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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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3.アクセサリーを作ってみる 2

 オートラヴィーダ内の時間経過は、現実よりも少し早く設定されている、らしい。現実での6時間がオートラヴィーダ内での一日に相当し、現実の1日でゲーム内では4日経過する計算になるという。

 これに合わせて、連続ログイン制限時間の設定もいくつか設定できるらしい。これに関しては、プレイヤーの生命に関わる部分なので、必ず事前に健康診断を行って医者の許可を得て「長時間ログイン許可証」をHMDに登録、そしてその登録された「長時間ログイン許可証」をオートラヴィーダの運営会社が一人一人本物であると確認ができると、長時間ログイン許可が下り、初めて連続ログイン制限時間の設定を変更できるようになるらしい。

 そのため、初期設定は連続ログイン制限時間が3時間に設定されているが、人によっては最長10時間まで連続ログインが可能になるそうだ。さすがに現実で半日、ゲーム内で丸2日間まではいかないらしいけど。

 雑貨屋アメリーを目指して歩きながら、ふいに聞こえた「連続ログイン制限つらい~」「病院行って許可証もらおうよ」といった会話が聞こえたことで、主治医からゲームを始める前に教えてもらったことを思い出す。まあ、主治医からは「身体的にはたぶん平気だけど、当面長時間ログイン許可証は出してあげないからね。ログイン回数も制限するからね」といわれているので現状関係ないことだが。

 しかし、そんなに長時間ログインというのはしていたいものなんだろうか。不思議である。ゲームが好きな人間がいるのは知っているし、それを職業にしている人間がいることも知っているけれど、オートラヴィーダにプロはいないらしいというのも聞いている。

 オートラヴィーダというゲーム自体が遊べるようになってから一年ほど経過しているらしいけど、いわゆるプロが求める「賞金が出る大会」とやらが開催されることはないから、らしい。ただ、プロはプロでも、「ライバー」というやつは存在していると主治医が言っていた。主治医はどこから情報を得ているんだろう、少し不思議だが、まあ気にしないことにする。自分では見たことはないが、高校時代のクラスメイトが生配信? をする動画サイトに夢中になっただか、学校内でその配信を行った? だとかで退学処分になった記憶はある。いまいち理解できなかったけど、その当時親がすごい勢いで関わっていなかったか聞かれたのが怖かった。

 まあ、それはもう終わったことだからいいんだけど、ライバーとやらはゲームの中の状況を映像として他者に公開できる人間だというので、主治医と相談したうえでフィルタ機能を使うことに決めているので、ゲームを始める前にHMD側でフィルタ申請をしており、このカナカというアバターにはフィルタ機能が適用済みになっている。

 フィルタ機能は通常は子供向けの機能らしいけど、知らないところで他人の写真や他人の映像に自分の姿が映っているとかゾッとする話だったので、そこは気にしないことにした。自分では確認できないけど、ちゃんとフィルタ機能が働いてくれてるならいい。

 つらつらと思い出したことでそれなりに長い道のりの時間つぶしをして、ようやくたどり着いた「雑貨屋アメリー」の扉を押せば、変わらずカランカランとドアベルが軽やかな音を立てた。真正面のカウンターにいたにんまり顔のおばさんが、こちらを見てにんまりと笑う。

「おやおや坊や、いらっしゃい。数日ぶりだけど調子はどうだい?」

 おばさんはこいこいと手振りで呼びながらそう声をかけてくる。店内にはほかのお客さんもいないみたいだしいいか、と近寄ってふるふると首を降った。

「僕、こっちの世界には数日に一日しか来れないから、のんびり材料を集めてたよ」

 こんな感じ、とウェストポーチを見せると、おばさんはおやまぁと目を丸くした。そんなにびっくりするほどの量じゃないと思うんだけどなぁ。

「これだけあれば入門書に載ってたのは作り放題だろうねぇ」

「そうなの? でも、外では作れないんでしょ?」

「うん? ああ、確かに素材の下処理なんかは作業テーブルでやらないと難しいだろうし、外でぱっとは難しいだろうね」

 おばさんもすぐに言いたいことが分かったのか、うんうんと頷きながらそう答えて、ああ、なるほど? という顔で笑った。

「坊やは自分の拠点は持ってないんだね」

「……きょてん?」

 おばさんが何を言いたいのかわからなくて首をかしげる。おばさんはさらににんまりと笑った。

「生産スキルで生産活動をするユーバーは大体自分の拠点を持ってるんだと思ってたよ。作業テーブルをおく部屋を持ってないんだろう?」

「うん、持ってないや。それがきょてん?」

「そうさね。こっちの住人だと住居と兼用だけどねぇ。もしくは、ギルドと契約して賃貸料を払って作業部屋を借りるか、だね」

 なるほどなぁ。とどうするべきか考える。作業テーブル、なんだから家具を考えればそれを設置している家屋、部屋が必要になる。ギルドよりもこっちに来たけど、ギルドに行くのが正解だったんだろうか。賃貸料っていくらくらいなんだろう。

 現時点で最初に配布されていた金額以外に所持金がない。このままだと支出ばかりになってしまうため、収入を得る方法も考えないと。目的に使わないアイテムは売ればいいと主治医が言っていたけど、売るのはどうやって売るんだろうか。

 考え込んでしまったこちらを見て何を思ったのか、にんまり笑顔のままおばさんがこちらに声をかけてくる。

「坊やは自分の拠点が欲しいかい?」

 その問いかけに、何と答えればいいのか言葉に詰まった。いわれている内容がわからないわけではないが、しかし、どうしてそれを聞かれたのか、おばさんの真意がわからずに困惑する。

 おばさんはこちらが困っているのに気づいて苦笑をこぼした。

「なんだい、欲しいか欲しくないのかを答えればいいだけさね。そんなに困らなくていいよ。素直にどう思うんだい?」

「……ほしい、かなぁ」

 促されて、数舜逡巡した結果、零れ落ちたのはそんな言葉だった。それがあれば、アクセサリーを作ることができるようだから。やってみたいことが頭をよぎって、きっと現実なら絶対に言わない言葉が零れ落ちた。

 こちらの言葉におばさんはうんうんと頷いて、相変わらずにんまりとした顔で手のひらに収まるくらいの大きさの鈍い色の鍵のようなものを取り出す。

「もしよかったらねぇ、知り合いのアクセサリー職人が使ってたアクセサリー工房を買わないかい? 値段はお安くローンにしてあげるよ」

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