76.妖精界②
白いレンガ造りの家に入ると、中の壁も天井も白く、床は暖かみのある木の床で、そこに白い絨毯。
家具類も白と薄茶色と、差し色で青が使われていた。
広い皇城しか知らないシェリルは、物語に出てきそうなその家をキョロキョロ見て目を輝かせている。
「レイア様、お茶の支度をしますね」
空間収納から取り出した荷物を二階に置いてきたイヴが、備え付けのキッチンへと向かいながら、ふと足を止めて振り向いた。
「ノア様は紅茶は飲まれますか?ミルクの方がよろしいです?」
相変わらずシェリルの頭に乗っかっているノアは、耳だけイヴの方にピコピコ向けると、
「紅茶のストレートがいいにゃ。ボクは見た目は猫だけど、猫じゃにゃいからミルクはどちらかと言うと苦手にゃ」
しっぽをぱふんと揺らすのを見ながら、イヴはかしこまりました、と再びキッチンへと向かった。
家に入ってすぐ左にテーブルとソファがあり、レイアとシェリルは座ってやっと息を吐いた。
「シェリル、疲れてない?大丈夫?」
「はい、お母様。でもまだよくわからなくて」
「そうよね、イヴが来たら話しましょう」
そんなやり取りを眺めていたノアが、シェリルの頭からレイアの膝に移動し、レイアの顔を見上げた。
「ねぇレイア、なんで妖精じゃなくなってるの?」
さっきまでの様な語尾に〜にゃあ を付けるのも忘れて、素のノアが機嫌悪そうにレイアに尋ねた。
「・・・それについても、一緒に話すわ」
イヴが4人分の紅茶と、城から持ってきていたクッキーをトレイに乗せて戻ってきた。
イヴが給仕を終えてコの字型に並べられたソファの端、暖炉側に座った。
するとノアが器用にカップを両手で持ち、紅茶を飲み始める。
それをシェリルとイヴが物珍しげに眺めていた。
二人の視線の先に気付いたレイアが、紅茶のカップをソーサーに置いてノアに話しかけた。
「ノア、人型になればいいのに。持ちにくいでしょ?」
するとノアはふるふると首をふり、
「嫌にゃ。魔力つかうしめんどくさいにゃ。それよりレイア、早く話すにゃ」
ノアに催促されたレイアを見て、シェリルが居住いを正した。
「シェリル、これから話す事はあなたにも関わる事なのだけれど・・・今まで話せなくてごめんなさい。あと、ノア、貴方にも謝るわ。ごめんなさい」
レイアはふたりに頭を下げ、自分の事、セオドアの事、そしてシェリルの事を話し始めた。
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その頃、皇城に残っていたハーレイは、何かに髪を引っ張られて目を覚ました。
目をこすって起き上がると、目の前に精霊が飛んでいる。
そしてその精霊からレイアから託された手紙を受け取った。
急いで手紙を確認すると、目を閉じて母とシェリルの魔力を辿ってみた。
(母上とシェリルの魔力が辿れない。上手く逃げれたんだな)
ハーレイはほっと一息つくと、精霊にお礼を告げ、ベッドにパタンと倒れた。
「父上が戻ったら大変だなぁ」
苦笑いで呟いてから起き上がると、異空間を開いて手紙を閉まった。
明日から大変そうだと確信したハーレイは、今はひとまず眠ろう、と、再びベッドに潜り込んだ。
(もし父上が母上を探しに行くなんて言い出したら、執務が僕に回ってくる・・・少しでも寝ておかなければ)
この頃、ハーレイはまだ10歳だった。




