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OTRA VIDA  作者: 杜松沼 有瀬


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3.アクセサリーを作ってみる 1

 あれから草原を歩き回り、連続ログイン制限時間ぎりぎりまで素材を集めてログアウトした。ウェストポーチがギチギチでこれ以上はいらないというくらい大量に詰め込んだので、たぶん足りると思う。……足りるよね?

 若干の不安を感じながら、出された味気ない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。主治医からの指示通り、今日は二回のログインが終わっているので次にログインするとしたら明日だろう。

 ……明日か。明日も、オートラヴィーダにログイン……するんだろうか。

 ぼんやりと目の前がぐらぐらとして、頭がぼんやりする。たぶん、服薬している錠剤の副作用の眠気なんだろうけど、何を考えていたのかがわからない頭の中から何もかもが溶けだして空っぽになったような感覚に促されるまま体から力を抜いてベッドに横たわる。

 そのまま眠ったんだろうか。ぼんやりとしたままカーテンの隙間から差し込む光で朝が事に気づいて溶けて流れ出ていった意識がまた頭の中に戻ってきたよ運ば感覚がした。とろけて薄くなった意識が陽光に導かれて自分という器の中に戻ってきたような、そんな感じ。

 これはよくあることだから、今日は溶けてたな、とぼんやり思いだけだった。

 そうして時間になって出された味気のない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。今日の午前の指示は軽いリハビリとして施設にある講義堂でぼんやりとリハビリを受ける。胡散臭い自己啓発のような講義を聞いてためになるのかなという疑問はあるけど、他の講義を受けている人たちの中には目をキラキラとさせてる人もいるから、自分には合わないだけなんだろうな。

 そんな午前を過ごして、出された味気のない食事を飲み下して、食後に接種することを決められた錠剤をぬるい水で飲み下す。ふと、そういえばオートラヴィーダでの食事ってどんな感じなんだろうと少しだけ気になった。

 主治医から聞いた話、オートラヴィーダをはじめとしたいわゆる「自分の意識のみをゲームの中に移し、まるで自分の身体を動かしているような仮想現実(バーチャルリアリティ)」を実現したフルダイブ式の世界は、人間らしい生活を忘れないように飲食もまた可能なのだという。とはいえ、ゲームによってはそれは「満腹度」と呼ばれる数値化をして義務化していたり、あくまでも嗜好として義務化していなかったりしていて、オートラヴィーダは後者らしい。

 とはいっても、大きく体を動かしたりして消耗したときに体に力が入らないなどの異常を感じたときは食料品を口にすることで回復できるという機構は備わっているらしく、なんだかんだ最終的には「食べる」という行為を行う必要があるらしい。

 昼の栄養補給が終わった後、まだどことなくぼんやりとしている頭でHMDをぼんやり眺めていたら、様子を見に来た主治医がそんな話をしてくれた。生物が生きることは食べることと同義であると、どんなに食欲がなくてもこちらの口の中に食料品を押し込んできた主治医だから、一応そのあたりも考慮したうえでこちらにオートラヴィーダを進めたんだろう。主治医は、にっこりと笑ってこう付け加えた。

「どうもね、味覚障害があっても仮想現実(VRゲーム)内では味を感じられたらしいよ」

 なるほど。主治医は本当にこちらをよく見ている。施設にやってくる前から誰にも言ったことがないはずなのに把握されているのは若干の怖気を感じるが、主治医はこちらの主治医になれるだけの手練れなので、まあ仕方がないかなと感じてしまった。

 ログイン前に主治医と話をし、なんだか丸め込まれるように主治医に見守られながらHMDを装着してオートラヴィーダへログインをする。五度目になってもやっぱり違和感のあるぞわりとする感覚をこらえて目を開けば、前回ログアウトした外壁近くだった。パンパンに膨らんでいるウェストポーチはどことなく重たく感じている。

 さて、素材はしっかりと集め終わった。じゃあ、アクセサリーを作ってみる……と思ったところで、はたと気が付く。

「素材の中で特別な処理をしなきゃいけないのとかあったよね……?」

 一度読んだ入門書の中には、集めた植物をそのまま使用するのではなく、脱色したり染色したり加工したりといろいろ作成を始める前に処理が必要だと書いてあった。たぶん、アクセサリー制作キットの中にその処理をするための素材もあるんだろうけど、外でやってもいいんだろうか……。

 わかんないときはとりあえずHELPだ。慣れてきた手つきでHELPを開いてアクセサリー作成について調べてみる。大まかな検索で生産行動に関するQAが出てきたのでそれに目を通す。そうして、一つため息をついた。

 生産行動には、基本的には「各種制作キット」と「生産工房」もしくは「携帯工房」が必要になるようだ。というのも、「何かを作る」という行動は歩きながらとか、移動しながら行うようなものではないため、「生産を行うための専用の空間」を用いて行うのが一般的だそうだ。もしくは、出先でもある程度の空間を用いて「携帯工房」という技術? アイテム? を使用して、一時的な「生産を行うための専用空間」を構築して、ウ粉うらしい。

 つまり。

「ふつうはその辺の屋外でやるもんじゃないってことか……」

 どうしたもんか。この生産工房というものをどうやって入手するのかもよくわからず。制作キットを手に入れるときは、それだけが欲しかったから行かなかったけど、ギルドってとこに行った方がいいんだろうか。

 とりあえずギルドとはどこにあるのかと地図を開いてギルドの場所を確認したとき、ふと紫色に光っている南口に近い位置にあるしるしに目が吸い寄せられた。それは初日にアクセサリー制作キットを購入した雑貨屋、確か「雑貨屋アメリー」の位置だった。

 そういえば、お気に入り登録とやらをしていたんだったなぁと思い、一度あのにんまり笑顔のおばさんに聞いてみようかな、と思った。

 主治医の言うプレイヤーとの交流というものに食指はわかない。人間である以上、他人と一切かかわらずに生きていけるとは思ってはいないけど、かといって関わり合いを持ちたいとは思っていない。

 現実ですら、まともに会話をしているのは主治医と、今はもう通ってはいない格闘技の習い事をしていた時に自分に目をかけてくれていた師範の二人くらいだ。それ以外は自分の中ではただその場に同時刻に存在しているだけの物体で、自分は指示者から指示されたとおりにだけ動く生きた人形(マリオネット)だ。

 そこまで考えて、はっとして頬を軽くたたいて意識を切り替える。施設に入った当初から主治医と約束しているのだが、どうにも意識改革というやつは難しいものだ。自分だってよくないと思ってるのに、どうにもそっちに考えがゆるっと流されてしまう。

「……気分転換もあるし、もう一回行ってみるかな」

 紫に光る地図のしるしを眺めて、一つ大きく呼吸した。

現在のステータス


PC名:カナカ

身体状況:五体満足/所持金:5,000/所持品:初級アクセサリー制作キット/アクセサリー作成入門書/エルガー草×77/ミットライド草×62/薬草×15/グロル草×51/トラウリギケイタ草×34/ウェアツヴァイフル草×38

拠点:なし

所属:なし

未使用SP:21P

取得済みスキル:歩行Lv7/視線察知Lv6/格闘技術Lv2/蹴術Lv1/アクセサリー制作Lv1/アクセサリー鑑定Lv3/採取Lv11/鑑定Lv3

※11/4 未使用SPの計算を誤っていたので修正しました。

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― 新着の感想 ―
携帯工房の説明をしているときに「行う」が「ウ粉う」になっていましたよ
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