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第2話 推しと一緒に住むことになりました

 翌日、自分の部屋のベッドで目を覚ますと身体中に違和感がした。

 ベッドから下りて姿見の前に立つと、鏡に映ったのは黒髪ロングの美丈夫だった。

 服からのぞいている鎖骨や腕は逞しく、村長というよりはどこぞの組織のボスにぴったりな見た目だ。


 そういえば昨日、村になぜかいた女騎士――サラを助けようとした時に変身を解いたんだっけ……。

 鏡を見ながらオレは、昨日の出来事についてじっくりと思い返した。





 オレが魔物を倒した後、サラはお礼を言った後にこう尋ねた。


「貴殿の名前は……」

「オレは……」


 ――グラン。この村の村長だ。

 ……と、言いたいところだが、ここでオレがサラと顔見知りになったら原作の展開が変わってしまう。


「あ、おい!」


 サラに引き止められてもなお、オレは逃げるようにその場を去ったのだった……。

 サラに名前を名乗れなかったことが少しばかり心残りだが、同時に収穫もあった。サラ、美人だったなぁ……。


 ゲーム中では美麗な立ち絵と七頭身の3Dでしか拝むことができなかったのだが、リアルで見てもかなりの美人だ。

 目蓋にこっそり焼きつけたサラのことを思い浮かべていると、こんこんと控えめなノック音が聞こえてきた後、メイドがドアを開けて部屋の中に入ってきた。


「朝早くにすみません。村長にぜひとも会いたいというお客様がいらっしゃるのですが……」

「? オレに会いたい人……?」


 オレに会いたい人って誰だろう。疑問に思いながら客間に行くと……


「サラ!?」


 なんとオレ宛ての客人はサラだった! オレの家に推しがいるだなんてこれは夢か!?

 オレがせわしなく瞬きを繰り返していると、サラが眉をひそめてしまった。


「なんで私の名前を知ってるんだ?」

「そ、それは……」


 やべ! そういえばオレとサラは今お互いの名前を知らないんだっけ。サラに会えたのが嬉しくて、オレとしたことがつい油断してしまった。


「そ、それは……。この前旅の人から王都に強くて美人な騎士がいるって聞いて……。その時聞いた見た目がキミにとてもそっくりだったから……」


 とっさに嘘をついてしまったが、オレの言い分に筋は一応通っているはずだ。

 サラは王都では有名な騎士団に所属していて、凜々しい見た目に大きな胸というアンバランスな見た目は人目につきやすい。

 たしか、原作ではサラ様ファンクラブというのがあって、男女ともに慕われていたそうだ。


「そ、そうか……」


 オレがそう言うと、サラはぽっと頬を赤らめて目をそらした。

 ……あ、あれ? サラが照れている……? 不躾だとわかっていながらも、サラの顔をまじまじと見てしまう。


 サラはクールな女の子で、主人公に心を開いてくれるのはゲームの終盤になってからだ。

 まさか今ここでサラの照れ顔を拝めるなんてなぁ。この世界にカメラがあったらぜひとも一枚撮っておきたかった。


「それはさておきグラン村長。昨日は危ないところを助けていただき感謝する。……にしても、この村の村長はご年配の方だと聞いていたのだが、その姿は一体……?」


 サラがオレの姿をまっすぐに見る。

 そういえば昨日、サラの前で変身を解いたんだっけ……。

 村の人以外にはあんまり言いたくないんだか仕方ない。オレはサラに事情を説明することにした。


「実はこれが本当の姿なんだけど、こんなにいかつい見た目だと、この村に来た旅の人がオレが村長だと気づかないことが多々あって」

「なるほど……。それで意図的に老人の姿に変身していたというわけか」


 さすがオレの嫁。飲み込みが早い。

 サラの言うとおり、オレはこの村の≪村長≫として生きていくために、普段は老人の姿に変身している。


 ちなみにオレの実年齢は二十歳で、この事実は今のところ村の人たちだけが知っている。

 まさかゲームの序盤で滅ぶ村の村長にそんな秘密が隠されていたなんてな。オレ自身もいまだにびっくりしている。


「あの時いきなり面妖な技を見せられた時は驚いたぞ」


 サラが口に手を添えてくすくす笑う。

 有名人と話す時って、きっとこういう感じなんだろうな。さっきから心臓がドキドキしっぱなしだ。


「でも、なんでサラはこの村に……? 普段は王都にいるはずじゃ……」


 ゲーム上では主人公がサラと出会うのは、この村を出て王都に行った時だ。この村が滅ぶ時サラが偶然近くにいたなんて話は、たしか原作にはなかったはずだが……。


「実は昨日、別の任務を終えて王都に帰還している最中、魔物の群れがこの村に向かっていることに気づいてな……。急いで村に向かったはいいが、見慣れない魔物に背後を取られてしまい、気づいた時には左腕をやられてしまった」


 サラの細い左腕には、ぐるぐると包帯が巻かれていた。

 もしかしてサラが危ない目に遭ったのは、オレがこの村の運命を変えようとしたせいだろうか。だとしたら謝らずにはいられない。


「ごめん……」

「いいや、お前が謝ることはない。あの時、私を助けてくれた時は本当に嬉しかった」

「いや、オレは別に……」


 そんなにまっすぐに礼を言われると照れてしまう。

 おそらくでれっとした顔をしているであろうオレに、サラがますます笑みを深めた。


「村の人から聞いたぞ。多くの魔物はお前ひとりで倒したそうだな。この村に頼れる村長がいてよかったと、みんな感謝していたぞ」

「いやぁ……。ははは」


 推しにこんなに褒められるだなんて、村長に転生して本当によかった!

 欲を言えば主人公に転生してサラとイチャイチャしたかったけれど、そこまで高望みしたらいつかバチがあたってしまうだろう。

 オレはこれからも村長としてひっそりと生きていくぞ……。

 そう心に誓っていると、サラが姿勢を正してオレに向き直った。


「改めて、あの時魔物から助けてくれた礼をしたいんだが、なにか私にできることはないだろうか?」

「えっ? いきなりそんなことを言われても……」

「命の恩人であるお前の言うことなら何でも聞こう。なんなら、しばらくの間召使いとしてこき使ってくれても構わない」


 召使い……っていうことはメイドか!? たしか原作でもサラが一日メイドになって、主人公とイチャイチャするイベントがあったような!? 瞬時にメイド服姿のサラを思い浮かべてしまったが、ぶんぶんとかぶりを振る。

 今のオレはあくまでもモブ村長だ! オレは本来サラとお近づきになっていい立場じゃない!


「ご、ごめん……。やっぱり……」


 やんわりと断ろうとすると、サラが眉尻を下げた。


「すまん、突然すぎたな……。この件については思いついた時に言ってくれ」


 一方的に保留という形になってしまったが、まぁいいか。

 オレもこんな夢のような提案、できればいい案を思いつくまで待ってもらいたい。


「ところで、話は変わるんだが、しばらくの間ここの客室を借りてもいいだろうか?」

「いいけど……なんで?」


 オレが住んでいる家は村長の家というだけあって無駄に広くて、今は未来の勇者が泊まっているが、他にも客室はある。

 だが、なんでサラは突然客室を借りたいなんて言い出したんだろう……?


「昨日の魔物の襲撃で、半壊してしまった家や施設があると聞いた。よかったら、しばらくの間私にも修繕作業を手伝わせてほしい」

「え、えぇ!?」


 そ、それはつまり、しばらくの間サラと同居するってことか!? 村の滅亡フラグを回避したらなにかが起きるだろうと覚悟していたものの、まさかこんな展開になるとは思わなかったぞ!?

 突然の展開にオレが混乱していると、サラが困惑した。


「もしかして、迷惑だろうか?」

「いいや、全然迷惑じゃないです! むしろ、これからよろしくお願いします!!」


 こうしてオレは、推しとひとつ屋根の下に住むことになったのだった……!

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― 新着の感想 ―
サラは村からしたら部外者なのに老人の姿で対応しなかったのは物語の都合かな?こういうミスすると老人の意味がない
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