1-16.一人称
私とニースは一度、ゴブリンもどきの死骸を見張る冒険者パーティーと合流。
衛兵詰所やギルドへの先触れは既に出していることを確認した。
彼らに『この場は任せてくれ』と言われたので、例の丸薬だけ回収してギルドへと戻ってきた。
「サズくんは本当に、面倒事を見つけて拾ってくるのが上手ですね?」
「いや望んでのことではないので……」
ギルドの会議室に集められた、カタリスの責任ある立場に就く人々。
彼らの前で一通りの報告を終えた私に、ハロルド支部長がため息混じりに毒づいた。
こっちだってもう少しトラブルの少ない人生を歩みたいわ。
「サズよぉ、新しい槍の調子はどうだ?」
ドノヴァン親方が話しかけてきた。
彼は鍛治組合で何かの役職についているわけではないが、みんなからは相談役などと呼ばれ、実質トップのような扱いなのでここに呼び出されている。
「ええ、上々でしたよ。あれならオーガに折られることもないんじゃないですか?」
「だろう?まぁ多少歪みはするだろうがな。その時はまた持ってこい」
親方が見繕った槍は、見た目こそ柄に布が巻かれただけの何の変哲もない、穂先が十字状になっているものだ。
だがその実、穂先だけでなく柄まで全て金属でできている。
柄が木製のものに比べてかなり重いうえ、重心も普通とは全く異なるので取り回しにはコツが要る。
だがその分強度があるということはさっきの戦闘で身をもって理解した。
「あれはな。柔らかい金属の芯を頑丈な別の金属で包んであるんだ。割合新しい技法なんだが、弟子に試させたら存外上手くいってな」
それって日本刀とかでやってるやつでは?
皮金とかなんとかいうやつ。
報告会の参加者が方針の相談や他愛ない雑談をしていると、会議室の扉がノックされて開かれた。
開かれた扉の向こうにはギルドの受付担当、ハナさんが立っていた。
「すみません会議中に。あ、この様子だともう報告終わりましたか?だったらサズさん来てください。ニースさんも。もうすぐお昼時で冒険者の皆さんが集まってるので、ゴブリンもどきの詳細について説明を……」
どうやら新しい仕事が増えたようだ。
刑事ドラマなんかで何度も同じことを喋らされる参考人って、こんな気分なのかな。
必要なのはわかっているけど、すでに結構口が疲れているので少々面倒に感じてしまう。
喋らないという選択肢はないのだけれど。
「わかりました。支部長、例の薬についてはどうします?念のためまだ伏せますか?」
報告会では公表の方向で纏まっていたが、具体的なところは決まっていない。
ならばお伺いは立てておいたほうがいいだろう。
前世の姉曰く、こういう時には上司に聞いておかないと責任が飛んで来かねないのだそうだ。
ギルドの支部長が冒険者にとって上司に当たるのかはさておいて。
「伝えてください、口止めも結構です。サズくんみたいに舐めてかかって、殺されてもいけませんからね」
「だから観察のためだって言ってるじゃないですか……」
支部長は至極面倒臭そうに、ニースが抱いているスウェイウルフの子供を指差して続けた。
「あとその子犬。幼体の魔獣であれば家畜化の前例がいくつもありますし、しばらくは脅威になりそうもない。飼育は認めますが記録と報告は欠かさないこと。ちゃんと管理して下さいね」
言うだけ言った支部長は、要はもう済んだと言わんばかりに手で追い払うような仕草をした。
ここからは責任者だけで本格的な対策を練ることになるので、一介の冒険者は邪魔になる。
私とニースはハナさんに連れられて、会議室を後にした。
◇
ギルドのホールには、想像より多くの冒険者が集まっていた。
なんでも昨晩に冒険者同士のカップルが成立したらしく、お祝いにみんなで遅くまで飲んだくれていたのだとか。
まだ酒が残っていて顔色が悪いのや、机に突っ伏してるのがそこかしこにいる。
「皆さん注目!実際に生きてるところを見たサズさんとニースさんから、未確認の魔物について説明してもらいます。ちゃんと聞いてくださいね!」
その場にいた大勢の視線が一斉に集まる。
正直、さっきまでのお偉方への報告よりよほど緊張する。
だって人数多いし、場所もすごいオープンだし……。
「えーと、皆さんどうも。ブロンズ冒険者のサズです。今朝がた私とニースが森で……」
「「「「「「私!!?」」」」」」
「悪いか!?」
みんな揃ってツッコミ入れなくてもいいじゃないか!
「皆さん、落ち着いて下さい。気持ちはよーくわかりますが、ひとまず魔物について聞いてからにして下さい!」
「ハナさんまで!」
「サズ、諦めた方がいい。なんなら持ちネタにすればいい……」
「ニースも!?ていうか、この一年でジョークまで言えるようになったの?」
「ジョークじゃない、本気……」
そう言って、ニースは私にイタズラっぽく笑いかけた。
勘弁してくれ……。
「はいそこ、イチャついてないで説明してください」
ハナさんが呆れた様子で説明を急かす。
「誰のせいで止まったと」
「サズだろ」
「お前だな」
「サズさんでしょ」
「サズのせい……」
「君のせいだなぁ!」
「俺に味方はいねぇのか……」
「なんだ、もう元に戻っちまった」
「そっちの方がお前らしいぞー!」
その場にいた人間みんなが笑い始めた。
なんかもう、こいつら相手に緊張してたのがアホらしく思えてきたな。
自分でもちょっと違和感あったし、普段は『俺』でもいいのかもな。
「はぁ……もういいか?そろそろ説明するぞ」
私がそう言うと、アホどもは面倒くさそうに各々の席についた。
こいつらまさか、退屈な説明を聞きたくなかっただけか?
大きな大きなため息をひとつ吐いてから、説明を始める。
「今回発見した仮称『ゴブリンもどき』のサイズは中肉中背の成人男性程度で、ゴブリンというには少々背が高い。だが肌は緑っぽいし、攻撃のクセや動作の特徴なんかはゴブリンに近いように感じた。歯を剥き出しにしたりとかな」
流石にみんな真面目に聞いている。
それはそうだ、自分の命に関わる情報なのだから。
「ただ、その歯もゴブリンというよりは人間っぽいものだったし、何より服も靴も身につけていた。つまり、普通に人型の魔物を探そうと痕跡を追ってもダメだってことだ」
「マジかよ……」
誰かが呟いたが、その気持ちはわかる。
ゴブリンもどきが残す痕跡の詳細は不明。
痕跡がわからないなら、直接本体を探すしかない。
捜索に今まで以上の手間や人手を割かねばならないし、どこに潜んでいるのかもわからないということだからだ。
「そして何より、奴は最初ブロンズ一人でも充分対処できるレベルの動きしかしていなかった。スピードも、パワーも。だがこれ、この黒っぽい丸薬を飲んでから急に変わった」
ポケットから瓶に入れた例の丸薬を出して、みんなに見せる。
「これを飲む前、ゴブリンもどきは何か苦しんでいるようだった。口から泡を吹いて痙攣したりとかな。だが飲んだ後の奴は空気を震わせるくらいの雄叫びを上げ、その後動きが鋭くなり力も強くなった。一瞬で槍の間合いより至近に寄られたし、槍の柄でガードしたのに腕が痺れたぐらいだ」
「雄叫びは私も聞いた。だからサズを見つけられた……」
「とにかく、奴らと接敵したらこれを飲まれる前に倒せ。出会い頭に戦闘だったから、平時の生態については詳細不明。私からはそんなところかな、ニースから補足はある?」
「丸薬を飲んだ後しか見てないけど、的が小さくすばしっこいから遠距離攻撃は種類やタイミングを選ぶべき。基本的なことだけど……」
私とニースが一通り話を終えたのを受けて、ハナさんが口を開いた。
「大事だから基本なんです、お二人とも貴重な情報をありがとうございました。皆さん、なにか質問はありますか?」
「「「特になーし」」」
……大丈夫かなこいつら。
いや、実力はちゃんとあるんだけどさ。




