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第27話 困ったときはオレを頼ってくれ

 最短ルートで最上階に向かい、オレはジンの部屋の前に着いた。

 屋敷の中でも一段と立派なドアの向こうからは、かすかに衣擦れの音が聞こえてくる。


「これでいいか……?」


 その後に聞こえたのはサラの声だ。恥じらいと恐怖と悲しみがぐちゃぐちゃに入り混じった声色に、オレはドアに力いっぱい体当たりをして、部屋の中に押し入った。

 部屋の奥には窓を背にして勝ち誇ったように笑っているジンと……


「グラン、なぜここにお前がいる!?」

「それはもちろん、サラを助けるために……って、えぇっ!?!?!?」


 ジンの前には、全身下着姿のサラがいた……。

 推しのけしからん姿におもわず鼻血が出そうになって、慌てて手で押さえる。


「なんだ、これからって時に邪魔しやがって」


 オレが乱入してもなお、ジンは余裕そうに笑っている。

 オレが来ることはお見通しだったか……。ジンの部屋の前にはぞろぞろとごろつきが集まってきた。サラは恥ずかしそうに、腕を交差させては胸を隠している。


「サラ、村に帰ろう」

「断る。……言っただろう、私のことはもう放っておいてくれと」

「このままじゃサラ、ジンに抱かれるんだぞ!?」

「私だって、こんなことはしたくはない!」


 サラが涙目で、オレに向かって声を荒げた。ジンは無言で、オレたちのやりとりをニヤニヤとした顔で見守っている。


「お前は知らないだろうが私は、しょっちゅうナタリアが死ぬ夢を見ては、毎晩のようにうなされているんだ……。誰かを死なせてしまった場合、どうやって罪を償えばいい!? 私には、こうするしかないんだ……」

「だけど……」

「そう悲しい顔をするな。別に、誰かが死ぬわけじゃない。私ひとりが我慢すればいいだけの話だ……」


 本当は今にも泣きたいくせに。サラは涙をこらえて、オレに向かって気丈に笑っている。


「サラ……」

「私のことはもう、放っておいてくれ……」


 これで話は終わりだと言わんばかりに、サラは深く俯いてしまった。

 これは、原作どおりの展開だ。サラがどんなに苦悩してここまで来たのかは、オレには痛いほどわかる。

 だけど、それ以上に今の頑固なサラは、生前、いつか努力が報われると信じて、過労死するまでひたすら仕事をしていた昔のオレと重なって見えた……。

 そうとわかったら、今のサラに言いたいことがある。


「そうだよな……。自分ひとりが耐えればきっとなんとかなる。そう思うよな……」

「グラン……?」

「けどサラ、心を鬼にして言うぞ。それは大間違いだ。現にオレはそれで、一度の人生を棒に振った」


 後でサラに細かいことを問い詰められたとしても、どうだっていい。オレは、頭に思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。


「じゃあ、どうすればいい!?」

「本当に苦しい時は自分ひとりで頑張るんじゃなくて、誰かに助けを求めるんだ。もちろん、逃げるっていう選択肢もあるけれど、でも、サラにはオレがいる。もちろん、ミオだって、ルーク村のみんなだっている」

「みんなが、いる……」


 オレの言葉を復唱した、サラの瞳が涙で潤む。


「そうだ。困ったときはオレを頼ってくれ。オレじゃ頼りないかもしれないけれど、それでも、キミの力になりたいんだ」

「――――」


 サラが胸に手を添えて、意を決してオレを見据える。


「グラン、助けてくれ!」


 ――ぱちぱちぱち。


 その場を茶化すように、拍手の音が鳴り響く。

 オレが視線を移すと、ジンは心底愉快そうに笑っていた。


「素晴らしい友情ごっこだ。だが、お前らがなんと言おうとサラはオレの物だ」


 この期に及んで、まだ抵抗する気か……。オレが身構えると、ジンが部屋の入り口にいるごろつき達に向かって顎をしゃくった。


「お前ら、やれ」

「はっ!」


 ごろつきたちが雪崩のように部屋に入ってきては、オレに襲いかかってきた。

 サラの前でカッコ悪いところは見せられないな……。覚悟を決めたオレは、ごろつきたちに向かって駆け出した。





 それから、どのくらいの時間が経過しただろうか。


「な、なんということだ……」


 床に倒れたごろつきたちを見て、ジンは目を白黒とさせていた。


「なんだ、これで終わりか」


 汚れた手を払い、ごろつきを全員倒したことを確認する。

 ざっと二十人近くは倒したかな……。対人戦はこの前盗賊に捕まった時に初めて経験したばかりだったが、今回も難なくこなすことができてよかった。

 もとは村を守るために身につけた力だが、まさか推しを守るためにもなるとは、昔のオレは思わなかっただろうな。感慨に耽っていると、ジンは窓を背にしてゆっくりと後ずさった。


「聞いてない……聞いてないぞ! こんなに強い男がいただなんて! サラ、こいつは一体何なんだ!? お前の男か!? それとも、秘密裏に雇った護衛か!?」

「いいや、オレはただの村長だ」


 おもいっきり振りかぶって、ジンの顔面をぶん殴る。

 吹き飛ばされたジンは床に倒れて、そのまま気絶してしまった。

 ……こいつ、せこいやつだけど、戦いはからきしなんだよな。おかげでおもいっきり殴り飛ばすことができた……。


 一件落着してほうっと一息ついていると、サラがもじもじしながらオレに近づいてきた。

 ……あ、そういえば今のサラは全身下着姿だった。


「さ、サラ! これを着てくれ!」


 着ていた黒いローブをとっさに脱いで、サラの肩にかける。


「あ、ありがとう……」


 サラが恥じらいながらローブを身に纏う。

 下着姿にローブってのも、なかなかの格好だな……。サラの胸が大きすぎてローブの間からおもいっきり見えてるし、しかも丈が短くて、健康的な太ももがあらわになっている。

 もしフィギュアとして商品化されたら、オレは絶対に買うぞ……じゃなくて!

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