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第1話 村を守ったら推しに会いました

 ファンタジー世界ならどこにでもあるような村に、これから先勇者となるひとりの青年が村長の家を訪ねていた。


「おぉ、旅人さん。村の人から話は聞いておるよ。あいにくこの村には宿屋はなくてのぅ。ワシの家の客室でよければ自由に使っておくれ」

「しばらくの間世話になるぜ」


 未来の勇者がオレにそう言うと、二階にある客室に向かって階段を上った。


「いいなぁ……」


 オレは羨ましげにつぶやきながら階段を上る勇者の背中を見送った後、窓を見た。

 窓にうっすらと映っているのは顔面シワだらけの顔に、豊かな髪やヒゲは見事に真っ白だ。これを見たら、誰しもがこの村の村長だと思うだろう。

 こんななりをしているが、オレには前世の記憶が残っている。





 前世では剣や魔法といったものとは全く無縁な世界で会社に務めていたおじさんで、運悪くブラック企業に就職してしまった結果、毎日死に物狂いで働かされ、オレが気づいた時には過労であっけなく死んでしまったようだ。

 前世の記憶を持ったままファンタジー世界に転生する――いわゆる≪異世界転生≫というものについては前から知っていたが、まさか村長に転生するとは思わなかったぞ。


 村長に転生してからだいぶ経った今、ゲームみたいな世界での暮らしには完全に慣れてしまったが、このまま悠長にスローライフを満喫するわけにはいかない。

 この村に未来の勇者が来たということは、明日にはこの村が滅んでしまうからだ。


 オレが転生した世界はなんと、前世で時間を忘れてやりこんだゲーム――「リグレットブレイカー」通称「リグブレ」の世界だった。

 リグブレはラスボスの魔王とかつて師弟関係だった主人公が、多くの街をまわりながら仲間を集めたり色んな敵と戦ったりして、最終的に魔王を倒す王道のRPGゲームだ。


 主人公は序盤にこの村を訪れるのだが、村長の家に一泊した次の日、近くのダンジョンを探索してから戻ると、魔王が呼び寄せた魔物の群れによって村が滅んでいた。

 序盤から強烈な展開に、ゲームをクリアしてから何年か経った今も強く印象に残っている。

 ……そう。最初からこの村には滅亡フラグが立っているのだ。


 リグブレはオレが一番大好きなゲームだ。原作の展開を変えるようなことはしたくないが、オレはリグブレと同じくらいこの村が好きだ。

 いくらストーリー上で必要なイベントとはいえ、このまま村の滅亡を待つわけにはいかない。

 悩んだ末にオレは運命に抗うことにして、村長の仕事をこなしながら空いた時間にダンジョンにこもっては、己のステータスを限界まで強化した。


 今日、リグブレの主人公がこの村に来たということは、いよいよ明日が運命の日だ……。

 少しずつ暗くなりはじめた窓の外を見て、オレはぎゅっと拳をにぎりしめた。





 翌日、近くのダンジョンに行く未来の勇者を見送った後、オレは村の人たちを広場にかき集めた。


「もうすぐこの村に魔物の大群が押し寄せてくる。前に言ったとおり、戦う力のない者や、自分の命を大切にしたい者は王都や他の村に避難するのじゃ。もし危険を承知でワシに命を預けてもいいという者は、武器を装備してこの場に残ってほしい」

「やはり村長は……」

「もちろんワシも戦うぞい。なぁに、ワシの実力についてはここにいるみんなは十分に知っとるじゃろ」

「……ご武運をお祈りします」


 恭しく頭を下げた若い村娘がオレから背を向けて、他の村に避難するグループの中に混じる。

 実はオレは異世界転生者で、もうすぐこの村は滅んでしまうんだ。……なんて村の人に言っても、絶対に信じてくれないだろう。

 村が滅ぶということは王都の高名な占い師から聞いたということにしておいて、オレはそのことをみんなに伝えた。


 実際に最近、見慣れない魔物が村の周辺でたびたび目撃されるようになった。

 村長という立場のおかげもあって村の人たちはオレの言うことを信じてくれて、もし運命の日が来たときどうやって対処するか一緒に対策を練った。


 最初はオレも含めて村の人たち全員でどこかに避難でもしようかと思ったが、たしか、ゲーム上での展開では、主人公が帰ってきた時村は焼け野原になっていた。それを思い出すと、命はあっても帰る場所がなくなってしまうのは非常に困る。

 悩んだ結果オレは魔物を迎え撃つことにして、少数ではあるが有志の人たちもオレに協力を申し出てくれた。


 武器を片手に持って有志の人たちと一緒に待っていると、見張り台から大きな声が聞こえてきた。


「王都のある方角から魔物の群れがこちらに押し寄せてくるのを確認! もうすぐこちらに来ます!」

「うおおおお!! 皆の者、ワシに続けー!!」


 村長らしく号令をかけたオレは、有志の人たちと一緒に魔物を迎え撃った。

 見た目は今にもぎっくり腰になってもおかしくないおじいちゃんだが、訳あって身体は軽い。


 槍を豪快に振って魔物を屠っていると、村の奥でひとりの女騎士を見かけた。

 あれ……? なんで王都の騎士がここにいるんだ……? 


「くっ……」


 女騎士は腕を怪我してしまったのだろうか。地に膝をつき、左腕を掴みながら痛みに顔をしかめている。

 あの子、どこかで見たことあるような……。

 オレがのんびりと考え事をしていると、魔物の骸骨兵が剣を片手に持って、女騎士に襲いかかってきた。


 危ない! オレはとっさに駆けだしたものの、今の体では歩幅が小さすぎる。

 これは村の人以外の前ではあんまり使いたくないんだが……今はつべこべ言っている場合じゃない。


 走りながら心の中で強く念じると、華奢な脚が瞬時に逞しくなり、歩幅が一気に大きくなった。

 傍から見たら、今のオレは別人のように見えているだろう。


「ふっ!」


 勢いに任せて槍を力強く振ると、骸骨兵の全身にヒビが入り、そのまま砂と化して消えていった。ふぅ……間一髪だったな。


「大丈夫か?」


 額に流れた汗を拭いながら振り向くと、オレはおもわず目を見張ってしまった。

 その子は栗色の髪のポニーテールの女の子で、人形のようにきれいな顔立ちは、クールという言葉が一番しっくりくる。

 きれいなのは顔立ちだけじゃない。このおっぱいで騎士は無理でしょって言いたくなるくらい、とても胸が大きい女の子だ。胸が大きすぎるせいか、サイズの合っていない胸当てはとても窮屈そうだ。


「ありがとう……。感謝する」


 クールな見た目にぴったりな凛とした声を聞いて確信する。

 オレが助けたのはこのゲームの最推しであり、ヒロインでもある女騎士のサラだったのだ。

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