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第19話 夢のような朝食

 朝食をご馳走すると言ったミオがオレたちを連れていった先は、自分の家のダイニングだった。


「今準備するので少し待っていてくださいね」


 エプロンを装備したミオにそう言われたものの、オレもサラもじっとしていることなんかできない。


「オレも手伝おうか?」

「私も手伝うぞ」

「いえ。すぐに終わりますし、ひとりで大丈夫ですよ」


 そこまで言われたら手伝うことはできない。おとなしく席についたオレとサラの前には、すぐに豪華な料理が並んだ。


 ミオが用意してくれた朝ごはんは、熱々のパンに、村で収穫したばかりの新鮮な野菜を使ったサラダだ。

 メインディッシュは具が入ったオムレツで、焼き立てのタマゴのいい香りが食欲をそそる。

 さらに村の特産品であるルークアップルが入ったフルーツポンチや、この村の牛から採ったミルクなど、細かいサイドメニューもばっちりだ。

 朝食の準備を終えたミオが席についてから、オレたちは同時に朝食を食べた。


「美味い」


 オムレツを一口食べた後、オレはそう言わずにはいられなかった。

 オムレツの中は獣肉をひき肉状にしたものが入っていて、朝からでも充分食が進む味つけだ。


「前から思っていたんだが、ミオは料理が上手いな」

「うふふ、ありがとうございます、サラ。でも、王都の料理人に比べたら全然まだまだですよ」


 サラに褒められたミオが照れくさそうに頬を赤らめる。

 ミオは一人暮らしで家のことは全部ひとりでこなしている。そのうえ前に聞いた話、もっと美味い料理を作るために料理本を読んでは色々試しているそうだ。

 ミオの料理がここまで美味いのは、日頃の努力の積み重ねの結果だろう。


「謙遜することはないぞ、ミオ。お前は村の中で一番料理が上手い」

「もう、グランさんまで。おだてても何も出ませんよ」


 と言いながらも嬉しいのだろう。ミオは恥ずかしそうにもじもじしている。


「それより、このルークアップル美味しいですよ」


 ルークアップルをフォークに刺したミオが、オレの口もとに運ぶ。


「はい、あーん」

「お、おい……。いきなりどうした……?」


 慌てて隣を見ると、サラは案の定きょとんとしている。


「? 前はよくこうやって一緒に食べてたじゃないですか」

「そ、それはガキの頃の話だろ!」

「さぁ、早く食べてください」

「もごっ!」


 口の中にルークアップルを突っ込まれたら、もはや食べるしかない。

 よりによって推しの前で、空気の読めない幼なじみとイチャイチャしてしまった……。

 オレがそんなことを思っているとは露知らず、ミオが無邪気に尋ねてくる。


「お味はどうですか?」

「う、美味い……」


 この村の特産品というだけあってルークアップルは甘くて美味しいんだが……さっきからサラの視線が気になってそれどころじゃない。


「グラン。こっちのピクルスも美味いぞ」


 何を思ったのかフォークでピクルスを取ったサラが、オレの口もとに運んでくれた。

 ん? んん?? 推しがこんなことをしてくれるだなんて、オレは夢でも見ているのだろうか。

 なかなかピクルスを食べないオレに、疑問に思ったサラが表情を曇らせてしまった。


「もしかして、ピクルスは嫌いか?」

「いや、全然! むしろたった今大好物になった! いただきます!」


 サラの気が変わらないうちに、フォークに刺さったピクルスにかぶりついて咀嚼する。

 う、美味い……! 元はミオが作ったものなんだろうが、サラが食べさせてくれただけでめちゃくちゃ美味しく感じる!


「ふふ。たまにはこういうのも悪くないな」


 美味しそうにピクルスを食べるオレを見て、サラが優しげに目を細める。

 ふたりの美人と朝から一緒に朝食を食べるだなんて、本当に夢みたいだな……。


 思い返せば転生前はごはんを食べる時間すら惜しいと思うほど仕事に追われていた。だからだろうか。誰かと一緒に食べるごはんはこんなにも美味いということを今になって実感した。

 ……あ、やべ。おもわず涙ぐみそうになると、ミオと視線がぶつかってしまった。


「どうしたんですか、グランさん。急に悲しい顔をして……」

「な、なんでもない……。ちょっと、昔のことを思い出しただけだ。気にすんな」


 オレがかぶりを振るとミオは納得のいかない顔をしたが、それ以上は追求しなかった。


「まだまだたくさんありますから、今日はいっぱい食べてくださいね」

「あぁ。足りなかったら私の分も分けてやる」


 ミオとサラの温かい気遣いに、オレはおもわず涙が零れそうになってしまった。


「ありがとう、ふたりとも……」


 もしオレがリグブレの主人公のアレンに転生していたら魔王を倒すことに忙しくて、ふたりとこうしてのんびり食卓を囲む事はなかったかもしれない。

 やっぱりオレ、村長に転生してよかった。今の幸せを充分に噛みしめていると、ふとあることを思い出した。

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