第18話 朝食のお誘い
一日のうちに二度も盗賊を倒した数日後、今日もオレはサラの素振りを見学しに行くことにした。
「あっ……」
自分の家の裏口から外に出ると、サラはオレに気づくなりなぜか頬を赤らめて、素振りをやめてしまった。
「お、おはようグラン……」
「おはよう、サラ」
「そ、その……この前のことについてだが、その……」
なにか言いにくいことでもあるのか、サラはちらちらと恥ずかしそうにこっちを見ている。
「この前?」
この前って、なんかあったっけ?
そういえばこの前なんだかとってもいい夢を見た気がするんだが、肝心の夢の内容がまったく思い出せない。
「な、なにも思い出せないならそれでいい。憶えていたら、かえってやりにくいしな……」
サラの照れ顔は可愛いが、そんなに隠されると余計に気になってしまう。オレが追求しようとすると、タイミング悪くミオがやってきた。
「おはようございます、サラ。それに、グランさんまで……」
いつもサラの素振りを見学しているから、朝にこうしてミオの顔を見るのはなんだか久しぶりだ。ミオも同じことを思ったのか、オレを見るなり少し驚いていた。
「もしかして、お取込み中ですか?」
「いやぁ、特に大した用事はないんだが……」
くっ……! この場にミオが加わると色々と面倒くさい……。曖昧に笑ってごまかすと、サラがあきれたように肩をすくめた。
「グランのやつ、毎日飽きもせずに私の素振りを見てるんだ。手合わせしようかと言っても、首を横に振ってばかりでな」
「あー、サラの素振りは見ていて勉強になるなぁ!」
「……本当ですか? 実は剣以外の所を見ていたりして……」
「ぎくっ!」
どうやらミオにはオレがサラの素振りを見学している本当の理由はお見通しのようだ。
ミオがじと目でサラの大きな胸を見ているのがなによりの証拠だ。
「へぇ~~~~。グランさんってこういうのが好きなんだぁ」
「わっ、悪いかよっ」
オレだって、村長である前にひとりの男なんだぞ!
「わたしもサラほどはないですけど……」
「?」
自分の程よい胸の膨らみに視線を落とすミオに、頭の中で疑問符が浮かぶ。
ミオのやつ、いつもなら破廉恥だの不潔だの言うくせに、熱でもあるのか?
オレが疑問に思っていると、サラが口もとに手を添えて笑った。
「ふふ。お前たちふたりは仲がいいな。私には幼なじみがいないからちょっぴり羨ましい」
「勘違いしないでくれ、サラ。ミオとはただの幼なじみだ」
大人気ないかもしれんが、推しに恋愛関係で誤解されるのは絶対にごめんだ!
オレが全力で否定すると、さすがにミオがキレてしまった。
「もう。この前わたしを守ってくれた時はとっても格好良かったのに……」
「そういえば、お前たちふたりが盗賊に襲われてからだいぶ日が経ってしまったが、ふたりとも大丈夫か?」
サラが不安そうな顔でオレとミオを交互に見る。答えはもちろんイエスだ。
「大丈夫です。あの時はグランさんに守ってもらいましたから、わたしは怪我ひとつありません」
「あぁ。ミオを人質にとられた時はひやっとしたが、盗賊全員こらしめてやったよ」
オレもミオも明るく答えたつもりなのだが、サラの表情は曇ったままだ。
「すまん……。私があの時グランと別れなければ、こんなことにはならなかったのに……」
「気にするなよ、サラ。オレがいる以上大丈夫だって」
悪いのはオレとミオを狙った盗賊たちだ。いくらサラが騎士といえど、ずっとオレやミオのそばにいるわけにもいかないだろう。
それに、ミオはサラに誤解されそうになっても、命がけで守らなきゃいけない存在だ。
……だが、しつこいようだが心の中で言っておこう。オレが本当に好きなのはサラだからな!
「……? グラン、私の顔になにかついているか?」
熱い視線を送っていると、サラが不思議そうに小首をかしげた。
何気に色んな男から言い寄られているのに、それにしてはやけに鈍感なオレの推しは今日も可愛い……。
「こほんっ!」
推しを微笑ましい気持ちで眺めていると、ミオが突然咳払いをした。
「あ、あの、朝ごはん作ったんですけど、よかったらみんなで一緒に食べませんか?」
オレとサラはお互いに顔を見合わせた後、同時に頬を緩めてミオの誘いに乗ることにしたのだった。




