93.セオドアの帰還②
ハーレイは宰相の侍従に言われ、宰相の執務室へと向かっていた。
(ラングストンは父上に怒鳴りつけられてるだろうな。まぁ、あの人なら平気だろうけど)
ハーレイの後ろには侍女の姿をした密偵のシンシアが付いている。
「父上に怪我はなさそうかい?」
ハーレイが侍従に声をかけると、侍従は少し眉をさげつつも、「はい」と答えた。
「怪我はないけど機嫌は最悪、といったところかな」
ハーレイの言葉に、返答できない侍従が苦笑いを零す。
やがて辿り着いた宰相の執務室に入ると、黒いオーラを纏っていそうなセオドアが、鎧姿のままで紅茶を飲んでいた。
その斜め向かいにはフェルディナもいた。
「父上、フェルディナ、おかえりなさいませ」
「ああ・・・そこに座れ」
ハーレイは言われた通り、セオドアの向かいのソファに座った。
この親子の仲は悪くは無い。
悪くは無いが、普段の会話は父と息子というよりは、まさに皇帝とその跡継ぎ、という感じである。
「お前が気を使って、私への知らせを遅らせたようだな」
セオドアの言葉に棘はあるものの、否定は含んでいないように聞こえる。
「はい。もし手強い魔物との戦闘中などに、母上の失踪を知らせては父上や兵が危険かと判断しました」
「・・・たしかに、ちょうどあの時間帯は倒れた者の治療に追われておりました。殿下のご配慮に感謝致しますじゃ」
フェルディナが、苦い顔をしているセオドアに代わって答え、続けて問いかけてくる。
「殿下もすぐに皇妃様と姫様の魔力を探られたとお聞きしましたが、見つからなかったと聞いておりますが」
「うん、今日は早くに目が覚めていたのだけど、窓から騒ぎが聞こえてね。見たら母上の宮辺りで侍女と護衛が騒いでいたから、その後すぐにわかったんだ。それで魔力を探ったけど、見つからなかったんだよ」
フェルディナは一つ頷くと、セオドアに向き直った。
「殿下が朝の時点で魔力を追えなかったとなると、夜の内にかなり遠くまで行かれたという事かと思われますじゃ。もしかしたら・・・皇妃様の生まれ故郷に行かれたのでは」
「なんだと?」
フェルディナの言う『皇妃様の生まれ故郷』は妖精界の事だろう。ハーレイは知らないフリを装って、二人を見ながら尋ねてみた。
「母上の生まれ故郷とはどこなのです?」
セオドアはハーレイには視線を合わせず、
「お前が知らぬ国だ」
と投げやりに答えた。
シュヴァルツヴァルト大陸でハーレイが知らぬ国などあるわけが無いし、まだ幼いとは言え頭のいいハーレイにはそんな言い訳で通じるわけも無いのは分かっているだろうに。
されど、深く突っ込めば機嫌を損なうのが分かっているので、ハーレイはとりあえず不満げな顔を作り、引き下がって見せた。




