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第29話 私が立候補してやろうか?

 オレの計算どおり、ジンたち一行は騎士団の人たちに捕まって、今は王都の暗い独房の中にに閉じ込められている。

 ナタリアからの手紙を読んで完全に吹っ切れたサラは、当然ジンとの婚約を破棄した。


 婚約破棄といっても交わしたのは口約束のみで、ジンもサラを手に入れた後はまた別の女を口説くつもりだったのだろう。ジンの手下の供述では、他の女もまた、サラと似たような脅迫を受けていたそうだ。

 匿名で通報したんだが、今回の件はサラが大きく絡んでいたから騎士団長のモリアにはすぐにバレてしまった。


「貴殿は本当に一体何者なんだ……?」


 まるで神様にでも会ったのかと思うような目つきで見られてしまったが、その時の詳細は割愛しよう。オレはただのモブ村長だしな。できれば、これ以上目立つような真似はしたくない。

 そんなこんなで時が流れて数日後の夜、オレは自分の家の一階にある食堂に来ていた。


 今日改装が終わったばかりの食堂は広々としていて、昼は大衆向けの食堂として、夜は村の人たちがゆっくりと過ごせる酒場として運営する予定だ。

 料理人は王都で有名なシェフにお願いしているし、明日のメシが楽しみだなぁ。

 ……楽しみなんだが、オレがここに来た目的は、下見と同時にもうひとつある。


「来たか、グラン」

「サラ、こんな時間にオレを呼び出して一体何の用……って、えぇっ!?」


 厨房から出てきたサラに、オレは目を見張ってしまった。


「こういうのは初めて着るんだが、もしかして、似合ってないか……?」


 サラが恥ずかしそうに視線をそらす。

 今のサラはウエイトレスの格好をしていて、胸もとが強調されたエプロンに丈の短いスカート――一言で言うなら「アン○ミラーズ」の制服そっくりな格好をしていた。


 シャツはサイズが全然合っていなくて、今にも胸のボタンが弾けて飛んでしまいそうだ。

 ちらちらと胸を見ていると、オレの視線に気がついたサラが小声でつぶやいた。


「す、すまん……。急いで用意したものだから、私の身体に合うサイズのシャツがなくてな……。少々、見苦しいかもしれん」

「そ、そんなことないよ! むしろ、一番のご褒美だ!」


 大げさにかぶりを振ると、サラがようやく笑ってくれた。


「この前私を助けてくれたお礼に、ちょっとした料理を作ってみたんだ。あいにく、私はミオほど料理がうまくなくてな。あんまり期待しないでくれ」


 だから、さっきからスープのいい香りがしてたのか。オレが納得していると、サラが厨房から料理を持ってきた。


「それは……」

「ポトフだ。野菜はルーク村で収穫したものを村の人たちから分けてもらって、肉は私が用意した獣肉を使った。さぁ、そこに座ってくれ」


 席につくと、サラは頬を緩めてオレの前にポトフを置いた。

 肉も野菜も大きめに切られていて、じっくり煮込んだのかスープのいい香りが食欲をそそる。


「いただきます」


 合掌してポトフを一口食べる。

 旨みがたっぷり詰まったスープと一緒に、じっくり煮込まれた肉と野菜が噛むたびに口の中でほろほろと溶けていく。

 そこにコショーのピリリとしたアクセントが混じって、気がつけばポトフをかき込む手が止まらない。


 これは美味い!!

 推しが近くにいることも忘れて、オレは夢中でポトフを食べた。


「気に入ってもらえたようでわかった」


 食いっぷりのいいオレを見て、サラが安心したように微笑む。


「あぁ、美味いよ。できれば毎日食べたいくらいだ!」

「毎日、か。そういえばグラン、お前は結婚する気はないのか?」

「!?!?!? げほっ、ごほっ!」


 サラが突然変なことを言うものだから、オレはおもわず咳き込んでしまった。


「そ、それは……。別に結婚願望がないってわけじゃないけれど……」


 仮にもオレは村長だし、跡継ぎのためにもいずれは誰かと結婚しなきゃいけないんだが、推しがいるのにわざわざ別の相手と結婚する気にはなれない。

 よりによって、サラに指摘されるなんてな……。そろそろ結婚について真面目に考えた方がいいかもしれない。

 オレが食事の手を止めて考えこんでいると、サラがなぜかもじもじとした様子で話を切り出した。


「そ、それなら、私が立候補してやろうか?」

「ん?」


 らしくないサラの態度に、オレは驚くよりも先に頭の中で疑問符を浮かべてしまった。


「わ、私は、お前に二度も助けられた。もはや命の恩人といっても過言ではないだろう。ならば、それ相応のことで返すのが筋だ……」

「ちょ、ちょっと待ってサラ。話に追いついていけない」

「実際にこの前言ったとおり騎士団の間では、私がルーク村の村長に嫁ぐのではないかという噂が流れているし、村の人たちも私とグランの仲を応援しているようだ。お前の結婚相手に私は適任だと思うのだが……?」

「そ、それは……そうかもしれないけど……んん?」


 もしかしてこれは夢か? 自分の頬をおもいっきりつねってみたものの、ちゃんと痛みはある。

 優柔不断なオレに、痺れを切らしたサラがテーブルに手をついて身を寄せた。間近で推しと目が合って、どきんと心臓が跳ねる。


「それに、お前の好みはその……、私のように胸が大きい女なのだろう? それとも、もっと大きい方がいいのか?」

「そ、そんなことは……」


 オレに胸の大きさを見せつけるように、サラが自分の胸に手を添える。

 そ、そんなに動かしたら、今にもボタンが弾けそうだ……!


「あっ……」


 その時、ぷつんとボタンが飛んで、サラが可愛らしい声を上げる。

 ボタンがとれたシャツの間からは、サラの下着がおもいっきり見えていた。


「みっ、見ないでくれ、グラン……」


 恥ずかしそうに胸を腕で隠す推しを見ていたら、もう我慢の限界だ。


「ぶっ!!」


 オレはおもいっきり鼻血を出して気絶してしまった……。


「グラン……? しっかりしろ、グラン!」


 気絶する寸前、オレはけしからん格好をしたサラを間近で目にしたのだった……。

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