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第8話 さよならオレのスローライフ

 ゲームの序盤で滅ぶ村の運命を変え、このゲームのメインヒロインであるミオを村から旅立たせることができなかった数日後……。オレはサラの素振りを見学していた。


「ふっ、はっ!」


 サラが素振りをするたびに、大きな胸がぷるんと揺れている。

 こういうのはあまりじろじろ見てはいけないとわかっているが、モブ村長のオレはサラと結ばれることはできない。だったら、乳揺れを拝むくらいいいよな。

 素振りはまだ始まったばかりなんだが、途中でなにか気になることでもあったのか、サラが急に手を止めてオレに向き直った。


「グラン。前々から思ってたんだが、私が素振りするところを見ていて楽しいか?」

「も、もちろん! 見ているだけで勉強になるしな!」

「そ、そうか……? それならいいんだが……」


 さすがに今の言い訳はキツかったか? サラがちょっぴり困惑した後、急になにかを思いついたような顔をした。


「そうだ。もしよかったら私と手合わせでもするか? もしかしたら今後の戦闘の参考になるかもしれん」

「そ、それはいいよ!」


 両手を振って全力で拒否する。

 サラの前でカッコ悪いところは見られたくないし、なにより推しと戦うことなんてできない。万が一サラに怪我をさせてしまったら大変だしな。


「そんなに嫌なら無理強いはしないが……」


 サラに変な目で見られてしまった気がするが、推しになんと言われようともこればっかりは嫌だ。


「それはさておき、さっきこの村に立ち寄った騎士から妙な噂を聞いたんだが……」

「妙な噂?」

「最近この村の近くに盗賊が潜んでいるらしいという話を聞いてな。大きな被害が出る前に盗賊を捜して捕まえようと思っているんだが……」

「オレもついていくよ。左腕の怪我、だいぶ治ってきたとはいえ、まだ完治してないんだろ?」

「だが……」

「それに、オレはこの村の村長だから。もしこの村の人が危険な目に遭うかもしれないって思ったら、じっとなんかしていられない」

「……わかった。頼りにしているぞ」


 こうしてオレとサラは朝食を食べた後、盗賊退治に出かけたのだった。





 サラとふたりで、村の近くにある森の中を歩く。こうやってサラとふたりで出かけるのは初めてだ。

 サラはポニーテールを揺らしながら、オレの目の前を颯爽と歩いている。

 おぉ、原作のアレンはこうやってヒロインたちと一緒に冒険してたんだな。


 こんなことができるのは今回かぎりかもしれないので、サラの細身ながら引き締まった背中をこの目にじっくりと焼きつけておく。

 しばらくして森の中を歩くと、サラが急に立ち止まった。


「グラン、伏せろ」

「サラ? ――!?!?!?」


 サラに肩を抱き寄せられてその場にしゃがみ、目の前にある大きな木の幹に隠れた。


「あ、あの……サラさん……」

「しっ! 静かに」


 サラが声を潜めてオレに注意して、さらに身を寄せてきた。

 静かにって言われても、さっきからサラの大きな胸がオレの腕におもいっきりあたっているんだが……!

 メロンとマシュマロが合体したような感触に頭の中がだんだんパニックになってくると、どこからか男の声が聞こえてきた。


「あー、ここでぼうっとしてんのもだりぃなぁ」

「我慢しろ。お前が王都じゃ仕事がやりにくいっつったからここまで来たんだろ」

「あれが例の盗賊のようだな……」


 男たちふたりを見ながら眉をひそめ、サラが小声でつぶやく。


「そういやこの近くにある村、最近魔物の群れに襲われたみたいだぜ」

「おっ、ラッキー! そしたら盗み放題じゃん。村にいるジジババからたんまり巻き上げようぜ! ぎゃはは!!」


 こいつら、村の人たちに手を出す気か……!? そうとわかったらじっとなんかしていられない。


「……サラ。悪いがここはオレに任せてくれないか?」

「だが……」

「この手のやつらはこっぴどくこらしめた方がいい」


 静かにその場を立ち上がり、無言で老人の姿に変身する。


「サラはここで待っていてくれ」

「……わかった。だが、危ないと思ったらすぐに助けに入るからな」

「ありがとう」


 サラに見送られてオレは、老人の姿のまま盗賊たちに近づいた。

 盗賊はひとりは細身の男で、もうひとりは大柄の男だった。


「おや、若い人たち。こんな所で何しとるんじゃ?」

「おぉ、爺さん。今ちょうどオレたち道に迷ってたんだ。この近くにある村に行きたいんだけどよ、どうやって行くか教えてくれねぇか?」

「それならあっちの方にまっすぐ進んで行けば、すぐに村にたどり着くはずじゃ」


 適当な方角を指さすと、オレに声をかけた細身の男が汚らしい笑みを浮かべた。


「サンキュー。ちなみにその村って……」

「あぁ。最近魔物の群れに襲われてのぅ。今はひどい有様じゃ……」

「そうか……。それならよかった」


 突然ニヤリと笑った男がナイフを取り出してオレの前に突きつけた。


「ジジイ、今すぐ村に案内しな。さもなければどうなるかわかってんだろうなぁ?」

「もしかしてお前さんたち……」

「あぁ。オレたちは盗賊だ。今からテメーの村に行って、金目のもの、たんまり奪わせてもらうぜ」


 それを聞いた瞬間、オレは身体中の血管がブチ切れそうになってしまった。


「どうした、爺さん。もしかしてビビっちまったかぁ?」


 細身の男がナイフを引っ込めてげらげらと笑う。

 こいつらに手加減など無用だ。そう思ったオレは男の腕からナイフを叩き落し、呆然としている男の額にごつんと力強い頭突きをお見舞いした。


「いてぇ!」

「ジジィ! テメーなにしやがる!」


 細身の男が痛みに額を押さえてうずくまり、顔を真っ赤にした大柄の男が剣を抜き払う。

 まずはこいつから片付けるか。その場でまわし蹴りをすると、細身の男は近くの木の幹に背中を叩きつけられて、あっけなく意識を失ってしまった。


「テメェ……絶対にぶっ殺す!」


 怒りが頂点に達した大柄の男がずんずんとオレに向かって走る。

 そんな悠長な動きで今までよく盗賊が務まったものだ。

 オレはその場でじっと立ち止まって、男が一定の距離まで近づいた頃、がら空きの鳩尾に拳を叩き込んだ。


「ぐぇっ!!」


 鳩尾に拳を叩き込まれた大柄の男は地に膝をついては倒れ、こちらもあっという間に気絶してしまった……。

 汚れてしまった手をぱんぱんと叩くと、木の幹に隠れていたサラが笑顔でこちらに駆け寄ってきた。


「すごいぞグラン! その身体でも十分に戦えるとは! まるで引退してもなお実力が衰えない老騎士のようだ!」

「い、いやぁ……。サラだって十分強いよ」

「いいや、私はまだまだ半人前だ。……それにしても、こいつらはどうしたものか……」


 サラが気絶した盗賊ふたりを見て困った顔をしていると、誰かがこちらに駆けつけてきた。


「盗賊ども、観念しろ! ……って、あれ?」


 王都の騎士ふたりが盗賊を見るなり槍を突きつけたものの、ふたりが気絶したことに気がつくと疑問符を浮かべた。

 あ、やべ。騎士ふたりに気づかれる前に逃げようと思ったが、オレがそうしようと思った時には既に遅かった。


「サラ殿と……それに、こちらのお方は……」


 騎士のひとりがサラを見て、それから盗賊の近くにいるオレに視線を移す。


「こ、これは、そこにいるべっぴんさんが、ワシが盗賊に襲われていたところを助けてくれてのぅ」

「すまないが、王都で詳しい話を聞かせてもらえないだろうか」


 融通のきかない騎士に困ってサラに助けを求めると、彼女は諦めろと言わんばかりにかぶりを振ったのだった……。

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