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「死にたくない」けど「生きたくない」

作者: 宮の

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※注意書き

・生死に関する偏った思想がでてきます

・暗い内容です。精神的に負荷がかかる可能性を踏まえてご閲覧くださいませ

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しょうもない。


 その言葉が頭に浮かべば、日が終わる。全てがどうでもよくなり、時間を溶かすのが上手くなる。亨は人間である。時間を溶かすのが得意な人間だ。そんな亨がしょうもないと感じるのは如何なる時か。人間なのだから、みな思う機は同様。

さて、こんな風に疑問を抱いたことはないだろうか、「なぜ息を吸うのか。」と。愚問であるのか、そうではない。今この瞬間、君たちは息を吸うことを意識はするが、あと数分もすれば息をしていることを忘れてしまう。この事実に興味がそそられる、今日起きた出来事は明日までは覚えているのに、息を吸うことは生まれてから絶え間なく続けていて慣れすぎたようだ。

 何がいいたいのか。つまり息を吸うことは「しょうもない」のである。生きるために息を吸うのか、死ぬために息を吸うのか。息を吸うたびに酸素は減り、寿命が減る。世の中には生きようと息を精一杯吸う人もいれば、死ぬために息を吸うものもいる。目的が違うだけで、二つは表裏が一体なのだ。


「なにしてるの?」


 屋上のフェンス越しに見える、そう尋ねた先にいるのはクラスメイト。亨の質問は周りから見たら奇怪なものらしい。話せる友達はいないが、授業には最低限出席をする。周りは腫れ物に触るように私を眺めてくる。決して近寄りはしない、うるさい陰口に陰湿ないじめ。悪くない環境だ。心地が良い。大体、人と関わる際は情が移らない程度の深さが良い。期待をして傷つくことがばかばかしい。人の縁なんて簡単につながり、簡単に切れてしまうものが多いのだから。それを踏まえると、いま亨の状況は心地がいいのだ。他人に気を遣わずに自分らしく過ごすだけで、周りの環境が勝手に自分に適応していく。亨が適応する必要などない。そんな亨を、周りはどう思っているのだろうか。


「もう、生きたくないの。」


 亨は見ていた、ただ。その光景に興味がそそられたからだ。風にあおられて、彼女らのスカートは不規則に波を打つ。決して抑えることはなく、スカートの存在など気にしている余裕はなかった。そして空を仰いでいる。気分が高揚していく、いつ飛べるのだろうか。飛んだらきっと、奇麗だろうな。自ら息を永久に止めようとする姿勢。怠惰に息をし続けることなく、奇麗に終わる。そんな光景をこの目で。


「なにしてるの?」


「水を差したくない。こんな日に、私の存在はあなたにとって不要だから。」


命を捨てることができる日。命を粗末にするな、大切にしろ、生きろ。そんな言葉を受け入れられなかった者が、こんな言葉を押し付けてくるのが正しいとされている世の中を捨てることができる日なのだ。なぜ誕生日は祝うのに、命日は祝わず喪に服すのか。亨の命日はみんなでお祝いをして欲しい。しかし、こんな世の中が楽しいと思う。なぜなら人間が存在しているからだ。斯くいう亨も人間である。


「自殺って、あなたはどう思う?」


「なぜ私に聞く?」


「あなたは、芯がしっかりしているからお話を聞いてみたいの。」


高校に入ってから、こんなにも人と話したのは初めてだ。しかし干渉されることが苦手な亨、一気にさっきまでの高揚は冷めていく。ここで返答をするのか、しないのか、亨は悩まなかった。いや、悩めなかったのである。そこにいるクラスメイトの瞳の中には、情けなくつまらなそうに突っ立っている猫背の亨の姿が見えていたからだ。亨は自分の姿が好きであるが、その瞳に映る自分の醜さになぜか惹かれてしまっていたのだ。


「素敵な日だよ。」


「どうして?」


「この世界から離れる勇気と、権利を与えられたという実感が湧く。そして、全てを捨てて自由への一歩を踏み出せるからさ。」


「そっか」


クラスメイトは伏し目がちにしていた目を、また視線の先を空へと戻した。


「私、死ぬのが怖い。

でも、生きたくないの。」


「意味がわからないね。怖いのになぜ死のうとするんだ。」


「私、死のうだなんて思ってないよ。ただ、生きたくないって思ってるだけ。」


「同じじゃないか。生きたくないから、死ぬんだろ?」



命を捨てたくなる瞬間は人によって違う。人によっては、そんな理由かと思うことが、その人にとっては重大なことであったりする。特に、中学生の時期に形成される人間の社会的カースト制度の縮図に耐え切れなくなるものも多い。しかしこのカーストは、大人になればどうでもよくなるもので、当時の悩みなど酒の肴になってしまうのだ。亨の悩みは、何もない。何もないと思って過ごすだけで、全ての環境が心地いいと感じられるのだ。たとえそれが、偽りの自分であったとしても。



「人間は、みな死にたいと振舞っているだけ。本能なんて、死にたくないって思ってるから。」



振舞う。ドラマツルギー。

亨は目を見開く、今までの亨の思考が、崩されたような気がしたからだ。いや、崩されたのではない。ダルマ落としのように、亨の考えていた偽りの自分だけ綺麗に抜かれたようだったのだ。これは、見透かされているような感覚に近いのだろう。逃げたくて、逃げたくて、逃げる場所が、たどり着いた場所がここで。亨はこの道しか選ぶことができなかった。あとに引き返す道もなく、ただ前だけ見て、ここまで来てしまった。



「靴を履いてよ、私みたいにね。

一緒に教室に戻ろう。」



フェンス越しに立っているのは、亨だ。

そうか死にたかったのは、私だったのか。

ご閲覧頂き、ありがとうございました。

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