表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私のだもん

作者: Yun*

ひまりちゃんは4人家族。

寒い冬の日、ゆきとちゃんという弟が生まれました。


「かわいいね、かわいいね」

お母さんもお父さんもゆきとちゃんを見るたびにそう言います。


しかし、ひまりちゃんは、ゆきとちゃんを可愛いとは思えませんでした。


(お母さんもお父さんも、ゆきとばっかり!)




ある日、おばあちゃんが遊びに来ました。

ひまりちゃんは、いつも「かわいいね」と言ってくれるおばあちゃんが大好きです。


もうすぐクリスマス。

おばあちゃんは、ゆきとちゃんとひまりちゃんへそれぞれクリスマスプレゼントを持ってきてくれました。


プレゼントを開けて、ひまりちゃんはとても嬉しい気持ちになりました。

なぜなら、袋を開けると可愛いウサギのぬいぐるみが入っていたからです。

ウサギさんは、赤色のマフラーを巻いて赤色の帽子をかぶっています。


(すごく、かわいい!)


すぐにウサギのぬいぐるみは、ひまりちゃんの宝物になりました。

しかし、ひまりちゃんはおばあちゃんに「ありがとう」と伝えることが出来ませんでした。


なぜなら、遊びに来てくれたおばあちゃんも、ゆきとちゃんにばかり「かわいいね」と言ったからです。


「いいもん。ひまりには、この子がいるから」


おばあちゃん達がゆきとちゃんを抱っこしている間、ひまりちゃんはウサギのぬいぐるみと遊んでいました。




次の日。

ウサギのぬいぐるみと遊んでいると、ひまりちゃん家へ、また誰かが訪ねてきました。


「ひまり。荷物を受け取ってくるから、それまでゆきとを見ていてね。」


ひまりちゃんは、ウサギのぬいぐるみを抱えたまま、ゆきとちゃんの側に行きました。


ゆきとちゃんは、ベビーベットの中で手足を動かしていました。

身体に掛けていた布団を蹴り飛ばしてしまうくらいに元気です。


ひまりちゃんは、蹴り飛ばされた布団を掛けてあげようと思いました。

布団に手を伸ばそうと、ベビーベットに身体を乗り出します。

すると、持っていたぬいぐるみの帽子を、ゆきとちゃんにぎゅっと握られてしまいました。


「はなして!」

しかし、ゆきとちゃんは握った手を離してくれません。


(この子まで取られてしまう!)


ゆきとちゃんの手を振りほどこうと、ひまりちゃんはウサギのぬいぐるみをひっぱりました。

すると、頭にかぶっていた赤色の帽子が取れてしまいました。


ひまりちゃんは、思わず、ゆきとちゃんのほっぺたを叩いてしまいました。


「うわあああああああん」


ゆきとちゃんの鳴き声を聞いて、お母さんが慌ててやって来ました。


ゆきとちゃんのほっぺたが赤いのに気づいたお母さんに、ひまりちゃんは怒られてしまいました。


(お母さんも、お父さんも、おばあちゃんも。

 全部、全部、ひまりのだったのに!)


ひまりちゃんは泣きながら、布団の中へと閉じこもってしまいました。






トントン、トントン、

しばらく泣いていると、ひまりちゃんは誰かに肩を叩かれました。


振り返ったひまりちゃんはビックリ。

肩をたたいていたのは、おばあちゃんにもらったあのウサギのぬいぐるみだったからです。

不思議なことに、辺りはお花畑に変わっています。


ひまりちゃんは、ウサギのぬいぐるみに差し出された手を取ると、ゆっくりと立ち上がりました。


ウサギのぬいぐるみは、ひまりちゃんの手をひっぱります。

ひっぱられた方向に進むと、ひまりちゃんは二つの大きな扉の前にやってきました。


一つ目の扉は金でできていて、二つ目の扉は木で出来ています。

ひまりちゃんはキラキラ綺麗な金色の扉に向かいました。

プレートには『Give and Take』と書かれています。

しかし、ひまりちゃんにはその文字の意味が分かりませんでした。


ひまりちゃんは、金のドアノブを開けてみました。





扉の中に入ると、そこには土の道が続いています。


(あれ?声が出ない?)

ひまりちゃんは自分の姿を見て、またビックリしました。

なぜなら、ひまりちゃんはウサギのぬいぐるみになっていたです。


振り返ると、そこにはもう扉がありません。


ひまりちゃんは、土の道を歩いて進むことにしました。



土の道を進んでいると、遠くにきらきらと輝く遊園地が見えました。

ひまりちゃんは、遊園地に向かいます。


しばらく歩いていると、

長い川が道をさえぎり前に進むことができなくなりました。

長い川には1艇の船のおもちゃがあります。


船のおもちゃに近づくと、そこにはクマさんがいました。


「これは僕のおもちゃだよ!」

貸してほしいとお願いしようとしましたが、ぬいぐるみになったひまりちゃんはしゃべることができません。

クマさんは、船のおもちゃに乗って遠くへ消えてしまいました。


仕方なく、ひまりちゃんは川沿いの道を進むことにしました。



しばらく歩いていると、

後ろから誰かが走ってくる音が聞こえました。


「じゃまだ、じゃまだ!」

後ろから、いきおいよく走って来たシカさんにひまりちゃんはぶつかってしまいました。


(あぶない!)

シカさんに飛ばされてしまったひまりちゃんは、川の中へ転がり落ちてしまいました。


ひまりちゃんの体は、ぬいぐるみです。

沈むことはありませんが、冷たい水が染みこみ体はどんどん重くなっていきます。


ひまりちゃんは、川に浮いていたビニールのボールに手を伸ばしました。


けれど・・・


「これは俺のおもちゃだ!」

イヌさんがボールを咥え、犬かきをしながら川を渡って行ってしまいました。


つかむものがなくなってしまったひまりちゃんは、どんどん川に流されて行きます。


岸まで流され着いたひまりちゃんは、重たい体を引きずりながらも、なんとか道端にでることができました。

手で押さえて水を抜きますが、ぬいぐるみの手では十分に水をしぼることができません。



足を引きずりながら土の道を進んでいると、大きなリンゴの木がありました。


「ぐぅぅぅ」

美味しそうなリンゴを見た、ひまりちゃんのお腹が鳴ります。


リンゴに手を伸ばそうとすると、


「これは私のよ!」

目の前に、ネコさんが現れました。


ひとつちょうだいとお願いしようと思いましたが、ぬいぐるみになったひまりちゃんはしゃべることが出来ません。

ネコさんはたくさんのリンゴをかかえて美味しそうに食べています。


(たくさんあるのだから、ひとつくらいいいじゃない!)

だんだん、イライラしてきたひまりちゃんはネコさんからリンゴをうばってしまいました。


「はなして!」

ネコさんが嫌がっていますが、ひまりちゃんは離しません。


ネコさんは手を振りほどこうと必死になり、ひまりちゃんのほっぺたを叩いてしまいました。


(いたい!)

ひまりちゃんは、リンゴを地面に落としてしまいました。落ちたリンゴは割れています。

泣きたい気持ちになりましたが、ぬいぐるみになったひまりちゃんには、声を出すことも涙を流すことも出来ませんでした。



あきらめて道の先へと進むと、いつの間にかあのキラキラ光る遊園地に到着していました。


遊園地の中を覗いてみると、

そこにはひまりちゃんと同じ、たくさんのぬいぐるみがいました。

パンダに、キリンに、リスに、トリ。たくさんのぬいぐるみが、遊園地で遊んでいます。


しかし、ひまりちゃんはとても悲しい気持ちになりました。


なぜなら、どのぬいぐるみ達もボロボロに汚れていたからです。中には、片目がとれていたりお腹がやぶれていたり足をひきずったりしているぬいぐるみもいます。


そして、どのぬいぐるみ達もみんな、大変な思いをしてたどり着いた乗りものを必死にひとりじめしています。それは、とてもいやな雰囲気でした。


遊園地は遠くから見ても分かるほどにきらきら輝いていましたが、ひまりちゃんはまったく遊びたいと思いませんでした。


ひまりちゃんは、遊園地の入口とは逆方向にある道へと進みました。



少し進むと、今度は木で出来た大きな扉がありました。

プレートには『Give others and Take』と書かれていましたが、

ひまりちゃんにはその文字の意味が分かりませんでした。


ひまりちゃんは迷いましたが、

遊園地には戻りたくなかったので、木で出来たドアノブを開けてみることにしました。





扉の中に入ると、そこには土の道が続いています。

土の道は長く、その先に何があるのか見えません。

ひまりちゃんは振り返ってみましたが、そこにはもう扉がありませんでした。


ひまりちゃんは、仕方なく土の道を進むことにしました。



しばらく歩いていると、

また、長い川が道をさえぎり前に進むことができなくなりました。


ひまりちゃんは、川を覗いてみました。

とても、泳げるような長さではありません。


ひまりちゃんは、川に映った自分の姿を見つめました。


真っ白だった体は黒く汚れていて、マフラーは無くなっています。

まだ湿った体は重く、足をひきずらなければいけません。

心は悲しいのに、ぬいぐるみであるひまりちゃんは悲しい顔もできません。


ひまりちゃんは顔を両手で隠し、その場に座り込んでしまいました。



「ねぇ、ねぇ。どうしたの?」


そこへ現れたのは、カメさんです。

カメさんは川を泳ぎながら側に近づいて来てくれました。


「川を渡りたいの?」


ひまりちゃんがうなずくと、カメさんは背負っていた大事な甲羅を差し出してくれました。


(使ってもいいの?)


首をかしげたひまりちゃんに、カメさんも首をかしげます。


「どうしたの?甲羅に乗れば、スイスイ渡れるよ。

 この甲羅はね、僕のお兄ちゃんにもらったんだ。

 でも、僕はもう泳げるようになったから、君にあげるね」


カメさんにお礼が言いたくても、ぬいぐるみになったひまりちゃんはしゃべることができません。

カメさんは、ひまりちゃんへ甲羅を渡すと、にっこり笑って川の中へ帰ってしまいました。



スイスイ、スイスイ

ひまりちゃんが甲羅に乗ると、甲羅は沈むことなく川の上をすべります。


甲羅に乗ったひまりちゃんは、あっという間に、向こう岸までたどり着きました。


道端に出たひまりちゃんは、土の道を進みます。

土の道は、森の中へと続いていました。

木の影が太陽を遮り、ひまりちゃんはだんだん寒くなってきました。


ぶるぶるぶる

湿っている体がキンと冷えて、ひまりちゃんは寒さに体が震えます。

ひまりちゃんはその場に座り込んでしまいました。



「ねぇ、ねぇ。どうしたの?」


そこへ現れたのは、キツネさんです。

キツネさんはふわふわのしっぽを振りながら側に近づいて来てくれました。


「大変!震えてるじゃない。あなた、寒いのね?」


ひまりちゃんがうなずくと、キツネさんは首に巻いていた赤色のマフラーを差し出してくれました。


(あったかい・・・)


マフラーに身を寄せるひまりちゃんに、キツネさんはうなずきます。


「あったかいでしょ。このマフラーはね、お母さんに編んでもらったの。

 でも、私にはふわふわのしっぽがあるから大丈夫」

そう言うと、キツネさんはふわふわのしっぽを自分の体に巻き付けました。


「あ。いけない。おつかいの途中だったわ。

 じゃあね、ウサギさん。

 そのマフラーはあげるから、風邪ひかないようにね!」


キツネさんにお礼が言いたくても、ぬいぐるみになったひまりちゃんはしゃべることができません。


キツネさんはにっこり笑って手を振ると、慌てたようすで森の中へ走って行ってしまいました。


心と体があたたまったひまりちゃんは、立ち上がることができました。

土の道を、先に進みます。



土の道を進んでいると、大きなモモの木がありました。


「ぐぅぅぅ」

美味しそうなモモを見た、ひまりちゃんのお腹が鳴ります。


ひまりちゃんは木に成るモモをとろうとしましたが、手が届きませんでした。


「ぐぅぅぅぐぅぅぅ」

ひまりちゃんのお腹が大きな音を鳴らします。


大きな音を鳴らすお腹をかかえて、ひまりちゃんはその場に座り込んでしまいました。



「ねぇ、ねぇ。どうしたの?」


そこへ現れたのは、モモンガさんです。モモンガさんは、モモを食べていました。


「ぐぅぅぅ」

モモンガさんのモモを見て、ひまりちゃんのお腹が鳴ります。


「お腹がすいているんだね?待ってて、取って来てあげる」

そう言うと、モモンガさんは木に登っていきました。


ひゅーん、ひゅーん

モモンガさんは木と木の間を飛びこえます。

あっという間に、たくさんのモモをかかえていきます。


「はい、どうぞ。食べて、食べて」

木から降りてきたモモンガさんは、葉っぱの上にたくさんのモモを置いてくれました。

一緒に、ブドウやさくらんぼの実もあります。


しかし、ぬいぐるみのひまりちゃんにはクチがありません。

それに気づいたモモンガさんも、ひまりちゃんも、困ってしまいました。


「ねぇ、ねぇ。どうしたの?」


そこに現れたのは、ちょうちょさんです。

モモンガさんは、ちょうちょさんに困っている理由を話しました。


「それなら、良い考えがあるわ。着いて来て」


ちょうちょさんは、ひまりちゃんとモモンガさんを森の奥へと案内します。



「着いたわ」

ちょうちょさんに連れられたのは、森の奥にある大きな家でした。


家の中を覗いてみると、

そこにはひまりちゃんと同じ、たくさんのぬいぐるみがいました。

ブタに、アヒルに、ペンギンに、カエル。たくさんのぬいぐるみが中にいます。


ひまりちゃんはとても嬉しい気持ちになりました。


なぜなら、どのぬいぐるみ達も仲良く、笑顔でいるからです。みんなで絵を描いたり、本を読んだり、お菓子を食べたりしています。


そして、どのぬいぐるみ達もみんな、食べものを分け合いおもちゃをゆずりあっています。それは、とても楽しそうな雰囲気でした。


ちょうちょさんが話をすると、ぬいぐるみのヒツジさんとゾウさんが近づいて来ました。


ヒツジさんは、ひまりちゃんの体にモフッと寄りかかります。


そこへ、


「パオーーーーン!」

ゾウさんが、ひまりちゃんの体めがけて鼻息を吹きました。

みるみるうちに、ひまりちゃんの体が乾いていきます。


体が乾くと、赤色のクレヨンを持ったのぬいぐるみのサルさんが近づいて来ました。


キュッ、キュッ、キュッ

サルさんは、ひまりちゃんの顔に何かを書いています。


「あれ?しゃべられる」


近くにいたぬいぐるみのカブトムシさんが、角を器用に使って鏡を渡してくれました。


ひまりちゃんの顔にクチが描かれています。


「みんな、ありがとう!」

ひまりちゃんは、やっとお礼を伝えることができました。

みんな、にっこり笑っています。


「ウサギさん、一緒に食べよう」


ネズミさんがお菓子を分けてくれました。

ひまりちゃんも、モモンガさんと一緒に運んだ果物をみんなに分けました。


そこには、特別な遊具も動く乗りものもありません。しかし、ひまりちゃんにはその家がきらきら輝いて見えました。


ぱくぱく、ごっくん。

「おいしいね!」


ひまりちゃんは、泣きたい気持ちになりました。

しかし、悲しいからではありません。心がポカポカあたたく、とても幸せな気持ちになったからです。



お腹がいっぱいになったひまりちゃんは、みんなと楽しく遊び、いつのまにか眠ってしまいました。






トントン、トントン、

眠っていたひまりちゃんは誰かに肩を叩かれました。

目を覚まし、振り返ったひまりちゃんは泣いてしまいました。


「お母さん、ごめんなさい」




泣き止んだひまりちゃんは、お母さんと手をつないでリビングに戻りました。

手には、あのウサギのぬいぐるみを抱きしめています。


ひまりちゃんは、ゆきとちゃんにもあやまりに行きました。


「ゆきと、たたいてごめんね」


ゆきとちゃんは、ベビーベットの中で手足を動かしていました。

身体に掛けていた布団を蹴り飛ばしてしまうくらいに元気です。


ひまりちゃんは、蹴り飛ばされた布団を掛けてあげようと思いました。

布団に手を伸ばそうと、ベビーベットに身体を乗り出します。

すると、持っていたぬいぐるみのマフラーを、ゆきとちゃんにぎゅっと握られてしまいました。


「この子は、私のおともだちなの」

ひまりちゃんは、抱いていたぬいぐるみをゆきとちゃんの隣に置いてあげました。


「だから、大事にしてあげてね」


それを見ていたお母さんが、ひまりちゃんの頭を撫でてくれました。


「ひまりは良い子だから、

 きっとサンタさんが来てくれるね」


「うん。ゆきとちゃんもね」

ひまりちゃんは、ゆきとちゃんへにこっと笑いました。


マフラーがずれたウサギさんもにっこり笑っています。


「・・あら?オクチを書いたの?」

お母さんは首を傾げました。


ひまりちゃんはゆきとちゃんを優しく撫でてあげました。


すると、

ゆきとちゃんも笑った気がしました。



「かわいいね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] とっても可愛らしいお話でした。 ラストにほっこり!
2022/12/17 15:16 退会済み
管理
[良い点] 下の子ができるとご両親も祖父母もそっちを構うことがおおくなるので、上の子はさびしくなりがちでしね。 あかちゃんはほっぺたをつつくとニコッと笑うかも。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ