#5 ヒーローは突然に
忘れていた。
あれは数年前。
まだ、俺たちが小学生高学年くらいのころで、ダンジョンが出現したくらいだった。
『おい!チビ!なんか言ってみろよ~』
『『『ぎゃはははは!』』』
『や、やめてよ、痛いよ』
『じゃあ、やめてください○○様って言ったらやめてあげようかな』
『や、やめてください○○様』
『ぎゃはははは!ほんとにこいつ言いやがった!そんなんでやめる訳ないだろ!』
『ひ、酷い』
平雲はいじめられていた。
頭がよくて。気が弱くて。背が小さい。
格好の餌食だった。
俺は見て見ぬふりをしていた。
『平雲?大丈夫?怪我してるよ?』
『う、うん!これはちょっと転んじゃっただけだから』
『…』
唯一友達だった俺にも平雲は無理をしていた。
俺は次の標的にされるのが怖かったから助けなかった。
みんな助けなかった。誰も声もかけなかった。
俺はその他大勢。
みんなと同じ事をして、平凡に、普通に生きていただけ。
俺みたいなモブキャラは平凡がお似合いだから。
そんな平雲を助けたのは【英雄】であり『世界最強』の平雲のお兄さんだった。
お兄さんは直ぐに気が付いて直談判しに行った。
学校側は謝罪して、みんな平雲に同情の言葉を掛けた。
俺は…
『平雲…?あのっ!助けられなくてごめん!あの、怖くて見て見ぬふりしてて…』
『今更いいよ』
『え?』
『今更謝られても遅いって言ってんだよ!』
『ひっ、平雲!』
俺は上辺だけのヒーローだった。
その日、俺が河原で一人で遊んでいた時にお兄さんと会った。
『あ。雨宮君こんにちは。…どうしたの?そんな落ち込んで?』
『実は平雲と喧嘩しちゃって…』
俺は平雲とのことを話した。
『あーそうかぁ。そういえばあいつもなんか『どうしよう』って落ち込んでたから早く仲直りしてあげたら?』
『でも僕みたいな卑怯者に合わせる顔なんて無いんですっ!僕は何にもできない癖に上辺ばっかりヒーロー気取りでっ!こんな平凡な奴嫌われてもしょうがないんです…』
『んーそうかなぁ。僕は違うと思うけど』
『なんでですか…?』
『だって生まれてからみんながみんな善人なわけじゃないでしょ?例えば、僕って今【英雄】だよね?』
『そうですね…?』
『世間は僕の事褒めたたえるけどさ、僕だって死なせてしまった人もいるし、失敗だってある、馬鹿なことだってするただの人間だよ?』
『えっ』
『こんなやつだって英雄英雄だって言われてるんだから、誰でもヒーローになれると思わない?』
『…』
『だからさ、君はあいつの英雄になってやってよ。あいつは頼る相手がいなくて、色々背負いすぎるからさ』
『…ちょっと元気出ました』
『それは良かった。ちゃんと仲直りしなよー』
『はい!』
その後、俺は平雲と仲直りすることができた。
平雲のお兄さんは…ダンジョンで死んでしまった。
あの日以来俺は平雲の親友でいようと決心した。
だから、平雲の英雄に俺はならないといけない!
「平凡とか言ってないで!」
ーー弟の英雄でいてくれ。
「俺は生きなきゃ、いけないんだ!俺でも英雄になれるはずなんだあああ!」
触手が俺を潰そうとしたそのとき。
俺の体が光って、ブラックワームがその動きを止めた。
おや…? ようの ようすが?