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第12話 村長無双

 その後も何人か盗賊を倒して階段を上ると、閉ざされたドアの向こうからかすかに風の音が聞こえてきた。

 この先にある部屋を抜ければ、たぶん外に出られるだろう。

 だが、同時に部屋の中には何人かがいる気配がする。おそらく四人くらいだろうか。ドアから顔を離してオレはミオに振り向いた。


「ミオ、お前はここで待っていてくれ。すぐに片付ける」

「……はい。どうかお気をつけて」


 ここに来るまで何人もの盗賊を倒してきた。最初は自分になにかできないかおどおどしていたミオは、今ではすっかりオレのことを信じて待ってくれるようになった。

 さっさと倒してここから出よう。覚悟を決めたオレはドアに体当たりして部屋の中に突入した。


「誰だ!?」


 オレが予想したとおり、部屋の中にいたのは盗賊四人だった。計画どおり、速攻で片付ける!

 オレがまず狙いを定めたのは、一番近くにいる男だ。男の頭をめがけて豪快に回し蹴りを放つ。


「おい、こんなやつ捕まえた覚えはないぞ!?」


 一人を片付けた後、次にちょうどオレの近くにいた男にすかさず詰め寄って、がら空きの腹部に拳を叩き込んだ。


「テメェ、ここから生きて出られると思うなよ!」


 部屋の一番奥にいた男が、壁に立てかけてあった大剣に手を伸ばす。


 ――そうはさせるか!


 オレは部屋の中央にあったテーブルにすかさず跳び乗って、助走をつけて跳び蹴りをした。

 顔面を蹴られた男は床に倒れて気絶してしまった……。


 ――あと一人!


 周囲を見渡したものの、ここにいるはずのもうひとりの姿が見当たらない。


「動くな!」


 しまった! 遠くから聞こえた声に瞬時に振り向くと、最後の男は部屋の外でミオを人質にとっていた。


「ちっ……!」

「いくらあんたが強くても、人質とられちゃあ手も足も出ないみたいだなぁ!」

「グランさん、すみません……」


 男にがっちり肩を抱かれて拘束されたミオが涙目で謝罪をする。


「ははぁ、よく見れば可愛いお嬢ちゃんじゃねぇか。こいつを倒した後たっぷり可愛がってやるよ」

「いや、やめてください……!」


 男が舌を伸ばしてミオの頬をべろりと舐める。ミオの顔が恐怖に青ざめた瞬間、オレは我慢の限界に達した。


「それ以上ミオに触るな!」

「な、なんだ、体が動かない……!?」


 今にも爆発しそうな怒りをこらえて、男に一歩ずつ詰め寄る。


 ゲームの序盤で滅ぶ村の運命を変えるために、オレは自分のステータスを限界まで強化した。その強化はなにも武器や拳を使う戦いだけじゃない。誰かを人質にとられてもいざという時に反撃できるように、相手の目を見るだけで身体を拘束する技も習得した。

 強い敵にはこの技は通じないが、盗賊程度の雑魚だったら簡単に通用するはずだ。


「ひぃぃ! お助けぇぇぇ!」

「オレの前から今すぐ消えろ。次に現れたら命はないと思え」


 冷たい声色で忠告して拘束を解くと、一旦尻餅をついた男はオレとミオが元いた地下牢に向かって逃げ出した。


「…………」


 晴れて自由の身となったミオが放心して、糸の切れた人形のようにその場に膝をついてしまう。


「大丈夫か、ミオ」

「グランさん……。わ、わたし……さっきあの人にナイフを突きつけられた時、怖くてなにもできなくて……」

「お、おい……」


 もうミオを脅かすやつなんていないのに。ミオの目からはみるみるうちに涙が溢れ、今では子どものように泣きじゃくっている。


「グランさんが助けてくれなかったら、今頃わたしは……」

「落ち着け、ミオ。オレがいるから大丈夫だ」


 ミオがこんなに泣いたのはいつぶりだろうか。いくら前世はおっさんといえど、泣いている女の子をどうやって慰めればいいのかオレにはわからない。


「わたしって本当に無力ですね……。先日魔物の群れが村を襲った時も、グランさんが大人数を相手に戦っている時も、いざというとき何の役にも立てなくて……。私もグランさんのことを守りたい。大好きな村の人たちの力になりたい。そう思っているのに……ぐすっ……」

「そうだな……。好きなものを失うかもしれないって思うと怖いよな……」


 オレも、今のミオの気持ちがよくわかる。そう思ったオレはミオの頭を優しく撫でた。


「グランさん……?」


 ミオが涙で頬を濡らしたまま、不思議そうな顔でオレを見上げた。

 せっかくの可愛い顔が台無しだ……。ミオの頬に流れた涙を指で拭いながら、オレは言葉を紡いだ。


「オレも、占い師からいずれくる魔物の襲撃で村が滅ぶかもしれないって聞いた時は気が気じゃなかった。運命を変えるためにオレは血のにじむような努力をしなきゃだめだったけれど、ミオには天性の才能がある」

「天性の才能……?」

「実は、さっきから手が痛くてさ。この擦り傷を治してくれないか?」


 ミオに向かって両手を差し出す。オレの手の甲は盗賊との戦いの連続で、すっかり傷だらけになってしまった。

 言うほど痛いわけじゃないが、ミオに治してもらえるのはここしか思い浮かばなかった。


「で、でも、わたし、治癒術なんて学んだこともなければ一回も使ったことなくて……」

「大丈夫だミオ。お前ならできる。なんなら、しばらくの間オレの手を握ってくれるだけでもかまわない」


 さらに手を差し出すと、ミオはまだ自信がないようだが、こくりと頷いてくれた。


「……わかりました。ダメもとでやってみます」


 ミオの小さな手が、傷だらけのオレの手を包む。


「わたしのためにこんなにボロボロになって……本当にごめんなさい」

「謝るなよ。オレたち、幼なじみだろ? だったら遠慮はなしだ」

「……はい」


 ミオがようやく笑ってくれた瞬間、彼女の手が突然光った。


「あ、あれ……?」


 ミオにつられてオレも視線を落とすと、光に包まれたオレの手の甲の擦り傷がみるみるうちに治っていく。

 幻想的な光に、ミオは不思議そうにぱちぱちと目を瞬いていた。


「これは、一体……?」


 本人の前では言えないが、さすが未来の聖女だ。ミオには不思議な癒しの力がある。

 この術が使えることは、本来はアレンと旅立ってからしばらくして発覚するんだが、今回はいいよな。もしこのまま外に出てしまったら、ミオには深い心の傷が残ったままだ。

 大好きな村を守るために原作の展開を変えたんだ。もしなにかあったらついでにミオのことも守ってやるさ。


 光が消えた後、オレの手の甲の擦り傷は完全になくなっていた。それを見てミオはようやくオレに、満面の笑みを見せてくれたのだった……。

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