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第10話 恋人には見えないだろ

 サラと一緒に騎士団の詰所を出た後、オレは深いため息をついた。


「すまん、グラン。こんなことになってしまって……」

「いや、サラが謝ることはないよ。放っておけば魔物が村を襲うかもしれないし、サラの力にもなれるし。そう思ったらお安い御用だ」


 胸をぽんと叩くと、しょんぼりとしていたサラがようやく笑ってくれた。


「だが、グランが騎士団に入るという話を拒んだ時は、私も少し残念だった」

「えっ?」

「この前の魔物の襲撃で、損壊した家や施設の修繕作業が終わりに近づいてきただろう? もうそろそろ私は王都に戻らなければならない」

「あ……」


 最近毎日のように一緒にいたから忘れていたけれど、サラは王都の騎士だ。

 いつまでも村でのんびりスローライフを送っているわけにはいかないよな。


 サラともうすぐお別れだと思うと寂しいが、かといってオレが騎士団に入るわけにはいかない。

 大好きな原作の展開を守るために……いや、それ以上に村になにかあった時、オレが真っ先に矢面に立って守れるように。

 オレはこれからも村長として生きていくつもりだ。

 だから、サラと道が分かれてしまうのは仕方のないことだ。


 近いうちにサラと別れることになると思うと寂しい気持ちになるが、かといって推しにカッコ悪い姿を見せるわけにはいかない。

 別れの日が来るその時まで、サラとめいっぱい思い出作りをしよう。

 そう心に誓っていると、サラがオレに向き直った。


「すまんが、私が村に滞在している間雑務が溜まってしまったみたいでな。悪いが、先に村に戻っててくれないか?」

「わかった。今日は盗賊を捕まえた記念にとびっきりおいしいごはんを用意してもらうから、なるべく早めに帰ってきてくれよ」

「あぁ」


 サラと別れた後、ひとりで城を出ると、道の先に知り合いを見つけた。


「あ、グランさん」

「ミオ、どうしてここに」


 道の端で立っていたミオは、オレに気づくと顔を綻ばせた。


「グランさんが騎士様たちに連れていかれたって聞いて、心配になってここまで来たんです」

「もしかしてひとりでか?」

「いえ……。ちょうど王都に行く用事のあった行商人の方にここまで連れてきてもらったんです」

「オレのことを心配して来てくれたのは嬉しいが、あんまり危ない真似はするな。その行商人が悪いやつだったらどうするんだ」

「その時はその時考えます……」


 ミオが腰に差している刀に視線を落とし、ぽつりとバツが悪そうにつぶやいた。

 過保護かもしれないが、ミオはこのゲームのメインヒロインであり、魔王の生き別れの妹だったりこの国の未来の聖女だったり、超重要人物だ。

 もしミオになにかがあったら、この世界は永遠に魔王の脅威に晒されることになる……。


「にしても、今日は久しぶりにおじいちゃんの姿なんですね」

「オレにだって色々あるんだよ……」


 いつもは老人の姿に変身しているが、サラが来てからは変身を解いていることが多い。

 最近ではオレが老人の姿に変身する時は、旅の人が近くにいる時くらいだ。


「お城に連れていかれるなんて、一体なにがあったんですか?」

「ここで立ち話もなんだし、詳しい話はまた後でな。さぁ、帰るぞ」


 オレが王都を出ようとすると、ミオにぐいっと腕を掴まれてしまった。


「あっ、待ってください。せっかく王都に来たんですから、グランさんと一緒に色々見てまわりたいです」

「お、おい。オレはここまで遊びに来たわけじゃないんだぞ……」

「そんなこと言わずに一緒に行きましょうよ」


 しまった、今のオレは老人の姿だった。

 小柄なオレの身体は腕を組んだミオにずるずると引っ張られてしまい、城下町の中にある商店街の方まで連れていかれてしまった。

 ミオが迷って、一番最初に入ったのは服屋だった。ここは女物に特化した服屋で、今ここにオレがいるのはすごく場違いな気がする。


「グランさん、この服どうでしょうか?」


 試着室から出てきたミオが首を傾げる。

 今ミオが着ているのは真っ白なワンピースだ。

 ワンピースからはミオの華奢な手足がのぞいていて、清楚な彼女にとても似合っている。


「可愛いよ」

「本当ですか? この服買っちゃおうかな」


 オレに褒められてミオは頬を赤らめている。

 服選びだったらオレより、同性のサラとかの方が適任だと思うんだけどな……。

 まぁ、ミオは満足しているみたいだし、たまにはいいか。


 ミオがワンピースを買った後、次に連れてこられたのは広場にあるクレープ屋だった。


「いただきます」


 大きく口を開けて、クリームたっぷりのいちごクレープを一口食べたミオが頬を緩める。


「おいしい」


 クレープなんて食べるのはいつぶりだろう。

 オレもクリーム少なめの抹茶クレープ(抹茶は日本そっくりの東方の国から仕入れたそうだ)を食べていると、ミオがじーっとオレを見つめてきた。


「……一口食うか?」

「いいんですか!?」

「そんな目で見られたら、誰だって気になるだろ……」

「えへへ、すみません。いただきます」


 ミオが横髪を耳にかけて、オレのクレープを一口食べる。

 傍から見たら年の差カップル……には絶対に見えないだろうな。せいぜい孫とおじいちゃんのふたりだ。


 ミオはリグブレのメインヒロインではあるが、同時にオレの幼なじみでもある。

 これがサラだとドキドキして心臓が破裂してしまいそうだが、ミオが相手だと不思議と平気だ。


「なんだか、恋人みたいですね。私たち」

「そうか? 孫とじいちゃんだとオレは思うぞ」


 思ったことをそのまま口にすると、ミオはなぜかすねた顔をして、そのまま自分のクレープを食べ続けたのだった……。





 その後もミオに城下町の中を連れ回されて、空が少しずつ薄暗くなり始めた頃。

 オレもミオも王都のことについてはそれほど詳しいわけじゃない。

 興味のひかれた場所に足を運んでいるうちに、いつのまにか港まで来てしまったようだ。


 各地で魔物が凶化しているせいか、最近は不漁続きだという噂の港は華やかな大通りとは違って殺伐とした雰囲気で、あちこちに酒に溺れた男たちがいる。


「なんだか、怖い所に来ちゃいましたね……」

「面倒事に巻き込まれる前に帰るぞ」


 酔っ払いに絡まれる前に港を離れようとすると、ひとりの男が後ろからミオに近づいてきた。男は片手に酒瓶を持っている。


「ミオ、危ない!」


 今の自分が老人の姿になっていることも忘れて、オレは身を挺してミオをかばった。


「グランさん!」


 その直後、酒瓶で頭を殴られたオレは一瞬で意識を失ってしまった……。

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