98.動き出した者達
ハーレイが目を覚ますと、その気配を感じ取ったシンシアが、扉の向こうからノックと共に声をかけた。
「殿下、宜しいでしょうか?」
普段なら待つことも無く室内に現れれるシンシアが、わざわざ部屋の前で待っていたということは、通常の侍女としての仕事で来ていると言う事だ。
「入って」
ハーレイの部屋に入ったシンシアは、頭を下げて要件を述べた。
扉は閉めず、開いている。
「宰相様から、『今日の夜会は中止になりました。後日開く予定ではありますが、日時はまだ未定です』との連絡がございました」
シンシアの言葉にハーレイは、「そういえば兵を労う夜会の予定だったんだっけ」と思い出した。
「分かったよ。宰相は母上の事は何か言ってた?」
今は城の侍女と皇子の会話の為、お互いに誰に聞かれても差支えのない会話に留めている。
「いえ、皇妃様の事は何も伺っておりません」
シンシアが否定を述べながら、頭と共に下げていた視線を、チラッと天井に向けた。
これは他の密偵から内々に報告があるという合図だ。
「そう・・・ありがとう。下がっていいよ」
ハーレイは心配してる風を装う顔と声色で答える。
「では失礼致します」
シンシアが退出して少しすると、今度は天井裏から声がかかった。
「フェルディナが子息のカルロスと孫のサウルの二人を城に呼び、陛下と四人でレイア様を探す方法について話し合われました」
声の主はフェルディナに付けていたシアンだった。
「カルロスは分かるけど・・・サウルって誰だっけ」
「サウルはフェルディナの末の娘の息子です。赤い目の」
「ああ・・・あの人か」
シアンの『赤い目』というフレーズで、サウル・ノイラートの顔がハーレイの脳裏に浮かんだ。
銀髪というよりは、老人のような白髪に真っ赤な瞳を持ち、ノイラートには珍しい、属性を一つしか持たずに産まれた男子。
普通であればノイラートで属性一つなど落第者であるが、その一つの属性が『闇』で、その闇魔術の才能が天才的と聞いている。
「それで、話し合いで何か進展は?」
「特にこれと言った方法が見つからず、一度ノイラートの邸に戻られることになったのですが、帰り際に一人図書室に寄ったサウルに、アリシア様が接触されました」
「アリシアが?」
「はい、『皇妃様が居なくなったと聞いて心配している』というような言葉で話しかけられたのですが、話しながらメモを渡しておりましたので、本来の要件はそちらかと思われます。今は緊急でサウルに密偵を付けましたが、専属を一人お借りできますか?」
「そうだな・・・ジーンを付けて。カルロスにはマナを。シアンとジーンはアリシアとアリアについてるヒルダと連携して」
「かしこまりました、ありがとうございます。では失礼します」
シアンの報告を聞き終えたハーレイは、座っていた一人がけのソファに深く沈んだ。
普段年相応な話し方を心掛けているハーレイは、密偵と話す時は素に戻る。
今よりさらに幼い頃、母上に
『信頼を示したい相手や、心を預けたい相手には、本当の自分を見せなさい。大切な人に何かを長く取り繕う事は辛い事なのよ』
と、言われたからだ。
今思えば、ずっと父上に、自分が妖精である事を隠さねばならなかった母上の心を指していたのかもしれない。
「密偵と連絡とるのにも、やっぱり念話みたいな魔法欲しいなあ。ノア様が何かいいモノくれるって言ってたけど、それ系の何かなのかなぁ」
呟きながらノアの容姿を思い浮かべ、ニマニマと微笑むハーレイだった。
密偵の人数と共に名前が増えてきました。覚えれる気がしません。




