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第5話 ヒロインがこの村から出ていってくれません

 本当は滅ぶはずだった村の運命を変えたのはいいが、これでめでたしめでたしというわけにはいかない。

 原作の展開を変えてしまった以上、オレには物語を軌道修正する義務がある。


 このゲームに出てくるメインヒロインたちは、それぞれ重い過去やこれから衝突する大きな壁があって、主人公と出会い、物語が進むにつれてそれらを乗り越えていく。

 それをもしオレが自分の欲望のままに、原作の展開を変えてしまったらどうなるのだろうか。真っ先に思い浮かんだのはサラのことだ。

 オレの最推しのサラも重い過去を抱えているのだが、もしゲームの展開が変わってしまったら一生その過去を引きずったまま生きていくことになるだろう。


 このゲームの主人公であるアレンはもしかしたら嫌なやつなのかもしれない。昨晩のことを思い出すと今でもムカムカするが、だからといってオレの使命は変わらない。

 大好きな原作の展開をこれ以上変えないために、サラのために。オレには、やらなければいけないことがある。


「…………」


 ある日の昼下がり、オレはそいつを遠目に見ていた。

 家の前でほうきを持って呑気に掃き掃除をしているのは、この村に住んでいる少女のミオだ。

 黒髪のぱっつんロングで、前世でいう袴に酷似した衣装に身を包んでいる。

 前世ならまだしもファンタジー世界でこんな和風の格好をしているのは、オレの知っているかぎりではミオだけだ。


 ミオはオレの視線に気づくと、人なつっこい笑みを浮かべた。


「あ、グランさん」

「よ、ミオ。めずらしく外に出てるんだな」


 オレがそう言うと、ミオがぷくっと頬を膨らませた。


「もう、人を引きこもりみたいに言わないでください」

「って言われてもなぁ。いつもは家の中で本を読んでるじゃないか」

「それはそうですけど……」


 本当のことを言われて反論できないのか、ミオはそれ以上何も言わなかった。

 まるで友達同士みたいなフランクな会話だが、実はミオはリグブレのメインヒロインだ。


 リグブレには色んな女の子が登場するのだが、本編をクリアした後は好きな子と一緒に暮らすことができる結婚システムというものがある。

 前世ではミオ派とサラ派で大きく分かれていたなぁ。まぁ、オレはサラ一択なんだが。


 かといってミオが嫌いというわけではない。ミオは控えめな女の子だが芯が強くて、好きな子ができたら大胆な一面を見せる。

 中でも印象的なのは水着イベントだ。あの時のミオ、とても可愛かったなぁ……。

 ゲームで見たスチルのことを思い出していると、ミオがじと目でこちらを見た。


「グランさん、どうしたんですか? だらしのない顔をしていますよ」

「いやぁ、ははは」


 と、呑気に世間話している場合じゃない。ミオに大事な用があるんだった。


「ミオ、お前に大事な話があるんだが……。今からお前の家に行ってもいいか?」

「い、今から……? べ、別に、いいですけど……」


 本当に大事な話なんだけどな……。ミオはなぜかぽっと頬を赤らめていた……。





 家に入ったミオがオレを連れていった先は自分の部屋だ。

 ミオの部屋には子どもの頃に何度か入ったきりだが、あの頃と比べるとだいぶ変わったなぁ。きちんと整理整頓されていて、窓の近くには花が飾られている。まさに年頃の女の子の部屋だ。


「別に、オレは居間でもよかったんだが……」

「こういうのは雰囲気が大事ですから」


 そう言いながらミオはなぜか恥ずかしげにベッドに腰かけた。

 さすがに女の子のベッドに座る度胸はない。オレはミオの隣には座らずに、ちょうど近くにあったイスに座ることにした。


「それで、大事な話って何ですか……?」

「改まって言うことでもないんだが、お前、前からこの村を出て、この目で色んな街を見てまわりたいって言ってただろう?」

「言いましたけど、もしかして……」


 オレがこれから言おうとしていることを大体察したのか、ミオの表情がぱぁっと明るくなる。

 妙に物分かりがいいのが気になるが、話が順調に進むのならばそれでいい。


「まぁ焦るな。一応村長としてのメンツもあるし、まずはオレの話をじっくりと聞いてくれ」

「……はい」


 ミオが心底嬉しそうに頬を緩めたことを確認して、オレは言葉を継いだ。


「ミオ。お前は最近この村に来た冒険者のアレンと仲が良いんだろう?」


 ――そっ、そんなことありません! ……と、ミオは顔を赤らめて否定すると思っていたのだが……。なぜかアレンの話をした直後、急に表情が曇ってしまった。


「仲が良いというより、あっちから一方的につきまとわれていて……」

「隠すな。オレは知っているぞ。この前魔物がこの村を襲撃した時、お前はアレンと一緒にダンジョンにいたそうだな」

「どうしてそれを……!」

「お前と何年一緒にいたと思ってるんだ。それくらい、オレにはすぐわかる」


 なんてカッコつけて言ってみたが、当日アレンと一緒にダンジョンに行くミオを見かけたわけでもないし、適当な勘でもない。

 実は魔物の襲撃の日、原作ではミオはアレンと共にダンジョンに潜っていた。

 ひとときの冒険を終えてダンジョンから出ると、魔物の襲撃によって焼け野原になった村を見てミオがその場で泣き崩れ、その後アレンと共に魔王を倒すことを誓い、この村から旅立ったのだ。

 その後王都に行ってサラに出会うのが原作の本来の流れなのだが、オレがこの村を守ったせいで、ミオがこの村から出る理由がなくなってしまった。


 ちなみに魔物の襲撃のことはあらかじめ村の人たちには伝えていたが、ミオだけには秘密にした。ミオがそれを知ったら、当日アレンとダンジョンに行かないだろうと思ったからだ

 原作ではミオは、アレンと村の近くにあるダンジョンで初めての冒険をして絆を深めた。

 ミオはリグブレのメインヒロインでもありキーキャラで、これ以上ミオの運命を捻じ曲げるようなことをすれば、原作の展開に大きなズレが生じてしまう。

 ミオには仲間外れと言われても仕方のないことをしてしまったが、これも原作の展開を守るためなので許してほしい。


 話を元に戻すとミオはこのゲームのメインヒロインで、ミオがアレンと一緒に旅に出なければゲームの展開が大きく変わってしまう。

 そのためにオレは慣れない真似をしてでも、ミオの背中を押すことにした。


「なぁ、ミオ」

「なんですか?」

「正直に答えてほしいんだが、お前、アレンのことが好きなんだろう?」

「……えっ?」

「この村のことはオレに任せて、ミオはアレンと一緒に旅をするといい」

「…………」

「大丈夫だ。アレンならきっとお前のことを守ってくれる」


 そう言われるとは思わなかったのか、ミオはとても驚いた顔をしている。

 原作では、アレンとミオは早いうちからいい雰囲気になった。

 リグブレの考察班の間では、ミオは最初の頃からアレンに強く惹かれていたそうだ。


 オレ自身は恋愛経験は皆無だが、リグブレは何周もやり込んだゲームだ。

 今ミオがなにを一番求めているのか手に取るようにわかるし、アレンと一緒に旅に出る話だってきっと喜んで受け入れてくれるだろう……と、思っていたのだが。

 なぜかミオは、フグのように頬を膨らませていた……。


「み、ミオ……?」

「大事な話があるって言われた時は期待していたのに……。まさか、グランさんにそんなことを言われるなんて思ってもみませんでした」


 ミオは頬を膨らませた後も、遠回しにオレを非難している。

 な、なんだ……? てっきりミオは喜んでくれると思ったんだが、どこでオレは間違ったんだ!?


「なぁミオ。オレ、なにかまずいこと言ったか?」

「知りません! それより、早くわたしの部屋から出ていってください!」


 ベッドから立ち上がったミオにぐいぐいと背中を押され、部屋の外に追い出されてしまった。


「ま、待ってくれ! アレンと一緒に旅に出る話は結局……」

「嫌です! わたし、絶っっっっっ対にこの村を出ていきませんから!」


 オレを廊下に追い出した後、ミオがぴしゃりと大きな音を立ててドアを閉めた。

 ミオのやつ、なんであんなに怒ってるんだ……!?

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