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番の瞳  作者: 言葉
第一章:出逢い
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8.夢か記憶か


その日も何とか眠りについたシェリーは、いつもの悪夢とは様子の違う夢の中を漂っていた。

シェリーにはなんとなく、これは夢だという確信があった。


場所も暗い森ではなく、どうやら建物の中のようだ。


その建物の様子は、ベッドや暖炉のあるような普通の部屋ではなく、辺り一面石造りの壁で出来ていて、窓どころか、入口も見当たらない。


ふと、壁の向こうから喚くような声がした。

おそらく女性。

喚かれている相手がいるはずだが、相手は声を抑えているのか、ここからでは分からない。


聞き耳をたててみる。

夢の中で聞き耳を立てるのも不思議だわ、なんてぼんやり考えていると、所々会話が聞き取れた。


「いつになったら────のよ!!」


「──帰ってきてしまう」


「早くあの女を──てちょうだい!───!!」


肝心な所が聞き取れない。

でも、この声は聞いたことがある気がした。

そして、この声は私の心に痛みを刺す声だった。



そこで急に場面が切り替わり、いつもの暗い森になった。

その途端、背中に迫る何かに気づく。

それは暗闇で光る赤い瞳。


──目が合った──


途端に恐怖に飲まれたシェリーは、無我夢中で走り出す。

後ろから唸り声がする。


──こないで──


シェリーがそう叫びかけた瞬間、優しく現実に引っ張りあげる声がした。


「大丈夫、目を開けて」


目覚めた私は、添えられていたセシル様の手を強く握り返し、彼に目を見ろと言われる前に、自分から緑の滲んだ白銀の瞳にすがりついた。


背中を摩る手の温もりに意識を集中させようとしたが、さっき目が合った赤い瞳が頭にチラついて、かき消すように頭をふる。

唸り声も耳にへばりついているようで、シェリーはセシルの瞳に集中できないでいた。


ふいに背中と手だけだった温もりが、身体中に広がって、震えが急激におさまっていくのがわかった。




どれくらいそうしていたのだろうか。


荒い呼吸と震えがおさまって、シェリーの脳が動き出したと同時に、セシルに頭まですっぽりと抱きしめられている事に気づいた。

いつもシェリーの手を握ってくれていた手は頭に添えられていた。


それどころか、シェリーも無我夢中でセシルに抱きついていたようで、がっしりと彼の服を掴んでいる。それに気付いた瞬間、一気に羞恥でいたたまれなくなった。

呼吸はおさまったけど、おそらく顔は真っ赤になっている。

部屋が暗くて良かったと思いつつ、シェリーはセシルから離れなければと声をかけた。


「セシル様、すみませんでした、おさまりました。…セシル様?」


頭の横にあるセシルの口から、微かな寝息が聞こえる。

すっぽりとシェリーを抱きしめたセシルは、器用な事にそのまま眠ってしまっていた。


セシルはシェリーが来てから、自室ではなくシェリーの客間の隣の客間で寝ていた。

それでも毎晩、いつ叫び出すかわからないシェリーを気にしてくれていた為、ちゃんと寝れていないのは知っていた。

セシルにきちんと睡眠を取って欲しいとシェリーが願った所で、シェリーは悪夢を見てしまうことを止めることは出来ない。

叫んだらどちらにせよ起こしてしまう。


シェリーは穏やかな寝息をたてて眠るセシル様の

体を支えながら、ゆっくりとセシルとベッドに横になった。

その体勢からなんとか彼の腕から抜け出すと、ベッドの上で少し距離を取り、穏やかなセシルの寝顔を確認して、また重くなった瞼を閉じる。


いつも繋いでいた片手だけはそっと触れて。


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