77.妖精界③
「なるほど。だからシェリルを連れてきたのか」
三人がけのソファを一人で陣取っていたノアが、クッキーを齧りながら呟いた。
すでに喋り方は猫っぽくない。
一方、話を聞き終えたシェリルは、複雑な顔で俯いていた。
父である皇帝とはあまり会った事がなかったが、そこまでどうでもいい存在と思われていた事に少なからずショックを受けていた。
そこで何かに気付いたシェリルが、はっと顔を上げてレイアを見上げた。
「お兄様は、お兄様は大丈夫なのですか?お兄様も寿命が短いのですか?」
シェリルは兄が大好きだった。
自分が実の父に顧みられない事より、兄が心配だった。
そんな兄思いのシェリルに、レイアが優しく頷いた。
「ハーレイは大丈夫よ。男の子なら普通の人間と同じくらい生きれるの。魔力量に関しても、普通の人間よりは多いけれど私より少ないし、世継ぎでもあるからあの人はハーレイには手を出さないでしょう」
「よかった・・・」
シェリルがほっと胸を撫で下ろした。
「で、レイア。これからどうする?・・・お前、何回、荊の祈りを使った?」
荊の祈りに関しては話さなかったレイアは、ノアの言葉に息を飲み、そしてふっと力を抜いた。
「貴方には隠せないわね・・・三回よ。九年前と七年前と、去年」
レイアの言葉にノアがおそらく難しい顔をした。
猫だと分かりにくいのだ。
「見せてみろ」
レイアの膝に一瞬で飛び乗ったノアが、レイアを見上げた。
そして先程まで黄金だったノアの瞳が、虹色に輝き出す。
やがて元の黄金の瞳に戻ると、はぁ、と溜息を漏らした。
「2/3を切ったってとこか。無茶しやがって」
レイアにだけ聞こえるような小声でそう言うと、また元いたソファに戻った。
「お母様・・・?荊の祈りってなぁに?」
今まで静かに一人と一匹のやり取りを見ていたシェリルが、恐る恐る尋ねた。
それに答えたのは紅茶を一口飲んだノアだった。
「自分の魂を削って、生命力に変える魔法のこと」
「ノア!」
レイアが慌ててノアの言葉を遮ろうとするが、ノアはレイアをひと睨みして牽制した。
それを見て、シェリルがさらに問いかける。
「魂を?」
「そう。魂を削る代わりに寿命が伸びるけど、削りすぎた魂は転生が出来なくなる。シェリルは転生は知ってるか?」
ノアに聞かれたシェリルは、ふるふると首を振る。
「妖精って言うのは、ある日突然生まれるんだ。『意識』と『存在』が噛み合った時に、この世界に生まれ落ちる。その時の姿は様々だけど、レイアは産まれた時からこの容姿。ちなみにボクも元は人型。で、このバカレイアが使った人間の体と魂を得る魔法は、『存在を肉体』に『意識を魂』にする魔法。妖精は存在が消滅しても、意識が消滅しなければまた生まれ直せる。でも本来意識であった魂を、レイアは削ってる。だからこれ以上削ったら・・・死んでももう生まれなおせない。それを人間の言葉で言うと、転生っていうんだ」
ノアの話を聞いたシェリルが母の顔を見ると、辛そうに俯いていた。
「もし・・・もしお母様が今以上荊の祈りを使わなければ、また妖精として生まれ直せるの?」
「あー…んー、ギリギリ、かな。通常、生まれ直した妖精は、過去の記憶を全て引き継ぐけど、レイアは生まれ直せても記憶の殆どを失うだろうな。魔力も今ほど無くなる」
実際にはもっと複雑な話で、レイアが再び妖精に生まれ直す事は出来ないのだが、幼いシェリルには酷だろうとノアは言葉を濁した。
そんなノアの言葉にシェリルがソファから立ち上がってレイアの膝にしがみついた。
「お母様!もう使わないで!シェリルの魂をあげるから!」
「シェリル!そんな事しないわ!」
娘の言葉に驚愕したレイアは、慌ててシェリルを抱き起こした。
一部始終を黙って見ていたイヴは、ソファで静かに涙を落としていた。
予約投稿とやらに失敗しました。ぴえん




