」

 ウェアツヴァイフル草は。細い茎からにゅっと花を支える部分が出ている。その先端にくっついてる小さくて薄い黄色い花は下を向いてて、なんだかうなだれてるみたいに見えて、それがなおの事罪悪感を掻き立てるような気がする。

 まあ、この花も染料として使えるらしいし、捨てなくていいのは気が楽かもね。……染料にする方法は載ってたかな……。マクラメの作業工程のページをすぐ開きなおせるように指を挟んだまま、ほかのページをめくってみるけど、染料の作り方は書いて無いなぁ……。

 染料って、現実ではどうやって作るんだろう。この花を水に入れればいいのかな。それとも乾燥させて粉にして溶かし込むのかな。どっちだろ。うーんわからない。

「……わかんないことだらけだなぁ……あ、花を摘み終わったらどうするんだっけ」

 染料にする方法を探すためにほかのページを開いちゃったから作業工程がわからなくなって、あわてて元のページを開く。花をつまみ終わったら……。

「……染色、するかしないか? あ、この茎に色を付けられるってこと? とりあえず今はいいかなぁ。染料ないもんね」

 マクラメに通常使う蠟引き紐は、現実世界のものを見ればすごくカラフルだった。この細長い茎をそんなカラフルにできるなら面白いかもしれないけど、そもそも染めるための材料が今は手元にない。今度、染料についてアメリーさんに聞いてみよっかな。

 摘まんだ花をひとまとめに置いておいて、ウェアツヴァイフル草の残った細い茎を、次は揉んで柔らかくするらしい。芯材として使うならそのままでいいみたいだけど、エルガー草を芯材にするから、ウェアツヴァイフル草で編むためには、ちょっと柔らかくしなきゃいけないんだそうだ。

 って、これ一本じゃ長さが足りないよね。え、長さはどうすれば……あ、載ってた。

「……うんんん? えっと、これどうやってるんだ? えっと、こっちがこれで……こっちがこっちから出てるから……?」

 長さが足りない場合の蔓の結び方、という記載の図解を見て頭の中で想像しても、いまいちよくわからない。とりあえずもう一本ウェアツヴァイフル草の花を摘まんで、二本になったウェアツヴァイフル草の茎を使って、図解と同じ形になるように四苦八苦あっちを通したりこっちを通したりし始めた。

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