第17話 【アレンside】オレが主人公だ
【アレンside】
オレの名前はアレン。このゲームの主人公だ。
アレンになったオレは、これからオレにふさわしい女たちと一緒に旅に出て魔王を倒し、国民から勇者サマと慕われる……。そんな華々しい未来が待っているはずなんだが、どうにもおかしい。
夜、オレはこの村の村長の家を出て、外で鍛錬をしているサラに近づいた。
サラはオレに気づいた途端、険しい顔をして剣の素振りをやめた。
「……アレンか」
「サラ、いつまでこの村にいるつもりだよ。そろそろオレと一緒にこの村を出て、魔王を倒しに行こうぜ」
「悪いが断る。私にはこの村でまだやることが残っている。先日、騎士団長からも正式な許可をもらった」
「はぁ!?」
おいおい、どうなってるんだよ!? あいつから聞いた話と全然違うじゃねぇか!
第一、この村はこの前の魔物の襲撃で滅んで、その時サラとミオはオレのものになるんじゃなかったのかよ!?
「…………」
サラは気まずそうに、オレから目をそらしている。
そういえば最近、サラとミオに妙に付きまとっている男がいる。
そいつは村の住民みたいだが、オレがこっそり後をつけても、尾行していることに気づいているのか、いつの間にか姿を見失ってしまう。
サラとミオがこんなに村から出ようとしないのは、きっとそいつのせいだ……。
……だが、かといって焦ることはない。
「わかったよ。お前の気が済むまで待ってやる。だが……」
「!」
木の幹に手をついて距離を詰めると、サラが一瞬女らしい反応をした。
「何の真似だ?」
「こんだけ待たされてるんだ。少しくらい味見してもいいだろ?」
サラに触れようとすると、即座に手首を掴んで止められてしまった。
「私に触れるな。あいつに誤解されたら困る……」
「……?」
もしかしてこいつ、オレに惚れたのか? サラは恥ずかしそうに目を伏せている。
にしても、こいつは本当にいい女だ。強気すぎるのが玉にきずだが、それを差し引いてもお釣りがくるくらいの美貌の持ち主だ。
凛々しい顔立ちに、男を誘っているとしか思えない立派な巨乳。この女がいずれオレのものになるのだと思うと、多少のことは大目に見てやってもいい気分になる。
オレのものになったらどうやって可愛がってやろうか……。全身を舐め回すように見ていると、サラがオレの手首を掴んだままこちらに向かって睨んだ。
「お前……前から思ってたんだが、一体どうしたんだ? 初めて会った時とは全くの別人みたいだぞ」
「気のせいだろ。……それより、この村で息抜きするのもいいが、本来の自分の使命を忘れるなよ。……魔王を倒したい。そう思っているのはお前も同じだろ?」
「ちっ……」
お、いい反応だ。苦虫を噛みつぶしたような反応をしたサラに、オレはすっかり満足した。
「おやすみ、サラ。寂しくなったらいつでもオレの所に来いよ」
「…………」
サラがオレから手を放して、代わりに冷たい視線を向ける。
サラの冷たい視線を背中に浴びながら、オレは村長の家に向かって歩き出した。
聞いていた話とは違う展開になっているが、まぁいいさ。オレは未来が約束された主人公だ。その気になれば、いつでもサラとミオはオレの女になる。
そんなふたりの前にあの男が迫っているようだが、モブキャラのお前が出る幕なんてどこにもねぇんだよ。
「くくく……はっはっは!」
しんと静まり返った村の中、オレの笑い声が響き渡る。
オレの脳裏には、サラとミオをとられて悔しそうな顔をするあの男の顔が思い浮かんでいた……。




