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平々凡々なモブキャラの日常に紋章は刻まれる  作者: 怪儀 船尾
一章 モブ男は奔走す
6/30

#5 ヒーローは突然に

忘れていた。


あれは数年前。

まだ、俺たちが小学生高学年くらいのころで、ダンジョンが出現したくらいだった。


『おい!チビ!なんか言ってみろよ~』

『『『ぎゃはははは!』』』

『や、やめてよ、痛いよ』

『じゃあ、やめてください○○様って言ったらやめてあげようかな』

『や、やめてください○○様』

『ぎゃはははは!ほんとにこいつ言いやがった!そんなんでやめる訳ないだろ!』

『ひ、酷い』


平雲はいじめられていた。

頭がよくて。気が弱くて。背が小さい。

格好の餌食だった。


俺は見て見ぬふりをしていた。


『平雲?大丈夫?怪我してるよ?』

『う、うん!これはちょっと転んじゃっただけだから』

『…』


唯一友達だった俺にも平雲は無理をしていた。


俺は次の標的にされるのが怖かったから助けなかった。


みんな助けなかった。誰も声もかけなかった。

俺はその他大勢。

みんなと同じ事をして、平凡に、普通に生きていただけ。

俺みたいなモブキャラは平凡がお似合いだから。


そんな平雲を助けたのは【英雄】であり『世界最強』の平雲のお兄さんだった。

お兄さんは直ぐに気が付いて直談判しに行った。

学校側は謝罪して、みんな平雲に同情の言葉を掛けた。




俺は…


『平雲…?あのっ!助けられなくてごめん!あの、怖くて見て見ぬふりしてて…』

『今更いいよ』

『え?』

『今更謝られても遅いって言ってんだよ!』

『ひっ、平雲!』


俺は上辺だけのヒーローだった。




その日、俺が河原で一人で遊んでいた時にお兄さんと会った。


『あ。雨宮君こんにちは。…どうしたの?そんな落ち込んで?』

『実は平雲と喧嘩しちゃって…』

俺は平雲とのことを話した。

『あーそうかぁ。そういえばあいつもなんか『どうしよう』って落ち込んでたから早く仲直りしてあげたら?』

『でも僕みたいな卑怯者に合わせる顔なんて無いんですっ!僕は何にもできない癖に上辺ばっかりヒーロー気取りでっ!こんな平凡な奴嫌われてもしょうがないんです…』


『んーそうかなぁ。僕は違うと思うけど』

『なんでですか…?』

『だって生まれてからみんながみんな善人なわけじゃないでしょ?例えば、僕って今【英雄】だよね?』

『そうですね…?』

『世間は僕の事褒めたたえるけどさ、僕だって死なせてしまった人もいるし、失敗だってある、馬鹿なことだってするただの人間だよ?』

『えっ』

『こんなやつだって英雄英雄だって言われてるんだから、誰でもヒーローになれると思わない?』

『…』

『だからさ、君はあいつの英雄(ヒーロー)になってやってよ。あいつは頼る相手がいなくて、色々背負いすぎるからさ』

『…ちょっと元気出ました』

『それは良かった。ちゃんと仲直りしなよー』

『はい!』


その後、俺は平雲と仲直りすることができた。




平雲のお兄さんは…ダンジョンで死んでしまった。


あの日以来俺は平雲の親友でいようと決心した。




だから、平雲の英雄(ヒーロー)に俺はならないといけない!




「平凡とか言ってないで!」


ーー弟の英雄(ヒーロー)でいてくれ。


「俺は生きなきゃ、いけないんだ!俺でも英雄(ヒーロー)になれるはずなんだあああ!」


触手が俺を潰そうとしたそのとき。


俺の体が光って、ブラックワームがその動きを止めた。

おや…? ようの ようすが?

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