92.セオドアの帰還①
「レイアが居なくなったとはどういう事だ!」
セオドアは城に着くなり、着替えもせずに宰相の元へ向かうと、そう声を荒らげた。
「ご無事のご帰還、安心致しました」
宰相のラングストンはセオドアの威圧に呑まれることも無く、平然と主に頭を垂れた。
「ラング!レイアが居なくなったとはどういう事だと聞いている!」
「今朝、侍女が部屋に訪れた所、すでに部屋はもぬけの殻だったそうです。その後離宮を探していた際に、姫様も居なくなっている事が判明しました。乳母と侍女のイヴもおりませんので、共に消えたと思われます」
ラングストンの報告に、セオドアが苦い顔をする。
「乳母の家にはおらぬのか」
「すぐに調べさせましたが、乳母の家族諸共消えたそうです」
セオドアの眉間に、深い皺がきざまれてゆく。
「そもそも、朝の事なのに何故すぐに知らせなかったのだ!」
「ハーレイ殿下が、戦闘中にそのような事を知らせれば、陛下と言えども怪我をなされるかもしれないと仰られまして、私共もその意見に同意したのです。その後、殿下が何度か陛下の様子を水晶で見て下さり、森を出たのを確認し、すぐにお知らせしたしだいです」
ラングストンの言葉に、セオドアは確かにビーモスの討伐に手間取ったのを思い返し、何も言い返せなくなった。
ちょうど毎朝レイアが起きる時間は、何人もの兵がビーモスの鱗粉からの毒で体が麻痺しており、フェルディナが治癒術師を率いて右往左往していた頃だった。
あの時もし知らせが入っていたら、自分は兵達をその場に置いて城に戻っていたかもしれない。
そんな事をしていれば、後々問題になるのは間違いがなかった。
賢い息子はおそらく、セオドアの怪我よりもそちらを心配したのだろう。
「すぐに帝国内を探せ。魔力は追えるだろう」
「それが、皇妃様も姫様もイヴも、魔力が追えません。乳母は元々魔力が少なかった為か、そちらも追えませんでした」
「なんだと・・・?帝国内でレイアと娘の膨大な魔力が追えぬなどある訳が無いだろう」
「しかし、実際追えぬのです・・・ですのでフェルディナ様にも試して頂きたいのですが」
ラングストンが言い終わるのを待たず、セオドアは後ろに控えていた従者に「すぐに呼べ」と合図した。
ラングストンの執務室の部屋のソファに、未だに戦闘用の鎧を付けたままのセオドアが腰を下ろした。
「陛下、殿下もお呼びしますか?」
「ああ、そうだな。ハーレイもここに呼べ」
その声に、ラングストンの侍従が頭を下げて出ていった。




