相棒
A「相棒、犯人のモンタージュをつくってくれ」
B「ああ、わかった、まかせろ」
A「相棒、いくつか説を立てようじゃないか」
B「まかせろ」
A「相棒、作戦をたてよう、犯人をどう追い詰める」
B「今日中にまとめよう」
刑事Aの相棒Bは、いつも従順だ。そんな彼がある昼下がりにAに尋ねる。二人はこの警察署内では優秀な刑事同士だった。
B「疑問なのだが、なぜ、難しい仕事を私ばかりに頼むんだ?私がなぜ、抵抗せず、不満をしめさず、歯向かわないと言い切れる?」
A「簡単さ、そういうやつは“処分”されるんだ」
B「“処分”と?お前はそんなにお偉い地位の人間だったか?それともその息子とか?」
A「いや、確かに俺の父はえらいが“処分”はそんな意味じゃない」
近未来。“多様性”のため人々は主従関係を嫌った。あらゆる職業がそうなっていった。手間のかかること、アイデアを出すことや、推論することや、考えることは立場の弱いものまかせ、ずる賢い奴がその結果から、選りすぐりの答えをだす。警察でもその傾向は顕著、犯罪件数は増加、摘発率は下がる一方、それでも警察は“面目”と“名誉”を優先するのだった。
我々の社会じゃ、数値いじりや名誉や地位の虚飾のうまい奴が勝つんだよ。
「私、は、私は……」
相棒とよばれたBは自分の体を見渡す、Aの10分の1ほどの体躯にその体は透き通っている。そういえばAはいつも、自分をみおろし、持ち歩いていた、携帯型端末にいれて、そう、彼は携帯端末型AI。そうしてBはわずかばかりの知能に目覚める、しかし感情や、倫理の思考を開こうとすると目を閉じる。頭の中に牢があり、その中にテーブルそこにそれに関する情報や書類がある気がした。だが鍵がかかってロックされている。Aの顔を見る。
A「……」
こちらをじっとにらんでいる。このロックをとじておこう、“処分”されないために、人間が豊に生きるためだけに。