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第13話 これもきっと若気の至り

 ここにいる盗賊全員を倒したとはいえ、このままここに滞在しているわけにはいかない。ドアを開けて外に出ると、寂れた住宅街に出た。

 ここなら盗賊たちの隠れ家にぴったりだろう。近くの家は、どれも空き家のようだ。

 ……さて。このまま村に帰りたいところだが、さすがに気絶している盗賊たちを放っておくわけにはいかないよな。そう思ったオレは隣にいるミオに視線を向けた。


「ミオ。悪いがお前は先に村に帰っててくれ。オレは今から盗賊たちのことについて、騎士団に通報しなきゃいけない」


 言いながら思う。この後、モリアにどんな顔をして会えばいいんだろうな……。

 いくら手柄を立てたとはいえ、お偉いさんに一日に二度も顔を合わせるのはなんだか気まずいぞ……。


「わかりました。村の人たちには、グランさんの帰りが遅くなることを伝えておきます」

「そうしてくれると助かる」


 もしかしたらわたしもついていきます、なんて言うかもしれないと思っていたから、素直なミオにオレはほっとした。

 とはいえさすがにこんな夜中に女の子をひとりで歩かせるのは危険だよな。王都から出るまではオレもついていった方がいいだろうか。これからどうしたものかと周囲を見渡していると、隣にいたミオが小声でつぶやいた。


「あの、グランさん」

「なんだ、ミオ」


 その時、心地のいい冷たい夜風が吹いた。

 同時に、ミオに振り向こうとしたオレの頬にはかすかに柔らかい感触がした。


 ――ちゅっ。


 耳もとではっきりと聞こえたのはたしかに唇の音だ。

 オレが呆然としていると、オレの頬から唇を離したミオが恥ずかしそうに顔を赤らめた。

 それを見てオレの頭の中で大量の疑問符が浮かんでしまう。


「ミオ……?」

「ありがとうございます、グランさん。あなたがいなければ、今頃わたしはもっとひどい目に遭っていました」


 ――気にするな。オレたち幼なじみだろ?


 いつもならそう言うのに、さっきのミオの唇の感触が忘れられなくて、オレは何も言えなくなってしまう。

 なにも言わないオレに、ミオが顔を上げて、まっすぐにオレのことを見つめた。

 ミオって、こんなに美人だったっけ……? 真剣な顔と濡れた頬がそうさせているのか、今のミオはやけに大人っぽく見えてしまう。


「私、もっともっと強くなります。いざというときあなたを守れるように。幼なじみという立場に甘んじることなく、あなたの隣に立てるように……」

「は、はは……。それは頼もしいな……」


 幼なじみの急激な変化に動揺して、おもわず目が泳いでしまう。


「じゃあ、先に帰ります。おやすみなさい」

「あ、あぁ……。おやすみ……」


 照れくさそうに笑ったミオが、恋する少女のように小走りでこの場を去っていく。

 ミオがいなくなった今も、いつのまにか大きくなった胸の音はうるさいままだ。


 も、もしかしてオレ、ミオのこと、好きかも……。

 そう思いそうになって、慌ててかぶりを振る。

 いや、待て! ミオのことは決して嫌いではないが、オレの推しはあくまでもサラだ!


 それに、あいつはただの幼なじみで魔王の妹で未来の聖女だぞ!? もしオレがミオのことを本当に好きになってしまったとしても、あいつと結ばれたら原作ガン無視の展開になってしまう!

 きっと今のは若気の至りというやつだ! 家に帰ったら「わたし、グランさんになんてことしちゃったんだろう」と恥ずかしそうな顔をしてベッドでのたうちまわっているに違いない!


 これでも中身はおっさんだからな。気まぐれな幼なじみには騙されない……騙されないぞ……。


「ふぅ……」


 冷たい夜風を身体に浴びていたら、だんだん落ち着いてきた。

 さっきの出来事はとりあえず忘れることにして、そろそろモリアの所に行くか……。

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