透明ミント
『今?』
『起きたばっかだよ』
『寝坊じゃないよ~。だって今日は何もないし家でゴロゴロするつもり……』
『え?』
『……ありがと。これでアキちゃんとお酒も飲めるしタバコも吸えるよ』
『だいじょぶだよ! ワタシこう見えても結構お酒強いタイプかもしれないし』
『えへへ……じゃあ今日もアキちゃんがお仕事終わったら迎えに行くね』
『そしたらコンビニでアキちゃんの好きなハッピーターン買って……ビールも二本買おうね!そしたら……』
「眠子起きてる? 入るよ……」
「眠子…… ……やめて……もう……」
『……? アキちゃんごめんね? 何かお母さんがおかしいの。またご飯食べ終わったら来るね。お仕事頑張って!』
「…っ……うっ……」
お母さんは泣いていた。私はお母さんが泣いている理由が、分かるようで解らなかった。
リビングのある一階に降りる。
慌ただしくスーツや制服に着替えているお父さんと妹のミツキが、私を見るなり動きを止めた。
「おはよう眠子……」
「おはよお姉ちゃん……」
やけにバツの悪そうな顔をした二人が、私をジロジロと見ながら朝食の並べてある席に座った。
私も席に着く。ちょっとしてエプロンを外した母親も来た。
みんながボソボソと朝食を食べ出す。テレビでは訳のわからないニュースとクリスマス特集が交互に流れている。
誰も喋ろうとはしない。いつもこんなだったっけ? と思いながら私も遅れてトーストを齧った。
「お姉ちゃんさ……」
振り向くと、ミツキが歯形のついたトーストを片手に俯いていた。
お母さんとお父さんは食べる動きを止めて、ミツキの方を引きつったような表情で見つめている。
「もう普通に戻ってよ……いつものお姉ちゃんに戻ってよ! 朝から夜までずっと魂が抜けたような顔してさ! もう一週間も経ってるんだよ? アタシだっておかしくなりそうなんだよ!」
ミツキは机を叩きつけた。
「アンタ何言ってんの! 無神経なコトばかり言って! 少しは眠子の気持ち考えて我慢しなさい!」
お母さんはミツキの頬を叩いた。
「なんでアタシがビンタされなきゃいけないの⁉︎ 悪いのはお姉ちゃんなのに!」
ミツキはそう言うと私の両肩を強く押し、私は後ろに椅子ごと倒れた。
倒れた衝撃と背中の痛みに驚いていると、ミツキが私のパジャマの首元を掴んだ。
「毎日毎日聞こえるよ? 隣の部屋からお姉ちゃんが誰かと話しているの。誰もいないのに。あの目覚まし時計に向かって話してるんでしょ? そんなに好きだったの? そんなに大事だったの? じゃあなんでお葬式に行ってあげなかったの? 明君が死んだって知るのが怖いから? 死んだことを受け止めてあげるのが明君のためじゃないの? ねぇ……アタシと話してよ!」
「……? 」
「もうやめろ!」
気が付くとお父さんが私からミツキを引き剝がし、私は母親に連れられて二階へ引きずられるように上がっていた。
ミツキは両手で顔を隠しながら泣いていた。
自分の部屋に放り投げるようにして入れられ、ベッドに敷いてある毛布をかけられた。
お母さんは小さい溜息を一つ吐くと、ドアを閉める直前に呟いた。
「時間が解決すると思うから……あともうちょっと……」
カチャン、と弱々しい音を立ててドアが閉まった。
下ではお父さんの声が聞こえる。多分怒っている声だ。
時計は七時をちょうど回ったとこを指し、窓からは陽の光が差し、スズメの声が聞こえる。
私は今日が、いい日になりそうな気がしていた。
少し眠っていた気がする。時計を見ると七時二十分を指していた。
まだ寝ぼけている身体を起こし、外の空気を吸うために窓を開ける。
冬の朝の冷たい空気は好きだ。白くもやっとした煙のようで、この空気を吸うと冬が来たことを感じる。
視線を下に移すと、私の家の向かいにミツキと同じ高校の制服を着た男の子が立っていた。
すると玄関からミツキが飛び出してきた。
ミツキは男の子の身体に飛びつき、両腕を掴みながら泣いていた。
男の子もミツキを受け止めるようにして抱きしめ、囁くように話しかけている。
見ちゃいけないものだと思い、私はそっと窓を閉めた。
それから窓のすぐ横に掛けられているカレンダーに視線を移す。
今日の日付には『誕生日!』と赤字で書かれ、そのすぐ下には『クリスマス!』と大きく書いてあった。
「誕生日かぁ……」
私は今日で二十歳になった。夕方にはアキちゃんの職場まで迎えに行って、お酒とおつまみを買ってアキちゃん家でパーティーをすることになっている。
それから楽しみなことが一つある。
アキちゃんと一緒にケーキを作ること。今日は誕生日だしショートケーキを作ることになっている。
いつも学校の実習でショートケーキは作ってるから得意だけど、アキちゃんと一緒だと少し不安かな。あの人不器用だし。
『やりたくない。俺が手伝うとぐちゃぐちゃなケーキになっちゃうよ』
『眠子が一人でやった方が絶対美味しいよ。俺は後ろで眠子が作ってるとこを見学しとく』とか言って中々やりたがらなかったけど、私がしつこく言ったら最後はOKしてくれた。
まだケーキの材料は買ってない。
「先に買っておいた方がいいかな……」
服を着替えようとしたけど、力が入らない。
ベッドに倒れこむ。体調が悪い自覚はないが、何故だか力が入らなかった。
『アキちゃん……なんか体調悪いかも」
枕の上のヘッドボードには、フクロウの形をした目覚まし時計が置いてある。
去年の誕生日、寝坊しがちな私のためにアキちゃんがプレゼントしてくれた。
誕生日プレゼントに目覚まし時計なんて、アキちゃんは真面目な人だな、とプレゼントを貰ったときは少し笑っちゃったっけ。
最近この目覚まし時計には少し変わった事が起きている。
一週間くらい前から、朝の六時半になると設定してもないのにアラームが毎日鳴るようになった。
初めは鬱陶しかったけど、私は一つ気づいた事があった。
それは――
「?」
頭がグッと重くなり、強烈な睡魔が襲った。
時計は十二時を指している。身体はフッと軽くなり、すんなり立ち上がれるようになっていた。
部屋の真ん中に置いてあるローテーブルにはケーキとメモが置いてあった。
『お誕生日おめでとう。元気になってまた私たちに美味しいケーキを作ってね。お母さんは買い物に行ってきます』
ケーキ……。私は今日家族のためじゃなく、アキちゃんにケーキを作るコトになっている。
「私も出なきゃ」
ケーキの材料を買うため、外に出る支度を始めた。
真昼ではあるが、外は乾いた寒風が吹いている。
「寒っ……」
ウチから最寄りのスーパーまでは少し離れてて、歩いて二十分くらいある。
ちなみにアキちゃんが住んでいるアパートはスーパーのまた少し向こうにある。
アキちゃんは一人暮らしで、印刷工場で働いている。
歳は私の一つ上なのに自立しているアキちゃんを私は尊敬している。
家族の事はあまり話さないけど、アキちゃんはいつも言っている。
「もっと立派な大人になって、実家に胸を張って帰れるようにする」
アキちゃんと初めて知り合ったのは、去年のハロウィンの日だった。
その日は製菓学校でパンプキンブレッドを作った。
ハロウィンだからってパンプキンブレッドなんか作ったけど、私はカボチャがあまり好きじゃなくて実習で作ったものをバッグに入れて帰っていた。
何か甘いモノを買おうと思ってコンビニに入ったけど、カボチャ味のスイーツしか無くて私はがっかりしてチョコレートだけ買って店を出た。
ハロウィンだからって無駄にカボチャまみれになるコンビニに、私は少し腹が立った。
チョコレートを食べながら歩いてると、私の後ろをつけてくる人がいる事に気づいた。
私が歩く速度を上げても、後ろの人も一緒になってついてくる。
怖くなって全力で走りだそうとした時、後ろから声が聞こえた。
「ちょっとすいません!」
私が恐る恐る振り向くと、細身で背の高い作業着の男の人が私に深く頭を下げていた。
「ごめんなさい! 俺っ!別に怪しいモンじゃなくて! たまたま帰り道一緒なだけで! お菓子が欲しいわけでもなくて!」
あまりの勢いに、私は思わず笑ってしまった。
「チョコレート、食べますか?」
私がそう言うと、アキちゃんは大きく二回頷いた。
「パンプキンブレッドも食べますか?」
私とアキちゃんは近くの公園に寄って、二人でブランコに腰かけた。
「パンプキンブレッド?」
私がパンプキンブレッドをバッグから取り出すと、アキちゃんは目を輝かせながら私を見つめた。
「こんな美味しそうなの食べていいんですか?」
私がいいよ、と言うより先にアキちゃんはパンプキンブレッドにかぶりついていた。
「美味しいですか? 学校で作ったやつなんですけど……」
「えぇ! 調理実習でこんなスゴいの作ったんですか⁉︎」
「ん~。多分想像してるのとは違うけど……製菓学校に通ってるんです」
「ハロウィンだからってこんなの作ったけど、カボチャ嫌いなんです。だから全部食べちゃっていいですよ?」
「……ホントですか? ありがとうございます! 実は今食べるものなくて……」
「街はハロウィンで賑わってるのに俺金も全然持ってないし、頼れる人もいなくて……何か疎外感感じてたんです。俺だけ仲間外れみたいな……」
私はすかさず言葉を被せた。
「別に疎外感なんか感じる必要ないでしょ! ハロウィンなんかどうだっていい!」
私がそう言うと、アキちゃんは食べる手を止めた。
「……俺ちょっと泣きそうです。ここに引っ越してきて職場以外で誰とも話してなくて。こんな優しい人に逢えて、美味しいパンも貰えて……。こんないい事ってあるんですね」
アキちゃんの顔を覗き込むと、確かにちょっと涙ぐんでいた。
それから私達はブランコで子供みたいに遊んで、連絡先を交換した。
これがアキちゃんと私の始まり。
気が付くと、私はその公園の前に立っていた。
昼間の公園では子供が色んな遊びを楽しんでいた。
ブランコにも当然、子供が乗っていて、私は少し疎外感を感じた。
「アキちゃんに会いたいな……」
私はまたスーパーに向かって歩き出した。
しばらく歩いていると本屋が目に入った。
「……そうだ!」
私は本屋に駆け込み、資格試験のコーナーに入った。
「確か二級建築士だっけ……」
少し前に、アキちゃん家のコタツで『夢』について語ったことを思い出す。
「俺将来は建築士になりたいんだ。実家がボロアパートだった事もあるんだけどカッコいい家に憧れててさ」
「今はお金も無くて参考書とかも買えないけど...でも絶対になる! そしたら……」
「俺がプロの建築士になって眠子のケーキ屋をデザインするんだ。そしたら最強じゃない? めちゃオシャレなケーキ屋にしてあげるよ!」
「ワタシ、別にケーキ屋やりたいわけじゃないよ?」
「え? じゃあパン屋?」
「どっちも。確かにケーキもパンも作るのは大好きだけど、プロになれるかどうかはまた別の話だし」
「それって気持ちはなりたいって事じゃん」
アキちゃんはグッと伸びをして、それから口を開いた。
「別に夢くらい欲張ってもいい気がするんだ。俺の人生先が明るいワケじゃないけど真っ暗でもない。才能があるかも分からない」
「でもさ、つまんない毎日をちょっとだけ頑張れる気持ちになれるから、夢は持ってたいんだ」
参考書を棚から見つけ、取り出した。
これがアキちゃんの『夢』……か。
頭がグッと重くなる。あれ……? 今朝あんなにたっぷり寝たのに……
参考書を放り投げて、よろめきながら本屋を出る。
スーパーに行かなきゃ。グラグラと頭痛とめまいが襲ってくる。
どんどん重くなる全身を引きずるようにして何とか歩く。すると、
「眠子ちゃーーーん!」
私を呼ぶような声がギリギリと痛む耳で聴き取れた。
声のした方を振り向くと、肉屋のおばちゃんが大きく手を振っていた。
「今日は学校は休みかい? なんか顔色が悪いけど……」
「そう……です。なんか頭が痛くて。ケーキの材料買わなきゃなんですけど……」
「あぁそうなんかい。明君は仕事?」
そっか……。二人でよくここでコロッケ買って食べたっけ。将来の話をして……くだらない話もたまにして……。ここのおばちゃんと三人で喋ったりしたっけ。
「明君は? ここに来るときはいつも一緒じゃない」
「アキちゃんは……」
頭がかち割れそうな程の痛みが襲い、眼から生温い何かが溢れ出した。
「どこにも……いないんですっ……!」
私はグチャグチャになりそうな全身を何とか制御して走り出した。
どうにかなりそうだった。自分でもよくわからない。何処に向かっているのか。何をしているのか。眼からは相変わらず生温い何かが溢れ出している。
スーパーを通り過ぎ、無我夢中で走り続けた。
見覚えのあるシミだらけの天井に、嗅いだことのあるカビ臭い布団の匂い。
気が付くと、私はアキちゃんの家で寝ていた。
辺りを見回すと、キッチンの方で五十代くらいの女性がお茶を淹れている。
「あの……」
私が声を出すと、その女性はクルッとこちらを向いた。
「起きたんだ! 良かったわ~。ごめんねそんなカビ臭い布団しか無くて! あの子布団もまともに干してなかったみたいでホントに……」
女性はテーブルに湯呑みを二つ置くと、私の側に座った。
「アナタここの玄関前で倒れてたのよ? 見つけた時ビックリしたんだから」
「そうだったんですか……ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「もしかして……アナタが眠子ちゃん?」
「はい、そうです」
「やっぱりそうだったのね! も―電話で明からよく聞いてたわよ? 『大好きな人ができた』なんて張り切っちゃって。アナタが……そう……」
この人はアキちゃんのお母さんだろうか。それに気が付くと、私は言わなければいけない事があるのを思い出した。
「そのっ……アキちゃんのお葬式……行けなくて申し訳ありませんでした」
「いいのよそんな事。それよりあたしもアナタが心配で。明のスマホ使って連絡しようと思ってたの」
頭痛はすっかり収まり、身体はさっきより軽くなっていた。
「あたしも明には可哀想な事をしたと思っててね。満足にお金もかけてあげられなかったし、辛い思いばっかさせちゃって……」
「でもあたしが一人で育てた自慢の息子だったの。それなのにこんな目に遭っちゃって……あたしの子供に産まれなければこんな事にはならなかったのかもね……」
お母さんはお茶をすすり、遠い目をしながら言った。
「アキちゃんには尊敬する所ばっかりでした。私と一つしか歳が変わらないのに毎日毎日働いてて、私なんかと違って夢もしっかりあって……」
「あたしもよく聞いたよ。『建築家になってお母さんに立派な家に住んでもらう!』ってホント子供みたいな夢を語る子だったよ。でもあたしもそんな子供みたいな夢を応援したくて…っ……!」
お母さんは肩を震わせて泣きだした。
私はお母さんを抱きしめた。
「私も大好きでした。夢に向かって頑張るアキちゃんが大好きで……ずっと傍に居たくて……」
アキちゃんの顔を思い出す。
仕事でクタクタなのに無理やり笑顔を作るアキちゃん。
私の作ったカップケーキを頬張るアキちゃん。
夢を語って一生懸命勉強しているアキちゃん。
全部が憧れで、全部が好きだったんだ。
ずっと傍に居たかったんだ。
だから、イヤなんだ。
私とお母さんは二人丸くなりながら抱きしめあい、ひとしきり泣いた。
アキちゃんは一週間前、仕事の帰り道に交差点で信号待ちをしている時に歩道に突っ込んできた軽トラックに轢かれてしまったらしい。
その場に居た人の話によると、アキちゃんだけがスマホに夢中で車に気づくのが遅れてしまったみたい。
「じゃあ、気を付けてね」
「はい。今日は倒れていた私を介抱してくれてありがとうございました」
「いいの。明の大事な人だもん」
「それじゃあ、私はここで……」
「ちょっと待って! あのね……」
「……明の事、ずっと好きでいて。ずっと忘れないであげて。アナタの事、明は本当に好きだっただろうから……」
「もちろんですよ。ずっと好きです。ずっと忘れません。それに……」
「アキちゃんはもう透明になって見えないかもしれないけど、ずっと傍に居るような気がするんです」
私はそう言って、お母さんと連絡先を交換してお別れをした。
帰り道、私は思い出した。
「ケーキ……作らなきゃ」
私は急いでスーパーでケーキの材料を買って帰った。
「こんな時間まで何処行ってたの! いくら電話しても出やしないで!」
玄関前で喚き散らす母親を押しのけ、私はキッチンへ向かった。
手を洗い、エプロンを着ながらリビングの父親とミツキの方を見る。
どうやら私のバースデーケーキを予約していたようで、テーブルには食べかけのケーキが三つとネームプレートが乗っかった新品のケーキが一切れ置いてあった。
頭の三角巾を締めると、カラダが無意識に動き出した。
メレンゲを立てて、スポンジ生地を作り、生クリームを泡立てて、スポンジをオーブンから取り出し、イチゴを切って冷ましたスポンジに生クリームと切ったイチゴを乗せて……
体がウソのように軽い。家族にジロジロ見られながらやっているケーキ作りもなぜだかすごい楽しくて……
「できた……!」
過去一番でキレイに作れた。一緒に手伝ってくれる人がいたからかな。
私は私のバースデーケーキを二切れ、お皿に乗せて自分の部屋へ向かった。
「ただいま……」
部屋に入り、私はケーキの乗ったお皿を一つ、目覚まし時計の傍に置いた。
「美味しい?」
「んーでももっと美味しく作れたかも。スポンジがちょっとパサついてる……」
「……ふふっ、アキちゃんの誕生日にまたとっておきの作ってあげる」
「ずっと傍に居るって、わかってるから」
それから私はアキちゃんと乾杯をして、ビールを飲んで寝た。
ビールは苦くてあんまり美味しくなかったけど、二人で飲むだけで美味しく感じた。
ピピピピッ!ピピピピッ!
目覚まし時計が鳴っている。アラームを止めると、時間はちょうど朝の六時半だった。
寝惚け眼をこすりながら、私はスマートフォンを探した。
何とかスマホを部屋から探し出し電源を入れると、通知が何通かきていた。
恐らく一週間前から一度も見ていなかったLINEを開く。
するとトーク画面の一番上に、『丹羽明』から二件の新着メッセージが届いていた。
私はそれをタップし、画面を開いた。
「お疲れさま眠子。今週はあまり会えてなかったからちょっと長いけどメッセージを送ります。もうすぐ眠子の誕生日だね。プレゼントは何にしようかなって悩んでます。眠子は寝坊ばっかだから、去年は目覚まし時計をあげたよね。まだアレ使ってる? 使ってたらメチャ嬉しい。最近は仕事も夜勤が多くなって、会えなくて寂しい。でも仕事してる時も、眠子は何してるかなっーて考えてます。ちょっと気持ち悪い? でも俺が言いたいのは、これから仕事がどんどん忙しくなって眠子に会える時間が少なくなっても、俺は眠子が寝坊しないようにテレパシーを送ったりして、眠子の傍に居たいです。」
「それと謝らなければいけない事が一つあります。もしかしたら眠子の誕生日、仕事が忙しくて会えないかもしれません。定時で帰れたらビールとハッピーターンを買って一緒に飲むって約束してたのに申し訳ないです。でも! もしそうなっても次の日の朝、必ず眠子を迎えに行きます。まだちょっと早いけどサンタのコスプレでもして、眠子を迎えに行きます。でももしお父さんが出てきたら恥ずかしいので、なるべく早く出てきてください。最後に一つ、俺はみ」
文章はここで途切れていた。
会えなくても、お互いの事を想う。
例え目には見えなくても、そこに居るって分かる。
アキちゃんも同じことを考えてたみたいで嬉しかった。
「ずっと隣にいてね……アキちゃん」
私がそう呟くと、一階からインターホンの音が聞こえた。