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第24話 【サラside】罪と罰

【サラside】

 久しぶりに王都にある自分の部屋に戻ってきてから、どのくらいこうしていたのだろう。

 気がつけば外は真っ暗で、窓から差し込む月明りが、暗い部屋をぼんやりと照らしている。

 部屋の隅に一人膝を抱えて座ってから長いこと時間が経過してしまったが、かといってまだここから立つ気にはなれない。


「エレノア……」


 涙をこらえて、今は亡き親友の名前をつぶやく。

 私は、決して幸せになってはいけない人間だ。今日墓場でジンに会ったのは、今の浮かれた自分を見つめ直すちょうどいい機会だったのかもしれない……。


 エレノアと出会ったのは、私が見習い騎士になったばかりの頃だった。


「わたしはエレノア。これからよろしくね」


 そう言って彼女は明るい笑顔を浮かべて、無愛想な私にも迷わずに握手を求めてくれた。

 私は今も昔も人付き合いがあまり得意ではない。だけどエレノアは、そんな私にも優しくしてくれた。

 人付き合いといえば、彼女はある日、こんなことを私に尋ねていた。


「サラって、美人なのにもったいないよね」

「なんだ、いきなり」

「だって、わたし以外に友だちいないんだもん。サラとお友だちになりたいって思っている人はいっぱいいるのに……」


 不思議そうに首をかしげるエレノアに、私は呆れてかぶりを振った。


「ここで友人を作ったところで、正式な騎士として認められればすぐに離ればなれになる。慣れ合いなど必要ない」

「じゃあ、わたしとお友だちになるのも嫌?」


 そんなことは、わざわざ聞かずとも答えはわかっているだろうに。わざと尋ねるエレノアに、私は一瞬だけ言葉に迷ってしまった。


「そ、それは……。別に、嫌ではない。お前といるとその、いい気分転換になる……」

「もう、サラってば素直じゃないんだから」


 エレノアが破顔して私に抱きつく。

 本音を言えば、私には既にエレノアという親友がいるからそれで十分だ。他の友人を作る気もないし、エレノアもなんだかんだ言いながら、私と一緒にいてくれる。

 私は、見習い騎士になって初めて、友に恵まれた。かなうことならばこの先も、エレノアとは良き友人でいたい。

 ――だが、そんな幸せな日々は、長くは続かなかった。




 あの忌まわしい事故が起こった後、私はとある墓の前で呆然と立ち尽くしていた。

 ――エレノア、ここに眠る。

 新しくできたばかりの墓には、数日前まで苦楽を共にした友の名前が刻まれていた。

 エレノアが私をかばって死んだ時のことは今でも忘れない。

 容赦なく牙を剥く魔物にエレノアがとっさに私をかばって、血飛沫が舞った……。


「すまん、エレノア……。私がもっと強ければ、お前を守ることができたのに……」


 いつのまにか涙が溢れ、何度目かもわからない謝罪を繰り返す。

 エレノアの墓の前で頭を垂れて泣きじゃくっていると、とある男が私に近づいてきた。


「そうだ、エレノアはお前のせいで死んだ。今頃はきっと後悔しているだろうさ」

「私は……なんてことを……」


 頭を抱える私に、男――エレノアの義兄であるジンが、含み笑いをして顔を寄せる。


「サラ、お前は償いをしなきゃいけない」

「償い……」

「ひとつは立派な騎士になって、エレノアのためにも魔王を倒すこと。そして、もうひとつは、オレの女になることだ」

「なにをバカなことを言っている」


 いくらエレノアが死んだからといって、ジンの言葉をそのまま鵜呑みにするほど私は正気を失っていない。涙目で睨みつけると、ジンはそんなこともわからないのかと言わんばかりに肩をすくめた。


「当たり前だろう。エレノアはもともと、お前とは釣り合わない良家の貴族の娘で、周りの人たちから期待されていたんだ。それをサラ、お前がすべて台無しにしたんだ」

「わ、私が……エレノアの全部を奪った……」


 ジンの非情な言葉にひどく混乱して、目の前がだんだん真っ暗になる。


「わ……私は、そんなつもりじゃ……」

「エレノアがいなくなってからうちの家は混乱しているよ。お前はエレノアだけじゃない。周りの人たちの未来をも奪ったんだ」

「あ……あぁ……」


 一人ではとても抱えきれない罪の重さに押しつぶされて、私は子どものようにその場で泣きじゃくった。

 私は、エレノアのかたき討ちのためにも魔王を倒す。そしていずれは、ジンと結婚する。

 あの傲慢な男と結婚するのは嫌だが、かといって、エレノアを死なせた責任を何もとらず、のうのうと生きるわけにはいかない。

 好きでもない男と結ばれて、少しでもエレノアの代わりとなるように彼女の家を支えること――これは、私が自ら科した罰だ。




 それからはがむしゃらに生きていたが、あの日、グランと出会ってから、私の中で何かが大きく変わり始めた。

 グランにミオ、ルーク村の人たち。みんなはとてもいい人たちで、ルーク村で過ごす日々は魔王のことなど忘れてしまうほど穏やかで楽しい日々だった。かなうことなら、ずっとルーク村で過ごしていたかった。

 だが、今日墓場でジンに再会して、改めて思い知らされた。私は幸せになってはいけない人間だ。それを決して忘れてはいけない。

 たとえ一生を捧げることになったとしても、それでエレノアが喜んでくれるのならば、私は一向に構わない。


 だが、なぜだろう。さっきからグランの顔が思い浮かんで離れないんだ……。

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